9:対決、森羅万象カメ

 そして俺たちは155層のボス【森羅万象カメ】と対峙していた。

 カメはのっそのっそと顔をこちらに向け、叫んだ。


 ——グオォオオオオオオ!


 その音圧でビリビリと空気が震える。


 ボス【森羅万象カメ】は200層までのボスで一番硬いと言われているボスだ。

 それゆえ、ギリギリで戦ってきた探索者たちは、時間がかかるせいで体力を消費する。


 200層までの関門とも呼ばれる所以だった。


——こいつは流石に時間がかかりそうだな。

——二人で大丈夫か? 結構厳しそう。


 コメント欄もゆっくり見ようという雰囲気になっている。

 しかしこれくらい楽勝だと思うので、俺は担いでいた大剣を構えて言った。


「アキハ、多分すぐ終わっちゃうけど、いいか?」

「……え? でも相手は【森羅万象カメ】ですよ? 私も加勢した方が」

「いいや、大丈夫だろう。すぐに終わる」


 アキハの言葉に俺は首を横に振ると、そう答えた。

 そう言った俺に、コメント欄は胡乱げなものになっていく。


——すぐに終わるって? そんなわけないだろ。

——流石に【森羅万象カメ】は時間かかるって。

——無理無理、そんなすぐ勝てる相手じゃないよ。


 そんな否定的なものばかりだ。

 しかし以前倒した時も、10分もかからなかった。


 ということは、成長した俺だったら、もっと短く済むと言うことだ。


「ようし、さっそくやるか」


 呟いて、俺は地面を蹴り上げる。


 スキル【達人の書・出典:瞬間伝達】を使い、敵の目前まで一瞬で移動した。

 それから【神話級・出典:破壊神の右腕】を使い、大剣を思い切り振るう。


 ズドンという重たい音とともに、【森羅万象カメ】の甲羅が凹んだ。


——なんだ、あの威力!

——たった一撃で甲羅が凹んだぞ!


 それから俺は、【森羅万象カメ】が攻撃してこようとするのを避ける。

 使用してきたのは【上級の書・出典:破壊光線】だ。


 しかしそんなトロトロした攻撃にわざわざ当たる必要もなく。

 俺は軽々避けると、再び同じところに攻撃を食らわせた。


 ——バキッ!


 そんな音がしたと思ったら甲羅は割れ、中の胴体が丸出しになる。

 俺はそんな割れた隙間に大剣を突き刺すようにして——。


 巨体が粒子となって消えていくのを背後に、俺はアキハのところに寄っていった。


「うん、結構早く終わったな」

「早すぎだと思うんですけど……! 相手はSSランクの魔物で、一番硬いとされてるんですよ!」


 俺が満足げに頷いていると、アキハが大声でそう叫んだ。

 そうかな? 師匠にはまだまだ及ばんと思うけど。


 しかしコメント欄も——。


——おかしい! この人おかしいよ!

——もしかして人類最強クラスなんじゃないか?

——いやいや、結構じゃないって! 相当だって!


 そんなツッコミが入っていた。


 えー、おかしくないと思うけどなぁ。

 俺がそう首を傾げていると、アキハが呆れたようにため息をついた。


「まあトオルさんがおかしいのはいつものことですしね」

「そんな俺が非常識人みたいに言うなって」

「……自覚してないんですか? これだから天才は」


 ええ……。

 やれやれと首を振ってるアキハに俺は困ってしまう。

 絶対俺以上の常識人はいないと思うんだが。


 ともかくこうしてボスを倒した俺たちは配信を終えて、解散となった。


 その時の最高同時接続数は3.5万人。

 次の日の俺のチャンネル登録者数は一万を超えているのだった。

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