8:多すぎるスキルの数

「やあやあ! アキハだよ! 今日はゲストを呼んでるんだ!」


 そうして始まった配信。

 バァッとコメントが流れていく。


——隣のおっさんがゲスト?

——何か普通のおっさんに見えるけど。

——おとといのリンの配信で見たぞ、この人。

——メチャクチャ強かったよな、確か。


 どうやら少しは認知されているらしい。


「リン……? もしかしてトオルさんって配信者のリンちゃんとも知り合いなんですか!?」


 コメントを見たアキハは前のめりでそう聞いてくる。

 目がギラギラしていて怖い……。


 俺が彼女の問いに頷くと、顔をグイッと近づけてきて言った。


「後でリンちゃんを紹介してください。私、リンちゃんと友達になりたかったので」

「あ、ああ、もちろん良いけど……」

「やったぁ! ありがとうございます、トオルさん!」


 凄く嬉しそうにしているアキハ。

 そんな彼女に対してコメント欄は温かい感じだった。


——良かったな、アキハ。

——ずっとリンとコラボしたいって言ってたもんな。


 そうなのか。

 それだったら、帰ったらリンに伝えないとな。

 リンだったら断ることはないだろう。


「よぉし! 気分も上がったことだし、さっそく行きましょう!」


 アキハは元気いっぱいに言う。

 彼女はいつも元気に溢れてるから、見てて気持ちがいい。

 一緒にいて楽しいタイプだ。


 そんな会話をしていると、Sランクの魔物が出現する。

 名前は【レッド・オーク】。

 火の魔術スキルを使ってくるオークだった。


「むむ……いきなりSランクですか……」


 レッド・オークが出てきてアキハの表情に緊張が走る。


 コメント欄も、


——大丈夫か?

——これはいきなり強いの引いたな。

——Sランクか……厳しいな……。


 心配するような雰囲気になっていた。


 しかし俺は【レッド・オーク】なら数えられないくらい倒しているので、無問題だ。

 何でもないように大剣を肩に担いで、俺は【レッド・オーク】に近づいた。


——おい、あのおっさん大丈夫か?

——絶対ヤバいだろ、おっさんだし。

——いや、あのおっさん強いから大丈夫。


 そんなコメントを傍目に俺は間合いに入ると、


【達人の書・出典:斬撃波】


 を使い、大剣を思いきり振るった。


——おいおい、あの距離じゃあ大剣は掠りもしないぞ?

——何やってるんだ? 素振りか?

——敵前で呑気なものだな。素人にも程があるだろ。


 確かに大剣は空振ったように見えた。

 しかし——。


 次の瞬間には【レッド・オーク】の上半身がズレ、粒子となって消えた。


——えっ……!?

——何が起きた!?

——突然、オークの上半身がズレたぞ!


 そして俺はアキハのところに戻ってくると言った。


「さあ、先に進もう」

「……流石、トオルさんですね。何をしたんですか?」


 口元を引き攣らせながらアキハが聞いてきた。

 俺は何でもないように言う。


「ああ、スキルで斬撃を飛ばしたんだ」


——そんなチートなスキルがあってたまるか!

——何その、強すぎる初見殺しスキル……。


 困惑しているコメント欄に俺は首を傾げながら答えた。


「別に普通だろ。確か達人の書だったし。……いや、神話の書だったかな?」


——何で自分のスキルを把握してないんだよ!

——達人の書と神話の書を間違えることなんてないだろ、普通!

——それに達人の書でも普通じゃないからな!


 そんなツッコミをされるが、把握してないものは仕方がない。

 だって、こんなにスキルがあるのに把握しきれるわけないだろ。


 アキハは呆れたような視線を向けてきて言った。


「トオルさんはスキルをいくつ持ってるんですか?」

「ええと……ざっと500くらいだったかな……?」


——500!?

——普通は50でも多いくらいだぞ!

——流石にこれは嘘だろ。

——盛りすぎだって。女の子の前で格好付けるな。


 うーん、盛ってないんだけど。

 まあいいや。


 それから俺たちはサクサクッと155層まで下っていくのだった。



   ***



「よぉし、ようやく155層だな」


——おい、カウント班。今まで使ってきたスキルの数はいくつだった?

——全部被ってなかったから、大体86くらいかな。

——ホントかよ……。500個のスキルもあながち間違いじゃない……?

——それに86個と言っても、全部が達人の書と神話の書のスキルだったぞ。


 コメント欄が何やらざわついている。

 俺の師匠はもっと多いと思うし、これくらいまだまだだと俺は思うが。


「何だかキャリーされてるみたいで申し訳ないですね……」

「いや、俺は構わないんだが。アキハは大丈夫なのか?」


 主に配信の見え方として。

 しかし彼女は頷くと言った。


「多分、大丈夫だと思います。何回かトオルさんに魔物を譲ってもらいましたし」


 それなら良かった。

 俺は大剣を担ぎ直すと言った。


「それじゃあ、ボス戦と行きますか」


 俺たちはその重厚な扉を開けると、155層のボス【森羅万象カメ】と対峙するのだった。


——ここのボスは200層までで一番硬いボスだからなぁ。

——そうだな、流石にこのおっさんでも時間が掛かりそうだな。

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