12:探索者ランキングサイト
サクサクっと398層と399層を攻略し終えた俺は、400層のボスに挑もうとしていた。
——夢を見てるみたいだ……。
——頭おかしいこの人。
——何が凄いって、攻略の最適解を見つけるのが上手すぎる。
——↑そうなんだよな。RTAを見てるみたいだ。
——スキルの多様さもヤバいが、その無数のスキルから最適解を選択するセンスがヤバい。
……そんな凄いことをやっているつもりはない。
おそらく師匠ならもっと凄いはずだ。
しかし褒められて嬉しい俺は、思わず口元を緩めながら言った。
「ありがとう、みんな。でも俺は凄くないから。多分この世界はもっと凄い人がいるぞ」
謙遜でもなく本気でそう言ったのだが、どうやらコメントたちの受け取り方は違うらしい。
——多分お前より凄いやつはいないぞ(白目)
——こんな凄い人がいっぱいいて、たまるかよ。
——あなたはもっと凄いことを自覚してください。
ええ……おっさんに今さらそんな全能感を求めないでください。
冴えないおっさんはボチボチと地味にやっていくのが好きなんです。
——ユイ:やっぱりトオルさんって自覚ないですよね、そこら辺。
長年コラボしてきた相手からもそう言われてしまった。
でも、俺は知っている。
世界は広いってことを。
井の中の蛙という言葉がある通り、こんな小さなネットの世界だけで天狗になってはいけない。
「だって、俺の師匠はもっと凄いぞ。俺なんかワンパンで負けてしまうくらいだと思う」
そう言うと、胡乱げなコメントがずらっと流れていく。
——この人をワンパンできる人間がいるとは思えないが……。
——てか、師匠は何て名前なんだ?
「俺の師匠はアカネって名前だ。幼馴染でもあるな」
俺の言葉にコメント欄は混乱を極めた。
——聞いたことないな、アカネ。
——俺も聞いたことないぞ。
——しかし幼馴染とは、けしからん。
「そうなのか……? でも多分、戦闘が凄すぎて伸びてないだけだぞ」
首を傾げながら言うと、決定的なコメントが書き込まれた。
——仮にここが本当の400層だとすれば、お前が全世界で一位だし、それはないと思う。
——それには同意。多分こいつが【NO NAME】であってる。サイト見てきたら400層に到達階層が更新されてた。
——↑マジ? ちょっと見てくるわ。
「……なあ、その【NO NAME】って何だ?」
そう尋ねると、コメントたちに驚かれてしまう。
——え? 知らないの?
——まあ知らなくて当然か。ユーザーネームが登録されてないんだからな。
——↑確かに。あれは自分でハンドルネームを登録するタイプのサイトだからな。
驚かれていることに俺が首を傾げていると、ユイがコメントで教えてくれた。
——サイトとは、探索者ランキングサイトってやつですよ。これです→【URL】
「おお、ありがとうユイ。ちょっと見てくるよ」
そうお礼を言ってそのURLをスマホでタップすると、サイトに飛んだ。
ええと、なになに、ユーザーネームを登録しろって?
じゃあトオルっと。
そして、ランキングサイトを見てみると——。
第一位:トオル(到達階層400層)
第二位:アーシャ(到達階層288層)
第三位:バルド(到達階層276層)
第四位:レイ(到達階層252層)
第五位:カミラ(到達階層251層)
・
・
・
「…………え? マジじゃん」
その表記を見て、俺は思わず声をあげて驚いてしまうのだった。
***
(アーシャ視点)
その日、世界中に激震が走った。
今まで【NO NAME】だったランキング一位の存在が明らかになったのだ。
名前はトオル。
どうやら日本人らしい。
彼は普通に配信をしていたらしく、その切り抜きが全世界に発信された。
現在、その切り抜きは再生数1000万を超えている。
全世界からのアクセスが殺到したせいだった。
彼のチャンネルも秒刻みで登録者数が伸びているらしく、当初は1万ほどだったのが、今では10万を超えている。
おそらくそれも今後増え続けるだろうと思われた。
そして私は彼の配信のアーカイブを見ながら心の底から震えていた。
あれが400層、高みの舞台……!
そしてあれこそが私の目指していた目標……っ!
思わず感激で涙が出そうになるが、どうにか堪えてその配信を眺める。
恐ろしいほどの戦闘能力だった。
相手は400層のボス【伝説ゴーレム】である。
敵の圧倒的速度と圧倒的威力にも負けず、無数の手札から最適解を引っ張ってくるセンス。
そして数撃で400層のボスすらも圧倒してしまう、その攻撃力の高さ。
震えてる……体が歓喜で震えている……。
そのことを感じながら、私は日本に発つ準備を早速始めるのだった。
***
(アカネ視点)
その切り抜きを見たのは、サムネイルに久しぶりに見る幼馴染の顔が映っていたからだった。
「……え? トオルがランキング一位の【NO NAME】?」
思わずそう呆然と呟いてしまう。
彼とは子供の頃、一緒にダンジョンに潜っていた仲だった。
だから普通は喜ぶべきところなんだろうけど……。
「ああ、マズいことになった! 私トオルに嘘ついて色々話盛ってるんだった!」
そう、私は昔トオルの気を引きたくて、話を盛って色々と捏造していた。
500層は余裕だよとか、魔物なんて全部ワンパンだよ、とか。
そして切り抜きを見ていくと、私の名前が出てきた。
マズいマズいマズい!
私が師匠みたいになってるし、話を盛っているのを全部本気で信じ切ってる!
このままじゃあ、私がホラ吹き女になってしまう!
底辺配信者としてコツコツ頑張ってきたものが全て泡となって消えてしまう!
「こ、これはトオルにあってすぐさま訂正してもらわなければ……」
そう思い、私はトオルとどう連絡を取るか考えるのだった。
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