第22話 再会
「城白さん!」
僕は駆け寄った。知っている人がいると心強い。しかもあの城白さんだ。尚のこと、僕に安心感を与えてくる。
「あら、道宮くん。」
城白さんは水をゆらゆらと注いだコップに口を付けながら言った。心なしか、少し笑顔のようにも見える。
「城白さんがいるってことは、やっぱり……。」
彼女は無言で頷いた。嫌な予感は最初からしていたけど、僕含めて人数は10人で、しかも城白さんまでいるってことは間違いない。あの人狼ゲームで間違いないだろう。僕は再びあのゲームに送り込まれたんだ。
「道宮くんの知り合いなの?」
知り合い……ではあるけど、どういう知り合いなのか聞かれたら困るな。まさか命を賭けたゲームで知り合ったなんて言えないし。強いて言うなら……。
「仲間、かな。」
GMを殺すという同じ目標を持った仲間。僕は城白さんを信用してるし、城白さんもきっと僕のことを信用してくれている……よね?
「そっかぁ。こんなところで会えるなんて偶然だね。」
僕は城白さんに彼らの名前と今の状況を説明した。彼女は無言で僕の話を聞き終わると、コップの水を飲み干して立ち上がった。
「まずはこの事件の犯人に話を聞く必要があるみたいね。」
「この事件の犯人……? それって誰なんだい?」
黒船くんの疑問に答えるように、そいつは僕らの会話に割って入ってきた。甲高い、聞いていて不快になるような雑音混じりの子供の声だ。
「それはボクチンなのです!」
僕と城白さんは大して驚かなかった。ある程度予想は出来ていたし、前回のことで慣れていたから。しかし他の皆は驚き、辺りをキョロキョロと見回した。
「そんなところにボクチンはいないよ。これは放送。分かる?」
しかしこの部屋にはスピーカーらしき物はない。それに音がどこから聞こえているのかも曖昧だ。まるで部屋全体から響いているみたい。
「えー、という訳で皆様お待たせしました。第6回リアル人狼ゲームの開催をここに宣言します!」
第6回リアル人狼ゲーム。その言葉に困惑した彼らは声をあげた。
「俺達をこんなところに連れてきてどういうつもりだゴラァ!」
「どういうつもりって……これから人狼ゲームをやってもらうつもりだよ?」
「人狼ゲームって、市民陣営と人狼陣営に別れて、誰が人狼なのかを推理して遊ぶあの人狼ゲーム? まさかそんなことをやらせるためだけに僕らをここに集めたの?」
「そうです! そんなことをやらせるために集めたのです! ちなみに人狼ゲームが終わるまでは出れないからね!」
皆からは安堵したような、困ったような溜め息が聞こえてきた。
「じゃあ、ちゃちゃっとその人狼ゲームをやって帰ろうか。」
「危険なことをさせられるよりはよっぽど良いか。」
しかし安心しきった皆にその声の主は告げた。
「リアル人狼ゲームのルールですが、市民陣営は1日に1人を処刑することが出来まして、人狼陣営は1日に1人を襲撃することが出来ます。当然、リアル人狼ゲームなのでリアル時間に則って進行します。」
この言葉に皆は当然ブーイング。とっとと帰れると思ったら複数日はここに泊まらないといけないと知ったから、まぁそうなるよね。
「ではでは、まずは役職ですよ。人狼ゲームには役職があります。市民陣営には、市民、占い師、霊能者、狩人という4つの役職があります。人狼陣営は人狼と狂人だけです。これらの役職を使って、君達には人狼ゲームをしてもらいます。そして肝心の役職ですが、皆さんの部屋でのみ見れる仕様となっています。」
「僕らの部屋?」
「そ。鍵閉まってるやつ何個かあったと思うけど、あれが君達の部屋だよ。もうロックは解除してあるから入れるはずだ。詳しいルールとか、自分の役職とかは部屋の中でしか見れないから注意してね。」
「誰がどこの部屋とかって割り振られてるのかい?」
「いや? 君達の自由にして良いよ。」
つまりこの時点ではまだ役職は決まっておらず、部屋を決めた時点で役職も決まるということになるのかな?
「ちなみに、部屋を決めたら後から変えたりは出来ないし、他の人を部屋に入れてる時は役職の確認は出来ない設定になってるから、よろしく。」
不正は許さない感じかぁ。しっかりしてるなぁ。
「あの……。」
元気の無さそうな声。見ると、おずおずと手を挙げる草浦くん。
「僕、人狼ゲームのルール知らなくて……。」
「ルールは自分の部屋で見れるっつったっしょ。基本のルールも詳しいルールも部屋に備え付けのディスプレイで見れるの。もし理解できないなら誰かに教えてもらいなさい!」
そうか。他の人が部屋にいる時に出来ないことは役職の確認だけで、ルールの確認は出来るんだ。
「正直さぁ、もうルール説明すんの面倒臭いんだよね。だから君達で確認してくださいって訳。以上、ルール説明終わり。他になんか聞きたいことある? 無いなら今から人狼ゲーム開始ね。」
「ん……? ちょっと待てよ? このゲームってもしかしてそういうことか?」
「どうした久留宮少年!」
「いやよ、人狼ゲームって処刑されたり襲撃されたりしたら人死ぬよな? 死んだ人ってもう用は無いから帰って良いんじゃね?」
この流れ、前も見たな。この瞬間だけ、皆の顔がパッと明るくなるんだ。だけど多分、次のGMのセリフは……『なに言ってんの? 』だ。
「なに言ってんの? 死んだ人は死ぬんだよ? 帰れるって何? 土になら還れるけど。」
場が凍りつく。皆、言葉の意味を理解できないといった顔をしている。もしこの場にBGMがあったとしたら、先ほどまでは明るく楽しげなBGM。しかし今からは暗い、闇がうごめくようなBGMになっているはずだ。そのくらいGMの発言は、皆の心に闇を落としていた。
「ど、どういうこと?」
黒船くんが声を震わせながら言った。瞳孔をカッと開き、その顔から衝撃を受けていることが簡単に想像できた。
「はぁー、君達って日本語下手? 国語の授業、受けてないんですか? この人狼ゲームで死亡した人間は実際に死亡する。そう言ってるんですよ。」
唐雲さんが腰を抜かしてその場に倒れた。明確に、残酷に、一切の勘違いも許さないようにGMは宣告した。この人狼で死んだ人は実際に死ぬ。つまり、僕達は今から、殺し合いをさせられる。
「人狼は人狼銃を使って夜に襲撃してもらいます。銃です。実弾入ってます。まぁ、夜にしか使えないんだけどね。人狼はその銃を持って襲いたい人の名前を言えば、その人の部屋の鍵をボクチンが開けるって寸法ね。処刑は、まぁその通り処刑だよ。」
辺りを静寂が包んだ。例えるなら4分33秒。しばらくしてそれを打ち破ったのはGMの声だった。
「で、人狼ゲーム、始めて良いの?」
真っ先に動いたのは墓石さんだった。弾丸のように会議室から飛び出した。それを見て、他の皆も会議室から出ていく。残ったのは僕と城白さんだけだった。
「なんだか落ち着いてるね。」
「えぇ。6回目だから当然よ。」
まぁ、2回目の僕がこんなに冷静でいられるんだから6回目の城白さんはもっと冷静だよな。
「道宮くんこそ、不安じゃあないの?」
「うーん、あんまり不安って感じはないなぁ。」
だって城白さんがいるから。流石にそれを言うのは恥ずかしいけど、実際城白さんがいれば何とかなるという安心感があった。
「君達もまぁ、不幸なもんだよねぇ。」
GMは哀れむように、もしくは蔑むように言った。
「そう思うなら僕らをもう呼ばないで欲しいな。」
「それは出来ないね。出来ないよ。」
「あら、それは何故?」
GMは黙った。前回なら、GMがだんまりを決めると僕は何も出来なかったが、今の僕は違う。GMに一太刀浴びせる情報を僕は持っている。
「GM、僕はお前の目的を知っているぞ。」
「…………は?」
それは僕が初めて聞いたGMの声だった。これまで声に含んでいた嘲りとか余裕とか愉快といった感情は一切合切削ぎ落とされ、ただ空虚な響きだけを残す、そんな声だった。
「僕の高校のクラスメイトから聞いたよ。お前、このゲームを中継して金を稼いでるんだってな。」
小型カメラや録音機など、どこに仕込んであるのかは皆目検討も付かないが、GMはこのゲームを中継しており、それで金を稼いでいるらしい。つまり金稼ぎこそGMの目的なんだ。
「散々愉快犯を装っておいて、実のところ金が欲しかっただけなんて浅ましいな。所詮お前なんてその程度の――。」
「アーハッハッハッハッハッハッハッハッハッハハハハハハハ!」
爆音に思わず体を硬直させてしまった。その爆音はGMの笑い声だ。
「いったい何がおかしい!?」
「いや、おかしいよ。実におかしくて鼻水垂れながら笑っちまった。こんなに笑ったのはあの時以来だよ……。ふぅ、道宮くん。あぁ、愚かな道宮くん。逆だよ。前提が逆なんだ。」
前提が、逆?
「金が欲しいからこのゲームをやっているんじゃあない。このゲームをやりたいから金が欲しいんだ。大体、考えてもみなよ。前回の館だってゲーム終了後に取り壊して、これを新しく作ったんだよ? 倉庫にある物や図書室の本だってタダで湧いてくる訳じゃあない。このゲームを開催するには莫大な金が掛かるんだ。それをこのゲームを金持ちに中継することで賄ってるって訳だよ。つまり、このゲームをやる目的は別にある。」
このゲームをやる目的は別にあるだって!?
「残念だったね道宮くん。またの挑戦を待ってるよ。」
そこまで金を掛けて人狼ゲームを開催する理由っていったい何なんだ? まだ情報が足りないってことか。
「焦らないで。これからそれを明らかにしていけば良いわ。」
「……うん、そうだね。」
まずは落ち着かないと。そうだ、僕らはGMを殺すためにここにいる。GMに繋がる情報を少しでも多く手に入れて、必ず追い詰めてやる。
「とりあえず、皆を追いかけましょう。」
先ほど走り去っていった他の皆か。どこに行ったんだろう?
「そうだね。行こうか。」
僕らは会議室を後にした。すると意外にも、皆は早く見つかった。あの赤い鋼鉄の扉の前に、皆は集まっていたんだ。しかしそこはまさに阿鼻叫喚だった。
「出せぇ! ここから出せ!」
叫びながら久留宮くんは扉を叩いたり蹴ったりしていた。もちろん、久留宮くんだけじゃあない。唐雲さんや草浦くん、藤田さんや矢賀くんも、同様に泣いたり叫んだりしながら扉を叩いていた。そしてそれを端から眺めていたのは黒船くん、素数野さん、墓石さんだった。
「あ、2人も来たんだね。どうにか止めてよこれ。」
僕らを最初に見つけたのは墓石さんだった。意外にも冷静だ。
「墓石さんって真っ先に出て行ってなかったっけ?」
「あー、うん、まぁ、扉を殴ったらあまりの痛みで我に返ったと言いますか……。」
何とも彼女らしい。
「僕は墓石さんを止めようと思ったんだけどね。後から来た人達にボコボコにされちゃったよ。」
そう言って笑う黒船くんの顔にはいくつも傷が出来ていた。
「私は巻き込まれないようにとりあえず広いホールまで移動した次第です。この歳になると転倒1つも怖いものでして。」
素数野さんには怪我が無いようだ。良かった良かった。
「とりあえずアレを止めたいんだけど、どうすれば良いかな?」
狂乱状態で扉にかじりつく5人を何とかして止める方法かぁ。やっぱり武力しかないかなぁ。
「墓石さんって意外と喧嘩強かったりしない? さっきも久留宮くん相手に怯まず対処してたし、今回も行けるんじゃない?」
「無理だよ。正気を失ってる人間って何するか分かんないし、ボクの美しい顔に傷が付いたら嫌だもん。」
黒船くんのようにはなりたくないってことか。まぁ、確かにそうかも。
「でも草浦くんくらいなら何とかならない?」
「うーん、あの子ならまぁ。でも他の人達はどうするの?」
「私は戦力に数えないで頂きたい。老体には堪えます。」
「僕もあんまりかなぁ。まぁ体格的に唐雲さんくらいなら止められると思うけど。」
あれ、久留宮くんと藤田さんと矢賀くんどうするの?
「じゃあ道宮くんが他の3人をやっつけるってことで。」
「ちょっと待ってぇ……。流石に無理だよそれは。」
久留宮くんと藤田さんには体格で負けてるし、矢賀くんとだって互角なんだけど僕。
「私が何とかするわ。」
そう言いながら城白さんは皆の方に向かった。危ないよ、と声を掛けようとする前に彼女は動いていた。
まず彼女は久留宮くんの正面に回ると腹に一撃を食らわしダウンさせた。次に藤田さんの背後から首に手刀。藤田さんもダウン。そして唐雲さんと矢賀くんの腕を掴んで関節と逆向きに曲げ、痛みによって正気に戻した。最後に草浦くんは抱き抱えて墓石さんにパス。この間僅か5秒。
「ヒュウ。なかなかやるね彼女。」
と墓石さんは言うがなかなかのレベルじゃあない。強すぎる。
「鎮圧したわ。それでこれからどうするの?」
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