14:無知すぎるおっさん
——トオル視点——
アカネは諦めたようにため息をついて帰っていった。
一体何がしたかったんだろうな……?
まあいいか。
そう思って俺は寝る前の日課である、チャンネルの確認を行う。
今日はダンジョンに行ってないから動画編集とかはなしだし。
「どれどれ、かなり増えてそうな気がするけど……って、え?」
見てみると、チャンネル登録者数は一万から十万まで増えていた。
「じゅ、10倍……。何が起こったんだ?」
え、なんか怖いんですけど。
昨日は……普通に一人で配信しただけだよな?
コラボによるブーストとかもないはずだ。
でもエゴサとかする気にはならないし……。
よく分からなかった俺は、もう気にするのをやめて寝ることにするのだった。
***
「お久しぶりです、トオルさん」
いつもの待ち合わせ場所に行くと、そこにはユイがいた。
彼女は前とあまり変わっておらず、黒髪をボブにして、大人びた雰囲気だった。
「ああ、久しぶり」
「しかしすごくバズってましたね、トオルさん」
「え? そうなのか? 確かに登録者は増えてたけど……」
そう首を傾げると彼女は目を見開いた。
「……やっぱりトオルさんって鈍感というか、世間の情報に疎いですよね」
「まあ、ネットとか興味ないし、新聞とかテレビもあまり見ないからな」
呆れたようなユイに俺は頷いて答えた。
そんな俺にユイは首を横に振ると言った。
「まあ……それがトオルさんのいいところでもあるのかも……?」
そんなところがいいところになるのか……。
「と、ともかくダンジョンに行きましょう。今日は160層のボスまでです」
「おっけー、わかった。じゃあ早速行こうか」
そうして俺たちは155層まで降りると、配信の準備をするのだった。
***
「あ、どうもユイです。どうぞよろしくお願いします」
配信が始まると、ユイはそう挨拶をした。
——どうもー。
——やあやあ。
——待ってました!
そんなコメントがざぁっと流れていく。
同接はどんどん増えていき、今は2万人くらい。
「それで、今日はゲストを呼んでます。こちら、トオルさんです」
「あっ、どうもどうも。トオルです」
頭をかきながらそう画面に映る俺。
そんな俺にコメント欄は——。
——きたぁあああああ!
——待ってました!
——今をときめくトオルさんだ!
…………ん? 今をときめく?
なんかよく分からないコメントばかりなんだが。
「トオルさんはね、まだ自分が切り抜かれたことを知らないのです。だからあまり困惑させないようにね」
——はーい。
——あれだけ切り抜き上がってるのに、認知してないんか……。
——まあ彼はネットに疎いらしいからな。
そんなみんなの反応に俺は首を傾げて尋ねた。
「その……恐縮なんだが、切り抜きってなんだ?」
そう聞くと、目を見開きユイがこちらを見てきた。
「き、切り抜きも知らないんですか……?」
「ああ、知らないぞ。まあ俺はおっさんだからな」
そう堂々という俺にコメント欄は加速していく。
——すげぇ、天然記念物だ。
——こりゃあ無自覚になってもおかしくない。
——面白いおっさんだな、この人。
面白いおっさんとはなんだ、失礼な。
俺はおっさんだけど、面白くはないんだぞ。
あまりハードルを上げるな。
俺は昔から、人の陰でこそこそしてるような影の薄い人間だった。
だからこうして注目されることに慣れていないのだ。
だから、こんな俺が注目を浴びているような状況に、思わず困惑してしまうのだった。
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