第10話 PL達の思い

 占い師と霊能者の能力がそれぞれ1回ずつしか使えない。そんな市民陣営に圧倒的不利なルールを設定したGMは、きっと公平性というものを考えていないのだろう。そもそも人狼ゲームは通常ルールで市民陣営と人狼陣営のパワーバランスが釣り合うように設計されているんだ。それにテコ入れしてパワーバランスを崩すなんて、GMはよっぽどゲームを考えるのが下手なんだろう。


 そんなことを考えながら倉庫を探索していると、足に何かが当たった。それはダンボールだった。見覚えのあるダンボールだ。ダンボールを開けてみると中にはティーバッグが入っていた。熱くなる目頭を押さえながら、僕は早足で倉庫の奥に逃げた。何が脱出に使えるかは分からないけど、なんとなく倉庫の奥の方に良い物がありそうだと思ったからだ。


 しかし倉庫をいくら漁っても、使えそうな物は出てこなかった。やっぱり金本くんが抜けたのが痛い。彼の科学知識は確実に必要だ。爆弾でも壊せないとなると、僕のような一般人ではどうすれば良いか検討も付かない。昼食の時に会ったらなんとか説得してみよう。


 しばらくすると車海老くん、ブラスさん、中内さんが合流した。しかし一向に成果は上がらない。ここにいる皆が必死で探しても、見つかるのは役に立たない物ばかり。


「うお! なんだよこれ!」


 僕の隣で小さめのダンボールを漁っていた車海老くんが突然大きな声を上げた。


「これってまさか銃か!?」


 彼が手に持っていたのは拳銃だった。


「た、弾は入ってないよね?」


「わ、わっかんねぇよ。銃なんて初めて触るんだ。」


「ちょ、こっちに銃口向けないでよ。」


 初めて見た拳銃にわたわたしていると、声を聞きつけてブラスさんと中内さんが飛んできた。


「ど、どうしたんですか……?」


「オーウ、マッスー銃刀法違反ネー。ブタバコ送りにしてやるネー。」


「こ、これはその……たまたま拾っただけなんだって!」


「怪しいネー。疑わしきは死刑ネー。」


「とんだ独裁だ!」


 ブラスさんは車海老くんから拳銃を奪い取ると手慣れた手つきで調べていった。さすがアメリカ出身だ。


「普通に拳銃ネー。全然使えるネー。しかもセーフティロックが付いてないヨー。」


「そ、それってまずいんじゃ……?」


「暴発とかあったら嫌ネー。弾は抜いとくネー。」


「だけどよぉ、倉庫にある弾薬がそれだけとは限らねぇもんな。誰かが人を殺すために使わないように隠しといた方が良いんじゃあねぇか?」


 僕もそれに賛成だ。精神的に追い詰められている状態で拳銃を見つけてしまうと良くない結果を招きかねない。


「タオルで包んでおこうよ。」


 そう言って中内さんは無地のタオルを持ってきた。確かにタオルで包めば危険じゃなくなるかも。だけどそれだけじゃあ不安だ。


「箱にシュールストレミングって書いとくネー。」


 あの臭いやつの名前だ。そんなのが書いてある箱なんて誰も開けないだろうし、名案だ。


 ブラスさんはたどたどしいカタカナでダンボール箱にシュールストレミングと書いた。そしてそれにタオルで包んだ拳銃を入れ、ダンボール群の奥の方に隠した。


「これでダイジョーブネー。」


「だ……だけどもしかしたら他の誰かが先に見つけてたりしてるかも。」


「いや、ガムテープはしっかり貼られてたし、開封された様子は無かったぜ。」


「なら僕ら以外に拳銃のことを知っている人は他にいないんだね。」


「そうなるネー。」


「まぁ、人狼は人狼銃ってのを持ってるらしいし、この拳銃が使われることも無いだろうな。」


「使うとしたら、護身用とかかな……?」


 護身用か。襲撃しに来た人狼への対抗策……というよりせめてもの抵抗のためにそういう武器を探しておくのも悪くないかもしれない。


「護身用の武器は持っておきたいけど、そんなん持ってたら他のやつらに変な目で見られそうだな。」


「マッスーがバットなんて持ったらナカナカ様になるネー。」


「俺は中高帰宅部だ。」


「護身用の武器って言っても、人狼は人狼銃を持って襲撃しにくるんだから、普通の武器じゃあ勝ち目は無いよね。」


「あれ、スルー?」


「武器というより、罠の方が良いかもネー。」


「なんだ、お前らも身を守る物を探しているのか。」


 その声はいつの間にか来ていた北野くんの声だった。


「どうしたの北野くん。」


「どうしたもこうしたもない。僕も自分の部屋に何か罠でも仕掛けておこうと思ってな。GMがそれを許すかは知らないが。」


「ちなみに話はどこから聞いてたネー?」


「車海老がバットを持ったらなかなか様になる、というところからだな。」


 良かった。拳銃のことは聞かれていないようだ。まぁ聞かれていたとしても、弾薬はブラスさんが抜いてるから使えないんだけどね。


「先に言っておくが、僕は脱出に使えそうな物を探す訳じゃあないからな。身を守るのに使えそうな物を探すだけだ。……まぁ、何か見つけたらお前達にも教えてやるが。」


「助かるネー。今のところ何も見つかってなかったからネー。」


「やっぱり金本さんが協力してくれないと脱出は難しいんじゃ……。GMがそれ単体で扉を破れるような物を倉庫に置いておくとは思えないですし……。」


「まぁ、今ここに来ていないやつにも、それとなく誘ってやれば良いさ。脱出に協力するつもりが無いやつでも、自分の身を守る物は探したいだろうからな。」


 北野くんと合流した後も、大した物は見つからなかった。そのまま時間だけが過ぎて、昼時になってしまった。僕のお腹はグーグー鳴っている。車海老くんが食堂に行こうと誘ってくれたので、僕らは食堂に向かった。


 食堂には誰もいなかった。僕らは動き回ったからお腹が空くのが早かったのだろうか。


「という訳で昼飯だけど、どうするよ?」


「どうせなら皆で同じ物を食べたいネー。」


「この中に料理ができるやつはいないのか? ここに来てから簡単な物しか食べていないから、そろそろちゃんとした物が食いたい気分だ。」


 料理か。僕は少しだけなら作れる。だけどほんのちょっとで、本格的なやつは作れない。


「じゃ、じゃあ私が作りますよ。ただ1人で作ると時間が掛かるので、どなたか手伝ってくれませんか?」


 中内さんが調理をやってくれるようだ。中内さんのことはあんまり知らないし、交流の意味も兼ねてちょっと手伝おうかな。


「僕がやるよ。簡単なやつなら作れるんだ。」


「じゃあサヨちゃんとトッシーの2人で頑張ってくれ。俺らは作戦会議もとい駄弁っとくから。」


 僕は中内さんと厨房に入った。彼女は早速袖を捲りながら冷蔵庫や冷凍庫を漁りだす。


「何か使えそうな食材はある?」


「うーん……昨日より食材は増えてるんですけど、使えそうな物は……あ、アジがありましたよ。」


 そう言って彼女は両手にアジを持って見せてきた。どうやらそれらは冷蔵庫の下にある冷凍庫に入っていたようで、ところどころに霜が付いている。


「2尾もあるからメインはこれで良さそうですね。とりあえず自然解凍のために出しときます。」


 適当な皿にアジを置いて手を洗い、再び冷蔵庫に向かう。


「というか、中内さんって魚捌けるの?」


「捌けますよ。料理は乙女の嗜みだって親から躾られてきましたから。」


 花嫁修行みたいだ。厳しい家なんだなぁ。


「魚を食べるなら白米がいるよね。パックに入ったやつが確か下の方にあったはずだよ。」


「あとは味噌汁も欲しいですね。探してきてくれないですか?」


「分かったよ。」


 インスタントのやつが棚に入っていたはずだ。僕はそれと米を探して人数分持ってきた。


「じゃあ道宮くんはご飯と味噌汁を作っといてほしいな。私はアジを煮付けにするね。」


 そう言って彼女は慣れた手つきで鱗を取り出した。僕は水を沸かし、その間に白米のパックを開けていく。茶碗にご飯を入れ、水が沸いたらインスタント味噌汁の中に入れていく。


「終わったよ。野菜とか切っておこうか?」


「じゃあお願いしようかな。」


 冷蔵庫には色んな野菜があった。その中で僕が目を付けたのはほうれん草。アジと食べ合わせが良いかはともかく、ほうれん草のごま和えくらいなら僕でも作れる。ごまは棚にあったし、調味料も揃っていたから作れるだろう。


 まずは材料を揃えた。ほうれん草、かまぼこ、ごま。調味料に砂糖と醤油。もちろん、ほうれん草を茹でるために水を沸騰させて、その中に塩を入れておく。


 まずはほうれん草を茹でる。沸騰させた塩水の中に入れて、しなってきたらざるにあげる。水で冷やし、水分をなるべく切ったら、根の方をちょっと切っておく。そして葉から茎にかけてを1口大に切っていく。かまぼこは短冊形に切り、ボウルを用意する。ボウルに切ったほうれん草とかまぼこを入れ、そこに砂糖と醤油を入れていく。砂糖は大さじ1杯、醤油は小さじ1杯で、味を見ながら調整していく。良さそうならさらにごまを入れてそれらを混ぜる。


 これで完成だ。後はこれを人数分に分けてお皿に盛ろう。ついでにコップも人数分用意して、持っていくのが楽になるようにおぼんも探しておこう。


 そうこうしているうちに中内さんがお皿に盛った料理を持ってきた。


「もうできたの? すごいね。」


「えへへ、そんなことないですよ。ただ慣れてるだけです。」


「やっぱり家では料理してるの?」


「私の家では家族全員で交代に夕飯を作ることになってるんです。私と妹と、母上と父上の4人で。」


 ご両親の呼び方に気品を感じる!


「母上にも作るのは早いって褒められたことあるんですよ。」


 彼女は誇らしげに胸を張った。作るのだけじゃあなくて、見た目もきれいだし、きっと味もおいしいはずだ。中内さんのお母さんは厳しい人なのかもしれない。


「さぁ、魚が冷めないうちに持っていきましょう。」


 魚の煮付けが入ったお皿を他の物と一緒におぼんに乗せ、最後に人数分の箸を持ってくる。これらを持って僕らは食堂に帰った。


「おぉ。魚じゃあねぇか!」


「冷凍食品ばっかで飽きてたから助かるネー。」


「贅沢を言うなら肉が良かったが……なぜか厨房の冷蔵庫には肉が無いからな。仕方ない。とはいえ、その煮付けもなかなか美味そうじゃあないか。ほうれん草のごま和えは道宮か?」


「そうだよ。良く分かったね。」


「2人で行ったのだから、1人1品作るだろうと考えただけだ。あ、水入れてくれ。」


「ミーは冷蔵庫に名前を書いた水筒を入れてたはずネー。あれを持ってきて欲しいネー。」


「じゃあ私が取りに行きますね。」


 中内さんが厨房に行っている間に、僕はウォーターサーバーで水を入れて皆のところに持っていく。中内さんが水筒を手に戻ってくると、僕らは食事を開始した。


「美味いなぁ〜。中まで味が染み込んでいる。」


「ご飯が進むネー。」


「このごま和えもなかなか口に合うぞ。」


 僕らはこの時間を、料理の感想や他愛もない話をしながら過ごしていった。そして食事が終わり、皆で洗い物をした。そうして倉庫に戻ったんだけど、その間に他の人が食堂に来ることはなかった。


「他の人達、大丈夫かな。」


 倉庫でふと呟いた僕に、車海老くんは笑顔を見せた。


「大丈夫だって。人狼が人を殺せるのは夜だけなんだからさ。」


 そうだよね。GMは、人狼銃は夜にしか使えないと言っていた。だから人狼が人を殺せるのは夜だけのはずだ。


「ま、気になるなら探しに行けば良いんじゃあねぇか? 体調悪くなってるやつとかもいるかもしんねぇし。」


「良いの? 倉庫の探索をしなきゃいけないのに。」


「ちょっとくらいは大丈夫。それにトッシーが口説いてきてくれたら他のやつらも倉庫に来てくれるかもしんないからな。」


 そう言って彼は笑いながら僕の背中をバンバン叩いた。


「じゃあ僕ちょっと行ってこようかな。他の人達にも伝えといて。」


 そう言って倉庫を飛び出した僕が真っ先に向かったのは図書室だった。そこにはまだ1回も行ったことが無かった。確か橋さんが本を読んでたから、もしかしたらそこに橋さんがいるかもしれない。僕はそう考えて最初に図書室を選んだのだ。


 自動ドアが静かに開いた後、図書室に入って1番最初に感じたのは雰囲気だった。本は人と同様、雰囲気を出すんだ。図書館や図書室ではそういった本の持つ雰囲気が1ヵ所に集められて凝縮されることで、神秘的とも言える雰囲気を発する。後は匂い。本の匂い、つまり紙の匂いは良い匂いだ。木の匂いが良い匂いなのだから紙の匂いも良い匂いに決まっている。この場所の雰囲気はそういうところからも作られているんだ。


 図書室は本棚がたくさんあって、思ったより狭い。ところどころにイスやテーブルがあり、そこで本を読むと思われる。倉庫ほどではないけど、ここも迷路みたいなところだ。


 適当に歩いていると、本棚から本を出したり戻したりを繰り返している橋さんの姿があった。


「何してるの?」


「面白そうな本が無いか探してただけ。」


「そっか。体調はどう? なんだか元気が無かったみたいだけど。」


「まあまあ回復したけど、やっぱりまだ辛いかな。」


 彼女は無理に笑っているように見えた。


「お昼ご飯はもう食べたの?」


「食べたよ。特に注意書きとか無かったから、図書室で。」


「なら良かったよ。やっぱりご飯食べないと元気出ないもんね。何を食べたの?」


「倉庫にあった乾パン。前日にミネラルウォーターと一緒に自分の部屋に持って帰ってたの。」


 そんな物があったとは知らなかった。まぁ、水は食堂で手に入るし、乾パンが食べたくなったらどこにあるか教えてもらうくらいでいっか。


「そんなにここに入り浸ってるなんて、本が好きなんだね。」


「昔から暇潰しに読んでたからそれなりに好きなだけよ。」


 彼女は伏し目がちに言った。


「私ね、ショートスリーパーってやつなの。」


「それって、1日に3時間とかしか寝なくても大丈夫ってやつだよね。」


「そ。私の場合は30分で済むんだけどね。」


「30分!?」


 そんなの僕が授業中に寝ている時間と同じじゃあないか。


「そのせいで昔は親に迷惑掛けたんだよね。夜泣きのオリンピックがあったら絶対優勝できたって良く言われたの。」


 30分しか寝ない赤ちゃんだったら確かに優勝できるかもしれない。


「ある程度の年齢になったら、夜中はずっと本を読むことにしたの。そうでもしないと暇で暇でしょうがなかったし。」


「だから図書室が好きなの?」


「本もたくさん買ってたらバカにならない値段になるし、近所の図書館で借りて読んでたからね。」


 彼女は本棚から1冊の本を取り出すと僕に見せた。


「ほら、これとか昔から何度も読み返してるほど好きなやつなんだよ。」


「へぇ、不思議な表紙だね。キュビズムみたいだ。」


「ショートショートってジャンルの本。何回も読んじゃったから内容は全部覚えてるんだけど、それでも面白いから読んでみてよ。」


「分かった。読んでみるよ。」


 本を受け取る。厚さは単行本くらいだ。


「この本、佐々木さんにも紹介したかったんだけどね。本が好きって言ってたし。」


 彼女は悲しそうな顔をした。佐々木さんが殺されたことでなんだかんだ1番ダメージを負っていたようだし、当然か。


「ねぇ橋さん、もし体調が回復してたら倉庫の探索を手伝ってほしいんだ。僕らは佐々木さんのためにも脱出するべきだと思わない?」


「それは……。」


「僕も佐々木さんの死は悲しいよ。だけどいつまでもそれに囚われている訳にはいかないんだ。僕は佐々木さんを殺したGMを殺すために脱出をしなくちゃあいけない。だからこうして頑張れるんだ。橋さんはGMに対して怒りとか恨みとか、そういうの感じない?」


「私は……感じないかな。どっちかって言うと怖いよ。いつ私も殺されるか分かんないし。他の皆が殺されていくのも怖いし。私は道宮くんみたいに強くはなれないよ……。」


「強くなれなくても良いよ。僕が橋さんの思いを背負ってGMを殺すから。だから橋さんには僕を支えてほしいんだ。まずはここから脱出して、外で情報を集めて、それからGMを殺そう。」


 彼女はクスリと笑った。


「なんか今のセリフ、愛の告白みたいだね。」


「え、いや、そ、そんなつもりじゃ……。」


「大丈夫、もちろん分かってるよ。」


 思わず顔が熱くなる。さすがに説得に熱が入りすぎてしまったかもしれない。


「ま、私も元気出てきたし午後からは手伝おうかな。きっと佐々木さんもそれを望んでるだろうし。」


 良かった。橋さんも協力してくれるようだ。やっぱり皆で力を合わせるのは大切だ。橋さんが来てくれれば他の皆も喜んでくれるだろう。


「今なら皆倉庫にいると思うよ。元気になった姿を見せてあげれば喜こぶはずだよ。行ってきたら?」


「うーん、そうしようかな。」


 彼女はいくつかの本を抱えて図書室から出た。それにしても本当に元気になってよかったなぁ。


「さてと、じゃあ次は金本くんだね。そろそろ出てきたら?」


「……貴様、いつから気づいていた……?」


 本棚の影から、金本くんが姿を表す。彼はずっと僕らの会話を本棚の影から聞いていたのだ。多分橋さんは気づいていなかっただろうけど、僕は初めから気づいていた。


「橋さんを探してる途中で姿を見かけたからいるって分かってただけだよ。図書室は静かだし、誰かが話してたら聞こえるでしょ? 金本くんならきっと会話を盗み聞きするだろうって予想してたから声を掛けたんだ。具体的にどこにいるかは分かってなかったよ。」


「たまたま先に見つけられていただけということか。しかし俺の行動を予測して的中させるとは、なかなか人間を観察する能力が高いようだな。」


「そんなことはないよ。」


 そう言いながら僕はイスに座るよう促す。


「単刀直入に言うけど、倉庫の探索を手伝ってほしいんだ。全員で脱出という訳にはいかなかったけど、これ以上犠牲者を出さないためにも頑張って脱出を目指してみない?」


「断る。俺は協力などしない。」


 彼は力強く言った。


「それはどうして?」


「簡単だ。昨日俺は確かに協力した。知恵を絞り、肉体に鞭打ち、爆弾を作った。しかしその結果がどうだ? そのことが原因で俺は昨日疑われた。協力が原因で、俺は命を落としかけたと言っても過言ではない。そんな体験をしたのにも関わらず、まだ協力しろと言うのか? 自分勝手にも程がある。」


 なるほど。金本くんは昨日自分が疑われたのが心に来ているんだ。確かに金本くんの心情を思うと辛いかもしれない。


「先に言っておくが、説得は無用だ。俺は何を言われてももう協力しない。俺に構う暇があるなら他のやつを誘うんだな。その方が有意義な時間の使い方ができるだろう。」


「そっか。分かったよ。だけど、倉庫には色々物があるし、人狼に襲撃された時のために罠とか作っといた方が安全だと思うんだ……。」


 彼は僕の話に耳も貸さず、身を翻して図書室から出ていこうとする。しかし途中で思い付いたように立ち止まり、こんなことを呟いた。


「貴様はやはり俺の思った通りの人間だ。」


 そして今度こそ彼は行ってしまった。図書室にはポツリと僕だけが残った。


 いつまでもこんなところに居ても仕方がないので、僕は橋さんから渡された本を手に図書室から出た。まだ姿を見ていないのは羽田くんと城白さんだ。僕は1度自室に戻り本を置いた後、館中を探し回った。しかし2人はどこにもいなかったので、とりあえず倉庫に戻ることにした。


 倉庫では新たに加わった橋さんと共に皆が探索をしていた。どんな物が使えるか、どうすれば扉を破れるかを話し合いながら僕らは探索を続けた。倉庫にある物はほとんどガラクタばかりで、使えそうな物はほとんど無い。また、なんだかよく分からない化学薬品や気体を詰めたビン、明らかに触ってはいけないと表示されている謎の箱など、金本くんがいれば何かに使えたかもしれない物もたくさんあった。しかし最後まで金本くんや羽田くん、そして城白さんは倉庫にやってこなかった。そして時間だけが無為に過ぎ去り、あの声が館中に響いた。


「午後6時になりました。これより、夕方の議論を開始しますので、PLの皆様は食堂に集まってください。」

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