きっと、今はそういう季節

CHOPI

きっと、今はそういう季節

 最近、何かと過去を振り返ることが多くなったように感じる。前はもっと無邪気に未来を想像して楽しんでいたはずだ。過去を振り返ることが増えた原因が、年度末、というものが見え始めているからなのか、はたまた自分が重ねている年齢という経験値のせいなのか。理由はよくわからないけど、でも確かにかつてを振り返ることが増えている。


 と言っても、そんなに大げさなことじゃない。例えばそう、去年の今頃は何をしていたっけな、とか。あるいは、数年前の幼かった自分がこの時期はどう過ごしていたか、とか。そういうことに思いをはせて、そうして今の自分と少し比較して。『あの頃の自分はこうだったなぁ』なんて、少し感傷に浸りながら懐かしく思ったりする。同時に得たもの、失ったものが頭をよぎって、そんな自分のモヤモヤとした掴みどころのない感傷的な気持に“大人になった”という言葉でラベリングをしておく。細かいことは見ないふり。そういうのも時には必要なんだと言い聞かせる。


 まだまだ寒さはあるものの、ここ数日起きたときの空気の冷たさが柔らかく感じられる。それがなんだか春の訪れを告げているかのようで、カレンダーを眺めれば暦の上では立春を過ぎていた。2月は「にげる」月とも言うし、あっという間に3月になるんだろう。


 春が好きだ。全てのはじまりの季節、という感じがして。あたたかな日差しが柔らかく自分を包み込んでくれる気配がして。穏やかな風が優しく新しい旅立ちを後押ししてくれる気がして。だけどその春がくるたびに、自分の『かつて』、が増えていく。そうして増えた『かつて』の分だけ、振り返る時間の長さも増えていく。


 『かつて』、の自分は。今の自分を見たら、何を思うのだろうか。

 ――……幻滅? 失望? ……喜びは、しないだろうな。


 そこまで考えて、少しだけ落ち込んで。そんな自分に気が付いて、心の中で思いっきり活を入れて、ちょっとだけ背筋を伸ばした。過去の自分に、少しでも。例え虚勢はってでも。


「でも、悪い事ばかりじゃないよ」


 そうやって、笑って言えるように。


 ……なんてことを考えながら、一進一退。でも本当に少しずつでも前に進むたび、振り返る『かつて』の自分たちも。


 ――……ふーん、あっそ


 そう言いながら、それでも笑って、背中を押してくれる気がするんだ。

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