第24話 思案

 占い師。それは選んだ人物が人狼かどうかを知れる市民陣営の役職だ。とても重要な役職で、市民陣営の勝利の行方を左右すると言っても過言ではない。僕は今回、そんな役職に選ばれたのだ。張り付くような、早るような気持ちを抑え、僕はルール確認を行った。


 そのタブレットには基本的なルールの説明と、質問を送れるフォームしか表示されていなかった。基本的なルールとは、普通の人狼ゲームのルールのことだ。用語も若干書いてあるし、文字だけじゃあなくて絵も使っているから分かりやすい。しかし僕の知りたかったルールはそこに書いていなかったので、僕はフォームからGMに質問をすることにした。


 まず僕は、占い師や霊能者、狩人が能力を使える回数について聞いた。案の定、占い師と霊能者は1回、狩人は無制限で連続ガードもありと返ってきた。つまりここは前回と同じということだ。


 次に僕は、人狼ゲーム中の殺人について質問した。回答はこのように返ってきた。人狼ゲーム中の人狼銃以外での殺人は、他の人に死体が見つかるまでは許可されます。


 つまり、今回の人狼ゲームでも殺人は許されている。だけど無制限に殺せる訳じゃあなくて、死体が他の人に見つかったら殺せなくなるんだ。逆に死体が見つかるまでは殺し放題ってことか。このホテルは狭いしこのルールはバランスが取れているように思える。


 僕はタブレット端末から顔を上げた。ルールについては前回と同じと見て良さそうだ。そこら辺は問題ない。だとしたら次に僕がやるべきことは、城白さんとの情報共有だ。


 自分の部屋から出ると、僕は城白さんの部屋へと向かった。部屋のチャイムを鳴らすと、少しして扉は開いた。


「どうしたの?」


 キョトンとした顔で城白さんは聞いてきた。


「役職が分かったから、これからのことの打ち合わせをしようと思って。」


 彼女は辺りを見渡して小さく言った。


「入って。」


 部屋の内装は僕の部屋と同じだ。ベッドの位置から何まで、全部一緒。もし間違えて入ったとしても気付かないだろう。扉に名前が書いてあるから、間違えて入るなんてことは起きないだろうけど。


「じゃあまずは僕の役職から教えるよ。今回の僕の役職は占い師だった。」


 彼女はじっと僕の方を見つめた。透き通るような水色の瞳が、眼光となって僕を射抜いた。だけどそれはほんの一瞬のことだった。


「そう。」


 彼女は素っ気なく言った。彼女、城白さんには嘘が分かるという能力がある。つまり僕が今言った言葉に嘘がないことは、彼女にも分かっているんだ。


「それで、城白さんの役職は?」


 彼女は数秒ほど沈黙した後に言った。


「霊能者よ。」


 霊能者。それは処刑された人が人狼か市民か分かる役職だ。そして今回、その能力は1回しか使えない。


「なるほど。」


 僕は考えた。もし僕と城白さんが最初の会議で役職を明かしてしまうと、狩人は守らなければいけない人が2人になる。噛み合わせが悪ければ、僕らのうち1人が人狼に殺害される可能性もある。それはダメだ。なら僕がCOしなければどうなる? 城白さんは狩人に守られるから、少なくとも城白さんが殺されることは無くなる。狂人が占い師を騙っても城白さんには分かるし、進行上不都合なことは何もない。


「よし、今回は僕、潜伏するよ。能力も来るべき時まで取っておくね。」


 彼女はコクリと頷いた。


「それで、今回の人狼ゲームだけど、どうする?」


「どうするも何も、まだ何の情報も無いのだから普通に進行するしかないわね。」


「脱出は? 出来そうかな?」


「多分無理ね。私が過去全てのゲームに参加してきたけれど、脱出に成功したことは1度も無いわ。それに今回は物資が特に制限されている。諦めた方が良さそうよ。」


「そっか……。」


 城白さんがそう言うなら、そうなんだろうけど、それでも諦めたくないなぁ。僕だって出来れば誰にも死んで欲しくないって思ってるし。


「とりあえず私はしばらく部屋でルールの確認をするわ。あのGMだもの。どんな理不尽なルールを追加しているか分からないし。」


「それもそうだね。僕は、そうだな……。他の皆と交流してみようかな。上手く誰が何の役職かを聞き出せたらゲームを有利に進められるだろうし。」


「そう。じゃあお願いね。」


 僕は城白さんと短い話し合いをした後、彼女の部屋から出た。皆との交流……と言っても、皆どこにいるのか見当も付かない。まずは調理場にでも行ってみようかな? お腹空いてる人が料理してるかもしれないし。


 調理場に行くと、そこには矢賀くんがいた。彼は冷蔵庫に顔を突っ込み何かを探しているようだ。


「矢賀くん、どうしたの?」


 僕が声を掛けると、彼は体を震わせた。


「み、道宮くんか。ビックリしたよ。」


「あぁ、驚かすつもりは無かったんだよ。ごめんね。」


 彼は両手いっぱいに色んな食べ物を抱えていた。


「ちょっと今から籠城でもしようかなって思って。」


「籠城?」


「ほら、僕らを閉じ込めたヤツがいつ襲ってくるか分からないでしょ?」


 そう言うと彼は器用に足で冷蔵庫の扉を閉めた。


「という訳で僕はこれから部屋に籠もるから、よろしく。」


 彼は去ってしまった。残されたのは僕と妙に荒れた冷蔵庫。まぁ初めてだしGMを警戒するのも仕方ないのかもなぁ。


「あれ、どうしたの道宮くん。」


 矢賀くんと入れ替わるように入ってきたのは黒船くんだった。彼は荒れに荒れた冷蔵庫を一瞥する。


「あ〜あ。ダメだよ、そんなに散らかしちゃ。」


 うーん、これやったの僕じゃあないんだけどなぁ。


「道宮くん、お腹空いてるの?」


 彼は黒い髪を揺らして笑いながら言った。


「実は僕も今からご飯を食べようと思ってたんだ。良かったら、一緒にどう?」


 正直あんまり食欲は無かったけど、断ってしまうのは申し訳なかったから僕は彼の提案を受け入れた。


「何食べる? というか道宮くんって料理できるの?」


「うーん、ちょっとくらいなら……。」


 冷蔵庫には肉や魚、野菜がたっぷり入っている食材には困らなさそうだ。


「弱ったね。僕はさっぱりなんだ。誰か他に料理できそう人っていたかなぁ?」


「とりあえず、やれるだけやってみようよ。」


「まぁそうだね。案外上手く作れるかもしれないし。それで、何を作る?」


「そうだなぁ……。」


 僕は数秒ほど思案して、こう言った。


「コルドンブルー。」


 そして数十分後、僕らの前には歪な形の揚がった肉が並んだ。切るのに手間取り、揚げるのにも苦労した。だけど決して食べられなさそうな見た目ではない。


「美味そうだね。熱いうちに食べよう。」


 パックの白米とコップ1杯の水を用意して、僕らはそれをお供に肉にかぶりつく。衣がサクサクしていて、中のチーズがトロリと溶け出してくる。肉も、その中のハムも食感をより重厚にしている。とても美味い。やっぱり自分で作った料理はとても美味い。


「道宮くんはさ。」


 立ったまま肉に息を吹き掛けながら彼は言う。


「生き残れる自信、ある?」


 僕は白米を口に運びながら言う。


「あるよ。」


 それを聞いて彼は笑った。


「随分自信があるみたいだね。理由を聞いても?」


「それはもちろん、仲間がいるからさ。」


「仲間って……城白さんのこと?」


 僕は首肯する。もちろん、ここにいる城白さん以外の人達のことも仲間だとは思ってるけど、城白さんは他の皆より特別な仲間だ。


「彼女のこと、よっぽど信頼してるんだね。」


「うん。城白さんなら、例え僕が死んでしまっても、必ず僕らの使命を果たしてくれるって思ってるよ。」


「使命……?」


「うん。僕らの使命はGMを殺すことだ。」


 彼は目をパチクリさせた。しかしすぐに表情を柔らかくする。


「あぁ。GMって僕らを閉じ込めた犯人のことか。良いね、その名前。分かりやすいよ。」


 彼はしっかり冷ましたコルドンブルーを頬張る。咀嚼し飲み込むと、残った白米を掻き込んだ。


「でもいくら君らが信頼し合っている仲間同士だとしても、絶対に生き残る、なんてことは出来ないと思うなぁ。」


「僕は出来ると思ってるよ。」


「信頼以上の何かがあるの? 例えば……人狼ゲームがとても上手いとか?」


「そういう訳じゃあないけど……城白さんには能力がある。」


 僕はここまで言って、少し後悔した。城白さんの嘘が分かる能力は、皆には秘密にしておいた方が良かったかもしれない。とはいえ、口に出して言ってしまったものは仕方がない。


「能力ってどんな能力?」


「詳しくは言えないんだ。君が人狼の可能性もあるからね。」


「僕は人狼じゃないよ。って言っても、証明する手段が無いよね。」


 とはいえ、と彼は言葉を続けた。


「その能力、とても気になるな。もしかして城白さんだけじゃなくて、君にもあったりするの? 特別な能力ってヤツが。」


「いや、残念ながら僕は一般人だよ。僕も城白さんみたいに才能ある人間に生まれていれば良かったんだけどなぁ。」


 彼はコップに水を注いで、それを飲み干した。


「道宮くん、才能は人に生まれつき備わっているものではないよ。」


「そうなの?」


「生まれた瞬間の人間に得意なことはないよ。不得意なことはあってもね。人間の才能はこれまで生きてきた経験から形作られているんだ。」


 彼はそのまま言葉を続ける。


「だから、全く何の才能もない人間なんていないんだ。生きていれば何かしらの経験は積んでいるはずだからね。」


「じゃあ僕にもあるのかな?」


「道宮くんにもあるよ。素晴らしい才能が。今はまだそれを自覚していないだけさ。」


 そうだと良いんだけどなぁ。僕に何かしらの才能があるとは思えないんだよね。


「と言っても、僕自身自分の才能を把握していないんだ。」


 と黒船くんははにかんだ。


「料理、美味しかったよ。先に洗い物をしておくね。」


 彼はコルドンブルーをペロリと平らげた。こんな状況でも食欲が落ちないのは凄いことだ。もしかしたら、彼の才能はそういうものなのかもしれない。


「僕の、才能かぁ……。」


 本当にそんなものがあるなら、とっとと発現してほしい。そんなことを思いながら水を飲む。


「ねぇ、黒船くん――。」


 その時だった。調理場の扉が勢いよく開き、彼女らは現れた。


「先客がいたか!」


「藤田さん。それに唐雲さんも。どうしたの?」


「どうしたもこうしたもない! 腹が減ったのだ!」


 藤田さんの後ろから唐雲さんが顔を覗かせて付け加える。


「という訳なので、ちょっと調理場を空けて欲しいなって思いまして。」


「分かったよ。ちょっと待ってて。」


 僕は急いで肉を食し、洗い物をした。


「ところで藤田さんって料理の方は……?」


「出来るように見えるか!?」


「あ、はい、すみません……。」


 こうして僕らは調理場から追い出された。


「僕はこれからパソコン室で脱出の手掛かりを探すよ。道宮くんは?」


「そうだなぁ。僕は他の皆とも話がしたいから、他の場所を回ってみるよ。」


「そっか。だったら保健室に行ってみると良いよ。さっき素数野さんがいたんだ。」


「保健室か。ありがとう、行ってみるよ。」


 黒船くんと別れを告げた僕は保健室に向かった。と言ってもパソコン室と保健室はそんなに離れていないんだけどね。


 保健室に入った僕を迎えたのは素数野さんだった。彼はベッドに腰掛け、何やら本を読んでいる。


「こんにちは、素数野さん。」


「道宮様ですか。こんにちは。」


「何を読んでるんですか?」


「他愛もない物ですよ。」


 彼が持っていたのはミステリー小説のようだった。タイトルは英語だ。


「読めるんですか?」


「えぇ。嗜みですので。」


 彼はパラパラとページを捲り、読書を楽しむ。邪魔をしたら悪いかなとも思いつつ、僕はちょっと気になっていたことを質問した。


「素数野さん、最初に会った時、僕の顔を見て何か言ってましたよね? 確か、ええと……。」


「奇妙、と言いましたね。」


「あ、そうだった。あれ、何だったんですか?」


 素数野さんは本をパタリと閉じた。そしてさっきのように、僕の瞳を通じて僕の奥底を見通すような目で、僕を見つめた。


「私は今まで色んな人間を見てきました。ですので人を見る目には自信があるのです。」


 彼は目を細める。それはまるで警告のようで、警戒のようでもあった。


「あなたは……そう、とても危うい人だ。少なくとも私にはそう見える。」


「そんな。誤解ですよ。僕は悪い人間じゃない。」


「でしょうね。あなたの人柄はそれを否定しています。あなたの心は一方に象を乗せ、もう一方に蟻を乗せた天秤のよう。ですがあなたの立ち居振舞いからは全く不安定さを感じさせない。私の目は衰えてしまったのかもしれませんね。」


 そう言うと彼は立ち上がった。


「もしここを無事に出ることが出来れば、あなたとはまた会いたいものですね。他人と違うということは、やり方次第でアドバンテージを生む。羽田財閥ならあなたを良い方向へ導けるでしょう。」


 素数野さんは保健室から出ようとする。しかし何かを思い付いたように止まると、振り返らずその場で言った。


「そういえば、保健室にある睡眠薬。私が最初に目覚めた時より1本減っていましたよ。」


 そして今度こそ彼は出ていってしまった。


 僕には素数野さんの言っていることがちっとも分からなかったけど、あの人なりに心配してくれている……のかな?


 悩んでいても仕方ないので、僕も保健室を出た。だだっ広いエントランスホールに、1人ポツンと佇む人がいた。草浦くんだ。


「おおい、何してるの〜?」


 彼は僕の言葉に肩を揺らしながら振り向くと、表情を輝かせた。


「こんなところに1人でいたら危ないよ。」


「えっと、その、ルールが……分かんなくて……。」


 ああ、そういうことか。だったら誰かが一緒に見てあげた方が良いだろう。


「それなら、パソコン室の方に黒船くんがいたよ。彼に頼んで一緒に見てもらうと良いんじゃあないかな?」 


「っ! 分かった!」


 草浦くんはパソコン室の方へ駆けていった。元気いっぱいだ。


「さて……。」


 矢賀くん、黒船くん、藤田さん、唐雲さん、素数野さん、草浦くんとは話をした。城白さんを抜くと、まだ話をしていないのは墓石さんと久留宮くんだ。2人はどこにいるんだろう? 墓石さんは多分自分の部屋だよな。彼女はテコでも動かなそうだし、後回しで良いや。先に久留宮くんを探そう。


「まだ行ってない場所は……風呂場と倉庫と図書室、それとトイレかな。」


 よし、次は倉庫に行ってみよう。そう思って一歩踏み出した途端、僕は目眩のような、立ちくらみのような感覚を覚えた。疲れだろうか。2回目とはいえ、まだこんな状況に慣れた訳じゃあなかったみたいだ。ちょっと部屋で休憩してから行こう。


 そう思った僕は自分の部屋に入り、ベッドに腰を掛けた。ベッドに腰を掛けた……ところまでは覚えてるんだけど、そこから先の記憶が一切ない。気付けば僕は、ベッドに仰向けになった状況で眠っていたようだ。


「……今何時だ?」


 目を覚ました後の第一声に答える人はいなかった。当然だ。この館では時計はもちろん、ありとあらゆる時間を確認する道具を奪われている。つまり1度眠ってしまったら時間感覚が狂ってしまう。そんな時は自分のお腹に聞いてみよう。うーん、ちょっとお腹が減っている気がする。4時間くらい経ったのかな?


「疲れてたのかな……。」


 自分の部屋から出てエントランスホールを眺める。誰もいない。皆は自分の部屋にいるのだろうか? 大分時間が経ってしまったけど、倉庫にでも行こうかな。


 そう思った僕がエントランスホールを横切り倉庫に向かうと、そこには先客がいた。久留宮くんだ。彼は倉庫の中の段ボールから布のような物を引っ張り出していた。


「やぁ。何してるの?」


「道宮か。ちょっとな。」


 そう言う彼の頭はしっとりと塗れていた。それに、彼が段ボールから出していた物はタオルだったようだ。


「お風呂でも入ってたの?」


「あぁ。自分の部屋のな。シャワーを浴びた後にタオルが無いことに気付いて取りに来たんだ。」


 そう言って彼は白いタオルを自身の頭に掛けると立ち上がる。


「本当はタオルが置いてある浴場を使いたかったんだけどな、誰か使ってるみたいだったんだよ。でも俺が見た時からかなり時間が経ってるから、今なら使えるんじゃねぇか?」


「そっか、ありがとう。ところで今って何時くらいか分かる?」


「さぁ? スマホが無いからさっぱりだぜ。ちょっと腹減ってきたしかなり時間が経ってんじゃねぇか?」


 倉庫から出ていく久留宮くんの後を追って僕も倉庫から出る。


「にしても、厄介なことに巻き込まれちまったよなぁ。とっとと抜け道でも何でも見つけて出ねぇと、俺達本当に殺されちまうぜ。」


「そうだけど、今のところ無さそうだよね。脱出の方法。」


「それをこれから探すんだろうが! 俺は今から他の奴らを集めてくる。お前はエントランスホールにいろよ。」


 そう言うと彼は調理場の方に駆けていった。仕方ないのでエントランスホールでブラブラしておくことにする。


 何気なく、辺りを見渡していると、僕はふと浴場の扉に目が止まった。そこには貼り紙がしてある。使用中、と手書きの文字で。確か、これって久留宮くんが言っていたやつだよな。久留宮くんが見た時からかなり時間が経っているらしいけど、まだ使われてるようだ。


「やぁ、道宮くん。また会ったね。」


 不意に肩に手を掛けられた。黒船くんだ。


「ビックリしたよ。どうしたの?」


「久留宮くんからエントランスホールに集まるよう言われたんだ。彼もなかなか強引だね。脱出の方法を探すって言ってたけど、何か案があるのな?」


「さぁ? でも何もしないよりは良いと思うよ。」


 そんなことを話していると、久留宮くんに呼ばれた皆が続々と集まってきた。黒船くんの次に来たのは藤田さんと唐雲さんの2人だ。


「一体なんだと言うのだ! 急に乙女を呼び出すもんじゃあないぞ!」


「脱出の手掛かりを探すって言ってたよ? 藤田さん、人の話は聞こうよぉ。」


「む、そうだったか?」


 その次に来たのが草浦くん。


「えっと、久留宮お兄ちゃんに呼ばれて……。」


 そして次が素数野さん。


「おやおや、皆様お揃いで。」


 そして矢賀くんが久留宮くんに引きずられてやってきた。


「ぎぃやぁぁぁぁぁ! 殺されるぅー!」


「殺しやしねぇよ! 脱出の手掛かりを皆で見つけるんだよ!」


「そのどさくさに紛れて殺されるぅー! 引きこもらせてー!」


 ぎゃあぎゃあとうるさい矢賀くんを黒船くんが逃げないように羽交い締めにし、その間に久留宮くんが後の2人を探しに行った。 


「な、情けない……。」


 草浦くんの辛辣な一言が矢賀くんの心を傷つけた。


「仕方ないだろぉ……怖いものは怖いんだ。」


 臆病な矢賀くんを皆で宥めていると、久留宮くんが城白さんを連れてやってきた。


「後は墓石だけ……なんだが、あのアマどこにもいやがらねぇ。てっきり城白と一緒とばかり思っていたが。」


「私は見ていないわ。」


「全員で探してみた方が良いかもしれないね。」


 久留宮くんは顎に手を当て、悩むような仕草を見せたが、何かを思いついたようにおもむろに顔を上げた。


「そうだ、浴場だ。あそこには誰か入っていて、そこだけまだ探していないんだ。」


「ということは……。」


 黒船くんが口を挟む。


「彼女はお風呂に入ってるってこと? なら女性が呼びに行ってあげたら良いんじゃないかな?」


「では私と唐雲が行こう!」


「えっ、なんで私まで?」


「良いから行くぞ!」


 藤田さんは意気揚々と浴場へ向かって行った。唐雲さんは慌てて彼女の後を追う。


「あの2人、仲が良いね。」


 どちらかと言うと唐雲さんが藤田さんに振り回されてるような感じだ。


「最初からずっと一緒だったっぽいからね。」


 確かにあの2人は倉庫で一緒に見つかったんだっけ。初対面はどんな感じだったんだろうなぁ。


「ま、とりあえずアイツらが呼びに行ってる間に脱出の方法でも話し合お――。」


 久留宮くんが口を開いた瞬間だった。耳をつんざくような叫び声が、浴場の方から響いてきた。一気に辺りが緊張感に包まれる。しかしそれも一瞬で、皆がすぐに浴場の方に走り出していた。


「何があった!?」


 声を荒げて脱衣場に入る。しかし誰もいない。となると奥だ。


「緊急事態だ。入ろう。」


 黒船くんが奥の扉に入る。そこにはへたり込む唐雲さんの姿があった。


「どうしたんですか!?」


「あ、あれ……!」


 彼女が指した先には水の張った浴槽を歩く藤田さんの姿がある。彼女は不意に屈んで浴槽から何かを持ち上げた。それを見た瞬間、僕の喉から言い表せない音が飛び出そうになった。


 彼女が持ち上げた物。それがぐったりとした墓石さんの体だったからだ。

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