13:トオルの幼馴染

 400層のボス【伝説ゴーレム】をサクサクっと倒すと、俺は配信を終えて家に帰った。


「ふう……今日はなんか疲れたな……」


 初配信ということもあったが、視聴者たちのボケにツッコむのにも疲れた。

 なんであんなに俺に対して強い強いと言ってくるのだろう?

 俺の師匠アカネの背中なんてもっと先にあって、小さく見えるくらいなのに。


「でもやっぱりネットは信頼できないな。アカネが一位じゃないとかあり得ないし」


 だって前、子供の頃ですでに500層は余裕らしかった。

 ということは、今ではもしかすると700とか800まで行ってるかも。


 やっぱり凄いな、アカネは。

 その背中はまだまだ遠いや。


 彼女の背中を追い続ける人生だった。

 しかしそれを俺は誇りに思っている。


 そんなふうに考えていると、ピコンとスマホの通知が鳴った。


『久しぶりに私ともコラボしてください』


 ユイからだった。

 確かにユイとも久しぶりだな。

 俺は二つ返事で返答する。


『ああ、いいぞ。久しぶりにコラボしようか』

『ありがとうございます。それじゃあ明後日でどうでしょうか?』


 俺はそれに了承の返事を送ると、ソファに座り込む。

 ふう、今日はちょっと疲れたから、風呂入ったらすぐに寝るか。


 そうして俺はお風呂に入り、すぐに眠りにつくのだった。


 次の日、目を覚ますと登録者が10倍に膨れ上がっているとも知らずに——。



   ***



(アカネ視点)


 トオルの家の前までやってきた。

 良かった、家の場所が変わってなくて。


 緊張した面持ちで、そのアパートのインターフォンを鳴らす。


『はあい、トオルですけど』


 インターフォン越しに久しぶりに聞く声が聞こえてきて、私は感激する。


 って、そんな感激している場合じゃない!

 早く誤解を解かないとまずいことになるんだった!


「久しぶり、トオル。私よ、アカネよ」


 そういうと、ガタガタっと向こうで慌てるような音が聞こえてきた。


『あ、アカネ!? ちょ、ちょっと待ってな!』


 そしてドタバタと玄関に向かってくる音が聞こえてきた。

 そして扉が開き、十年ぶりに見る顔が出てきた。


「ひっ、久しぶりだな、アカネ」

「ええ、久しぶり、トオル」


 私が大手クランに入り、疎遠になってからもう十年だ。

 久しぶりすぎてぎこちない。

 そのことがおかしくて、クスリと笑うと言った。


「それで、中に入っていい?」

「もっ、もちろん! 入ってくれ」


 そして私はトオルの部屋に上げさせてもらった。

 十年前とほぼ変わらない部屋の感じに私は思わず口角が上がる。


「懐かしいわね、この感じ」

「そうだな。……十年ぶりだもんな」


 感慨深そうに言うトオル。

 それに釣られて私も感慨深くなるが、そんなことをしている場合じゃないことを思い出す。


「って、そうだ! あなた、配信で私のこと言ったでしょ!」

「あっ、見たんだ……。はずっ!」


 そう照れるトオルの姿は懐かしくて愛らしくて——。

 ……って、違う違う!

 その誤解を早く解かなければ!


「その……言いづらいんだけどね、私が凄いって話あるじゃない?」

「ああ、アカネは凄いからな。俺よりももっと先に行っている」


 うわぁ……これ、本気で信じきっちゃってるよ。

 私の子供の頃の嘘話を信じきちゃってるよ……。


「いや、その話なんだけどさ。子供の頃に言っていた、あれ。全部嘘なんだよね」


 驚かれるかと思っていた。

 失望されるかと思っていた。


 しかしトオルはキョトンと首を傾げると言った。


「え? 何を言ってるんだ? そんなわけないだろ?」


 信じられないというより、初っ端からそんなのあり得ないと信じている顔だった。


 あっ、これはまずい。

 完全に信奉者と化している。

 これはあれだ、純粋な子供の顔だ。


「いやいや! そんなわけあるの! あれは嘘だったの!」

「えー、またまたぁ。アカネはたまに嘘をつくからなぁ」


 たまにじゃなくて、結構な頻度だったんだけど!

 逆に今の私の発言が、嘘だと思われているみたいだ。


 私は大慌てで自分のスマホを取り出すと、自分の配信アーカイブを開く。


「ほら見て! 今の私の精一杯は140層くらい! まだまだなの!」

「あっ、そういえば昔アカネが言っていたな。真の上級者はものだって」


 あーっ! 何言ってるの昔の私!

 それは言っていることに実力が伴っていない私の方便だった。

 でもそれすらも信じ切ってしまっているらしい。


「うんうん、やっぱり真の上級者たちはみんな実力を隠しているだけなんだな」


 なんか変な方向に納得してるし!


「わ、私に実力なんてないの! 実はあまり強くないの!」


 必死になって伝えようとするが、トオルはそんな私を見て変に感激しているらしかった。


「ああ、やっぱり実力者ってこうじゃなきゃな! 謙遜、それこそが最大の美学だ!」


 私はもう一生、彼の誤解を解くことはできないのではないかと思ってしまうのだった。

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