リズの驚くべき提案
「……報告は以上になります」
オスカルから生徒会への勧誘を受けた日の夜、僕とリズはアンネからヴィルヘルムの動向についての報告を受けた。
ただし、学園にいる時はアンネも監視が不可能なため、あくまでこの学園寮にいる間の行動に関してのみだけど。
「ふむ……意外にも、ヴィルヘルムとオスカル兄上は、ここでは一緒に行動しないんだね」
「は、はい。オスカル殿下は
左足の怪我もあることも大きいのかもしれないが、自分の部屋に引きこもっているということに違和感を覚える。
その理由は、僕にも分からないんだけどね。
「今回の件もそうですが、あの男は明らかにオスカル殿下と示し合わせて学園に復帰しています。なら、どこかで必ず接点を持っているはずです」
「リズの言うとおりです。だから、僕も巧妙に隠れて連絡を取り合っているのだと思います」
直接顔を合わせることはなくても、手紙などによりやり取りは行っているはず。
それを押さえれば、オスカルとヴィルヘルムの思惑が分かるんだけど……。
「アンネ……今こそ汚名を
マーヤが、アンネに静かに告げる。
汚名を
「分かりました! このアンネ、必ずルドルフ殿下とリズベット様のお役に立ってみせます!」
アンネは
「アンネ、頼んだよ」
「はい!」
これで、ヴィルヘルムの動向はさらにつかめることになるはず。
だけど。
「マーヤ」
「……はい」
僕が名前を呼ぶと、マーヤは神妙な面持ちで静かに頷いた。
◇
次の日から、帝立学園内における僕への風当たりがきつくなった。
その原因は、もちろんオスカルが敵に回ったことによるものだ。
そして、それに伴い。
「ヴィルヘルム様の加入で、生徒会はますます活気づいておりますね」
「なんでも、オスカル殿下も『ヴィルヘルム様は僕の右腕だ』とおっしゃっているとか」
とまあ、クラスでもヴィルヘルムの噂で持ち切りだ。
「ハハ……俺も一応、皇族なのでな。同じ皇族で、しかも次期皇帝と名高いオスカル殿下をお支えするため、俺はこれからも頑張るつもりだよ」
「おお!」
「さすがはヴィルヘルム様ですわ!」
調子に乗ったヴィルヘルムを持ち上げる、子息令嬢の面々。
といっても。
「「「…………………………」」」
クラスの一部……特にフレドリク派閥に属する貴族家の子息令嬢は、そんなヴィルヘルムを白い目で見ていた。
今まではヴィルヘルムがどの派閥にも属していなかったため、あの男に言い寄る令嬢も多かったが、明確に敵認定となったことで離れていった。
その中には、リズに絡んできたクリステルの姿も。
ただ、クリステルに関しては派閥の問題だけではないようで、ヴィルヘルムに向けるその視線は、まるでリズのように冷ややかなものだった。
リズの想いが彼女に通じたことが、僕は本当に嬉しかった。
ということで。
「クリステル嬢の実家は、フレドリク兄上の派閥ってことでいいんですか?」
僕、リズ、シーラの三人に加え、今日はクリステル嬢も一緒に昼食を摂っていた。
リズが、教室で孤立していたクリステル嬢を誘ったのだ。
とはいえ、ヴィルヘルムから距離を置いたからフレドリク派だと思うんだけど、普通なら同じ派閥の令嬢達と一緒にいるはず。
なのに、彼女は誰もから距離を置かれていたのだ。
「いえ、スヴェンソン家は、
「今は……ということは、以前は誰かの派閥に属していたんですか?」
「その……実は、
「ああー……」
なるほど、ロビンは先日幽閉に追い込んで、その派閥は完全に崩壊したもんね。
それまでロビンを推していた貴族家としては、生き残るためにフレドリク派とオスカルは、それぞれに入り込もうと必死になっている状況だ。
これがシーラの実家であるアンデション家のように力があれば、どちらの派閥からも引く手あまただろうし、別に無理に派閥に属する必要もない。
一方で、あまり力を持たない貴族家からすれば、派閥に属することで今の地位を維持することも考えないといけない。
なのに、肝心の派閥がなくなってしまっては、新たにフレドリクやオスカルに鞍替えをしたとしても、派閥内で良い位置を確保するのは今さら困難だ。
ましては、最初は有利だったフレドリク陣営も、オスカル派によるロビン派閥の取り込みやフレドリク派の切り崩しもあって、今やその力関係は互角。どちらにつくか、非常に悩むところだろう。
せめて、どちらかから
すると。
「ふふ……なら、ルディ様の派閥はいかがですか?」
「リズ!?」
リズの突然の提案に、僕は思わず声を上げた。
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