4:二年ぶりの再会

 目が覚めると登録者数が倍になっていた。

 最新の動画の再生回数も2000を超えている。


 普段は200〜300くらいなのに。


 どういうことかとコメント欄を開いてみる。


——リンから来ました!

——リンから来たけど、なんだこれ……?

——何やってるか分からない……。


 そんなコメントがついていた。


 久しぶりのコメントだ。

 半年ぶりくらいかもしれない。


 リンか……。

 リンって一年前にコラボしていた少女だよな……?


 そういえば今、彼女がどうなってるか知らないな。

 ちょっと確かめてみるか。


 そう思い、俺は彼女のチャンネルを開いてみる。

 すると彼女のチャンネル登録者数は100万を超えていた。


「い、いつの間に……」


 俺は思わず呆然としてしまう。

 この一年で相当差をつけられてしまったらしい。


 まあ俺としては、悲しいよりも嬉しい方が大きい。


 そうかぁ、リンももう100万人かぁ……。

 もう俺なんかとはコラボしてくれないだろうなぁ。


 そんなことを考えていたら、ピコンと通知が鳴る。


『トオルさん。久々にコラボしませんか?』


 リンからのメッセージだった。

 俺は急いで返信をする。


『いいの? 俺のチャンネル登録者数400……ってちょっと上がったけど、まだ1000人だよ?』


 そう返すと、すぐに返事が来る。


『そんなの分かり切ってますよ。だからこそです』

『だからこそ?』

『はい。トオルさんはもっと伸びるべき人なので。恩返しでもあります』


 恩返しか。

 恩返しされるようなこと、したかな?


 でも結局、その勢いに負けて、俺はリンと一年ぶりのコラボをすることになったのだった。



   ***



 俺が待ち合わせ場所に行くと、少し大人びたリンがいた。


「久しぶり」

「ええ、久しぶりです、トオルさん」


 そう言ってリンはにっこりと笑った。

 なんだか懐かしくて俺も自然と笑みが溢れる。


「今回は動画ではなく配信なので、あまり気を抜けないので気をつけてくださいね」


 そう言われ俺は首を傾げる。


「配信? それってライブってこと?」

「そうですそうです。生放送とも言いますね」


 なるほど。

 それは確かに気が抜けない。


「でも何で生放送なんだ? 編集できないだろ?」

「はい。編集はできませんけど、シーカーズでは今ライブがブームなんですよ。そっちの方が凄さが伝わりやすいので」


 そういうものなのか。

 そう思ってダンジョンに向かうと、リンはちょくちょく話しかけられていた。


「リンさんですよね!? 僕と写真撮ってくれませんか!?」

「リンさんと会えて嬉しいです! 一緒に写真撮ってください!」


どうやら彼女はめちゃくちゃ有名人になってしまったらしい。

 一年前はそんなことなかったのにな。


 彼女は恥ずかしそうに頭を掻いて言った。


「トオルさんにこんな場面を見られるのはなんか恥ずかしいですね」


 それから俺たちはダンジョンに入り、エレベーターに乗り込む。

 各階層にはエレベーターで移動できるようになっている。


「あれ? 122層? そんなところまで行ったんだ」


 前は100層が限界だった気がするけど。

 ダンジョンは100層を超えると敵が桁違いに強くなるからな。


 俺が尋ねると彼女は頷いて言った。


「はい。あれから私もそれなりに成長したってことですよ」


 そりゃそうか。

 リンは頑張り屋だったもんな。


 そして俺たちは122層にたどり着くと、配信の準備を始める。


 浮遊カメラを設置して、追尾モードにして——。


「それじゃあ、ライブを始めますよ」

「あ、ああ。頼んだ」


 少し緊張するな。

 ライブは初体験だから、仕方がない。


 そしてとうとう生放送が始まった。


「やっほー、リンよ。今日も来てくれてありがと」


——待ってました!

——やっほー。

——隣のおじさんは誰だ?


「ああ、紹介するわ。隣にいる男性が、私の師匠のトオルさんよ」


——ああ、昨日言ってた。

——動画見てきたけど、何も分からなかった。

——すごそうなのは伝わってきたけどな。


 てか、俺、師匠って触れ込みなのか。

 彼女に教えたことは基礎だけだから、そんな言われるほどじゃないと思うけどなぁ……。


 そんなことを思いながら、俺は頭を下げて挨拶する。


「あ、こんにちは。俺はリンの師匠……ではないと思うけど、トオルです。よろしくお願いします」


——丁寧で良き。

——冴えないおっさんだな。

——これが師匠?


 ぐっ……冴えないおっさんなのは否定できない。


「まずはトオルさんが戦っているところを見てもらおう。そうすれば、トオルさんがどれだけすごいか分かるから」


 ……勝手に上がっていくハードルにビビる。

 いつの間に俺はすごい人認定されてたんだ……。


 緊張しながら俺は大剣を取り出す。

 そして出てきたAランクの魔物【デストロイ・ラビット】と対峙するのだった。

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