第10話 三度目の対峙

「おんどりゃァァーー!」


 掬い上げる斬撃がスライムにクリティカルヒットする。

 宙を舞い、地面に落ちたスライムは勝者であるボクの顔を軽く見上げるとその場に倒れた。


 ……いや木剣だから打撃なのかな。

 それに実際の所倒れてても立ってても違いがわかりにくいけど、目をぐるぐる回しながら動かなくなってるのでたぶん大丈夫。


 持ち上げて軽く背中? を叩くと鉱石がいくつか口から吐き出された。

 拾って腰籠に入れ、スライムは人目の付かない脇道に寝かせておく。

 退治する人が多いけど、村を襲ったりするような凶悪なモンスターでなければボクはわざわざ命を奪おうとは思わない。

 それはあのスライムに負けてなお、生き延びているボクが自分に課した決まり事だからだ。


 ボクはあれから半年の間、鍛錬を続けていた。

 ちなみに今倒したスライムは地下のスライムではなく、ダンジョン1階の入口付近で出会った青スライム1匹だ。

 鍛錬の成果が如実に現れているようで、スライムと一角ウサギなら1対1の状態ならギリギリ勝てるまでの実力を身に着けたんだ。



「ふぅ……ちょっと早いけど今日はこれくらいかな……」


 すっかり採取と鍛錬もといモンスター退治のルーティンにも慣れ、お金も4万パルほど蓄えができた。

 そろそろ次の村を見据えてもいい頃合いかもしれない。

 もちろん……やつを倒してからね。


 軽い足取りで村へ戻るとロプ爺さんの店から物々しい集団が出てくるところだった。

 騎士だろうか? みんな豪華な鎧で身を包み込んでいる。

 ボクなんて未だに鎧すらないってのに羨ましい限りだ。


 あんな団体さんの後だから、接客で疲れてるだろうし……挨拶は控えておこう。

 ボクも今日はこのまま帰って寝るつもりだしね。


 なぜなら……明日スライムやつに挑戦することを決意しているからだ。

 強くなっているたしかな実感は何も考えずに挑んでいた頃と比べると心境の変化をボクにもたらしていた。

 武者震いする手を握りしめ、ボクは寝床についた。



 翌日。

 ボクはスライムやつと三度目の対峙を果たしていた。

 2度の敗北を喫した広間で向かい合う。


「この半年の成果を見せてやる!」


 ボクが高らかに宣言した瞬間、スライムは飛び込んできた。

 変形した部位がドロップキックの形でボクの顔を狙うもボクは横に転がりながら、攻撃を躱す。


 ――見える……! あいつの動きが追えるようになってる!


 たしかな成果を実感したボクは間合いを詰めて木剣を横薙ぎに振るう。

 しかし、あいつも自ら体を平たく潰しボクの攻撃を躱す。


 実力が伯仲している者同士の戦い。

 ――これは先に気を抜いたほうが負ける。


 お互いが決定打を繰り出すことなく、かすり傷を増やしながら10分ほどの死闘が続くこととなった。


 そしてスライムがシビレを切らし大技のラリアットを繰り出した時、ボクはしゃがみ込んで空振りを誘った直後に渾身の突きを繰り出した。


 ボクの突きはやつの眉間に深々と突き刺さりその勢いで壁に叩きつけられたスライムは目を回しながら地に落ちた時、この死闘が終わりを告げたんだ。

 壁に叩きつけられた時に何かを吐き出したようにも見えたけど。


「かっ……――勝ったぞ! ボクの勝利だー!!」


 1階にも届きそうな勢いで魂の叫びに喉を震わせる。

 だが、そこで目を回しているスライムを見ると両目があり、傷跡もなくなっている。


 ……あれ?


 よくよく辺りを見回した時、何かが落ちていることに気が付く。

 それは前に雑貨屋で進められた虫除けシールだ。

 形は傷口バージョン。そして2枚。

 恐らく冒険者が落とした物を興味本位で付けていたのだろう。


「モンスターが虫除けなんてつけるなよぉぉぉッ!」 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る