17:ボス戦、最強の竜種

「しかしまあ……そううまくは事は運ばないよなぁ……」


 俺はボス部屋の前でポツリと呟く。

 その階層はどうやらボスがいる階層だったらしく、俺たちが地上に帰るにはこのボスを倒さなければならない。


「これは流石にトオルさんでもマズいんじゃあ……」


 緊張した面持ちでユイが言った。

 コメント欄も心配するようなものになっていた。


——大丈夫か、これ?

——ここのボスは流石にヤバそう。

——でも俺はトオルを信じてる。

——I believe you, too.(俺も信じてるぞ)

——토오루이라면 할 수 있다(トオルならやれる)


 どうやら海外からの視聴者も増えてきているらしい。

 現在の同接は60万。

 ありえない数字だった。


 ボス戦よりも60万に見られている方が緊張するな、これ。

 しかも加速度的に同接は増えていっているし。


「だけど、行くしかないもんな」

「そうですよね……。私も力になれればいいのですが……」


 どうやらユイは自分が力になれないことを悔しがっているようだ。

 しかし俺は首を横に振ると言った。


「いいや、大丈夫だよ。それに、俺は一人の方が戦い慣れてるし」


 俺はそう言った後、ボス部屋の扉に手を掛ける。


「それじゃあ、入るぞ。覚悟はいいか?」

「はい、大丈夫です」


——おっ! とうとういくのか!

——どんな魔物が出てくるんだろう……。


 高まる緊張感の中、俺たちがボス部屋に入ると——。

 そこにいたのはそこらの竜種よりも一回り大きなドラゴンだった。


——絶対ヤバいって!

——How big!(なんて大きさだ!)


 その魔物を見て一気にコメントの流れが早くなった。


 それもそうだろう。

 間違いなくこれは普通じゃない。

 流石の俺でも分かる。


 そのドラゴンはこちらをゆっくりと見下ろしてくると、突然吠えた。


「グルァアアアアアアアアアアアアアアア!」


 その巨大な音に、ビリビリとボス部屋が振動する。

 相手はどうやらやる気満々らしい。


「うーん、これはヤバそうだな」

「……大丈夫ですか? トオルさん」


 俺が呟くと、心配そうにユイが声をかけてきた。

 こんな時でも俺の心配をしてくれるなんて、優しいな。


「まあ大丈夫だろう。何とかするよ」


——頑張れトオル! お前ならいける!

——Toru would definitely get it!(トオルなら絶対にいける!)

——Мы вас прикроем!(俺たちがついてるぞ!)


 海外のコメントは何を言っているのか分からないが、励ましてくれているのは分かった。

 俺はそれに応えるように画面に向かって親指を立てると言った。


「それじゃあ、ちょっくらシバいてくるわ」


 同接はすでに70万を超えた。

 俺はそんな人々の思いを背負って、最強の竜種と対峙するのだった。

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