第19話 死のゲーム

「ではでは発表しちゃおうかな。惨めに負けた人狼ゲーム日本一(笑)の処刑方法はこれだー!」


 床が割れ、現れたのは檻だった。大きな檻だ。開閉口は上部に付いている。そして中には狼がいる。4頭の狼だ。


「こいつらには昨日一昨日と餌を与えていません。そんなやつらの中に人間が入っちゃうとどうなるのかなー?」


 人狼ゲームに負けた彼の処刑に狼を使うなんて、GMは皮肉の効いたやつだ。僕も大概だろうけど。


「じゃ、頼むよ。」


 GMがパチンと指を鳴らすとロボットが北野くんを拘束した。彼は特に抵抗しなかったが、僕と城白さんの方を見て言った。


「お前たちは僕を憎んでいるか?」


 僕らは顔を見合わす。


「そんなこと無いよ。確かに君のことは理解できないけど、憎んではいない。」


「私たちが憎んでいるのはGMだけよ。」


 それを聞くと彼は次に車海老くんと橋さんの方に向いた。


「お前たちはどうだ?」


「俺は……北野さんがブラッさんを殺したなんて到底信じられねぇ。けど、もしそうだったとしても北野さんは運悪く人狼に選ばれてしまってこうなっただけだって、分かってるつもりだからな。」


「わ、私は……どうだろう。私も車海老くんと同じかな。サヨちゃんを殺したのは許せないけど、元はと言えばGMが全部悪いんだし。」


 北野くんはそれを聞くと少し笑った。


「お前たちはお人好しだな。」


 彼はそのままロボットに連れられ、檻の真上に乗せられた。


「ボクチンの持つボタン1つでその檻の開閉口は開き、君は檻に真っ逆さまだよ。じゃ、最後に何か言いたいことはあるかな?」


「もちろんある。心して聞けよ。」


 北野くんはロボットに体を押さえつけられた状態で、声を張り上げた。


「GMはワンオペだ。僕と羽田が同時にそれぞれの個室で話しかけたところ、同時に返答することは無かった。それから1日に数十分ほど返答しない時間帯がある。おそらくそこで睡眠を取っている。それから――。」


 ガチャリと開閉口が開き、北野くんは狼の群れへ真っ逆さま。狼はやってきた食物へ唸りながら牙を突き立て、あっという間に捕食してしまった。彼が骨だけになるまで5分も掛からなかった。


「あんの野郎……余計なこと喋りやがって……良い気になるなよ!」


 珍しくGMが憤慨している。彼は最後の遺言に、GMの情報を選んだ。それはつまり、僕らを応援してくれているということだ。GMはワンオペで、睡眠時間が必要。これだけの情報だが、GMの正体に1歩近づくことが出来た。彼には感謝しなくちゃあいけない。


「ハァ……ま、良いか。じゃあ恐ろしい夜が~って面倒だね。はいはい、人狼は全滅したよ。市民陣営の勝ち。君たちは生き残りましたー。ドンドンパフパフー。」


 勝った。GMのやる気のない声で伝えられたのは僕らの勝利だった。僕らは人狼ゲームに勝った。僕らは人狼ゲームを生き残った!


「それじゃあ、ゲームリザルトと行こうか。こちらをご覧ください。」


GMの言葉と共に食堂の壁に映し出されたのは、僕ら10人の名前の横にそれぞれの役職が書かれた画面だった。


僕の名前の横には市民とあり、城白さんの名前の横には占い師とある。羽田くんと北野くんは人狼。そして狂人は、中内さん。狩人はブラスさんだった。


「役職持ちがなかなか活躍した回だったんじゃあないでしょうか。特にこれまでリアル人狼ゲームを運営してきたけど狂人が初っぱな騙るのは初めてだったよ。いやー、映え意識してもらって助かっちゃう。」


「ブラッさん……。」


GJを2回も成功させたブラスさん。狂人にも関わらず、顔色1つ変えずに騙ってみせた中内さん。最後まで相方を裏切らなかった羽田くん。情報が少ない中、生け贄のような形で処刑された金本くん。GMへの怒りをくれた佐々木さん。そして、最後まで僕らの前に立ちはだかった強敵、北野くん。ここでの生活もあっという間だった。死んでしまった人たちのことは悲しいけど、それでも僕らは前を向いて歩いて行かなくちゃいけない。


「あ、変な心配はしなくて良いよ。ゲームに勝った君たちを殺したりなんかしないから。このままタクシーに乗って帰ってもらいます。」


「タクシーに乗って帰るって……外に出られるのか!?」


「わ、私たち本当に生き残ったんだ! まだ実感が湧かないよ……。」


「いやぁ、参加者が喜ぶ姿を見ているとリアル人狼ゲームを開いて良かったなぁって気分になるよ。」


 こいつかなり邪悪だな。


「じゃ、出口御開帳ー。」


 GMの言葉と共に、食堂の壁が割れていく。空気が外から一気に入ってきて、思わず目を瞑る。次に目を開けた時僕が見たのは、外の景色だった。外はアルプスを思わせる丘だった。そこに人数分のタクシーが停まっている。


「実は君たちが必死こいて壊せそうとしてた玄関の扉ですがー、あれは玄関を模してあるだけで扉の奥はただの鉄の塊でーす。本当の出口はこっちなのでしたー。」


 最後の最後まで人をイライラさせる野郎だ。絶対に殺してやる。僕はそう誓いながら外へ歩みを進めた。その途中、城白さんから耳打ちをされる。


「次に会う時までに死なないでね。」


 もちろんだ。死ぬつもりはさらさら無い。だって僕はGMを殺すんだから。僕が死んでもきっと城白さんならやり遂げてくれるだろうけど、どうせなら同じ目的を持つ者同士、一緒に殺したいしね。


 僕は館から出る。足元の草の感触が、本当に脱出できたんだということを自覚させてくれる。安心感に胸を膨らませながら、僕はタクシーに乗った。


 タクシーの運転手さんはサングラスをした中年で小太りの男性だった。


「僕の家まで送ってもらうことって出来ます?」


「出来ますよ。」


 その男性の声はGMとは似ても似つかなかった。この人はGMではないようだ。僕は後部座に座り、タクシーに揺られた。しばらくすると何故か途端に眠気が襲ってきて、僕はつい寝てしまった。


 そして次に起きた時には家のベッドだった。下から母さんが僕を呼んでいる。どうやら晩御飯らしい。僕はベッドから降りて下の階に向かった。


 母さんから聞いた話によると、僕は旅行に行っていたことになっているらしい。GMの偽装工作だろう。実は命を賭けたゲームに参加してて~なんて言ったら笑われるに決まってる。だったらこのことは隠しておこう。それにこれから忙しくなる。GMの正体を突き止め、必ず殺す。そのために色んなところから情報を集めなくてはならない。僕の殺害計画は、まだ始まったばかりだ。

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