23:ハーレムというか蚊帳の外

「いつ見てもここの景色は綺麗ですねー!」


 58層に来た俺たちは巨大な湖を目前にしていた。

 アキハがそう言うとコメントたちも反応してくる。


――本当だよな。

――ここだけは別格。

――100層以下のジメジメした雰囲気とは全く違う。

――癒やしだよなぁ、ここ。


 それには俺も同意せざるを得ない。

 たまには来たくなるのが、ここ58層だった。


 そこそこ浅瀬だということもあり、色々な人が魔物と戦ったり釣りをしたりしている。

 もちろん俺たちは釣り具なんて持ってきてないからここで商売している人に話しかけた。


 58層では自分で釣った魚を売ったり釣り具をレンタルしたりもしている。

 なので簡単に立ち寄って釣りを楽しむ、ってことも可能なわけだ。


「釣り竿を三本と餌を少し欲しい」


 釣具屋をしているおっさんに声をかけるとこちらを見てニヤリと笑みを浮かべた。


「アンタ、いいハーレムをしてるね」

「……ハーレムというか蚊帳の外というか」


 俺はリンとアキハ繋げたに過ぎない。

 それに二人で楽しんでるみたいだし、俺はやっぱり蚊帳の外なんだよな。

 しかしコメント欄もおっさんのほうに同意みたいで――。


――うやらまけしからんですよね!

――美少女二人と釣りなんてハーレム以外の何ものでもねぇ!

――そういえばこのおっさん、ハーレムだ!


 ……俺に逃げ道はないみたいだ。

 俺は肩を落としながらお金を払って釣り具をレンタルした。


「き、気を取り直して釣りをするぞー!」

「トオルさん、現実逃避はいけませんよ! 美少女二人に囲まれてるなんてそうそうないですよ!」


 うん、アキハのおっしゃる通りで。

 確かに二人は美少女だしこんな機会がおっさんにまた訪れるとは思えない。

 でももう枯れたおっさんにラブコメを期待しないでもらいたいな。


 アキハの言った言葉に何故かリンが頬を赤らめると口元をだらしなく緩めた。


「美少女ですか……? 私が……?」


 そう呟いたリンにアキハは思いきり抱きつくと言った。


「もうとびっきりの美少女だよ! リンちゃん凄く可愛い!」

「ふふっ……何だか照れますね……」


 そんな二人の様子にコメント欄は加速していく。


――てえてえ。

――これぞ神。

――おっさん邪魔だ、映んな。

――うーん、なんかおっさんがいらない気がする。


 急に冷たくなりすぎじゃないですかね!

 流石に俺でも泣くぞ!

 しかしコメント欄は辛辣で、俺に対してボロクソ言ってくる。


――おっさんはカメラマンな。

――ほら、アングルを変えて! カメラワークがなってないね!


 ……やっぱり俺って蚊帳の外で間違ってないような。


 そんな風にして俺たちは釣りを始めるのだった。

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