実力試験、開始
ということで、いよいよ実力試験の当日。
僕は今、筆記試験の問題を解き終わり、見直しを行っているところだ。
まあ、学問に関しては、僕が前世にいた頃より遅れているということもあり、難しい問題は一つもなかった。
ただ、前世……三百年後の時代の常識はこの時代では非常識だし、逆もまた
よし、見直しもしたけど答えは完璧だ。
あとは、終了の合図まで何をしていようかな……。
といっても、途中退室はできないし、ジッとひたすら待つしかないから、できることといえばせいぜい居眠りくらいだけどね。
僕は目を
「そこまで!」
ようやく筆記試験終了となり、僕は担任のボリス先生に答案用紙を提出した。
「ルディ様、試験はいかがでしたか?」
「問題は全て解けましたし、見直しもしましたので大丈夫だと思います。リズはどうでしたか?」
「私も、全て解けました」
教室を出た僕達は、自信ありげに微笑み合う。
だけど、さすがは僕のリズ。槍術の腕前だけでなく、こんなにも聡明なんだから、本当にすごい
「午後は、いよいよ実技試験ですが……」
「僕の試合は最後のはずですので、リズの実技試験のほうが先に終了すると思います」
男性の実技試験は、剣術の型を審査するものと、子息同士による試合形式によって行われる。
この試合に関しては、対戦相手や試合の順番がランダムで決まることになっているが、王族の試合だけは最後と決まっている。
人数も人数なので、僕の試合まではかなりの時間があるだろうし、女性の実技試験である
「ルディ様の雄姿、この瞳にしかと刻みつけます」
「あはは、ありがとう」
リズが僕の試合を見てくれるのは嬉しいんだけど、僕以上に気合いが入っているなあ。
そんな彼女が可愛くて、僕はつい頬を緩めてしまう。
「そうと決まれば腹ごしらえです! ルディ様には、たくさん食べていただかないと!」
「わ!?」
笑顔のリズに手を引っ張られ、僕達は食堂へと向かった。
◇
「これより、実技試験を始める。まず、剣の型について、一人ずつ披露してもらう。まず……」
実技試験を担当する先生……ええと、剣術担当の“イクセル=リードホルム”だっけ。
確か、元は帝国騎士団に所属していたとかなんとか。
そのイクセル先生が、居並ぶ子息達を見回してから説明を始めた。
剣の型については、それぞれの家で流派のようなものがあるらしく、型についてもそれぞれ特徴がある。
このため、剣の型の披露における評価基準は、剣の振りの鋭さ、技術といったところを中心に見るみたいだ。
だけど。
「どうしよう……」
説明を聞き、僕は頭を抱える。
そもそも僕、よく考えてみれば剣術の型なんて、ファールクランツ侯爵に教わったことがないんだけど。
「では、最初は騎士団長の子息であるエドガーに披露してもらう。エドガー、前へ」
「はい!」
僕が悩んでいる間に、トップバッターのエドガーがみんなの前で剣の型を披露する。
さすがは騎士団長を数々輩出しているノルダール伯爵家の子息だけあって、その動きに戸惑いも乱れも感じない。
「エドガー、下がっていいぞ」
「はい」
「次は……」
こうして、次々と子息達が順番に前に出ては、剣の型を披露していった。
一瞬、誰かの真似でもしようかと思ったけど、付け焼き刃でしたところで上手くいくはずがない。
「ハア……やれることをやるしかない、か……」
剣の型を披露し終えたロニーをぼんやり眺め、僕はポツリ、と呟く。
「次! ヴィルヘルム、前へ!」
お、今度はヴィルヘルムの出番か。
エドガー達をけしかけて僕の実力を測ろうとしたんだから、当然、それなりのものを見せてくれるんだろうね。
そんなよく分からない期待とともに、ヴィルヘルムの剣捌きに注目した。
ふむ……ここまで披露した子息達と比べて、剣の鋭さや身体の使い方など、一段抜けている。
でも。
「リズの足元にも及ばない」
それが、僕のヴィルヘルムに対する評価だった。
本当にこれがヴィルヘルムの実力なら、僕が負ける要素はない。
「そこまで! ……ヴィルヘルム、見事だったぞ」
「ありがとうございます」
他の子息達には声をかけなかったのに、イクセル先生は手放しに褒め
それだけ、ヴィルヘルムの剣術はよかったらしい。
「では、最後に……ルドルフ殿下、前へ」
「はい」
僕は木剣を携え、ヴィルヘルムと入れ替わるように前に出る。
そのすれ違いざま。
「……恥をかかないように、気をつけてくださいよ」
ヴィルヘルムは、口の端を持ち上げてささやいた。
まだ僕の実力を侮ってくれているみたいで、何よりだよ。
「ルドルフ殿下、お願いします」
イクセル先生の開始の合図により、僕は剣を振るった。
「え……?」
「ひょっとして、これだけ……?」
僕の姿に、子息達は戸惑いの声を上げる。
それもそうだ。だって僕は、基本である上段斬り、胴払い、突きの三動作を延々と繰り返しているだけなのだから。
「で、殿下……その……」
見かねたイクセル先生が、おずおずと声をかけてきた。
だけど、僕はこれをやめるつもりはないよ。
これが、僕が最も尊敬するファールクランツ侯爵から教わった、大切な剣術の基本だから。
そして。
「そ、そこまでです!」
結局、どうしていいか分からず見守っていたイクセル先生の終了の合図とともに、僕は木剣を下すと。
「ありがとうございました」
イクセル先生に一礼し、僕は自分のいた場所へと戻った。
「フン」
小馬鹿にするような表情を見せるヴィルヘルム達に向け、鼻を鳴らして。
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