第9話 伝説の鍛冶師

◇◆

「くくっ……探したぞ。まさか音に聞く伝説の鍛冶師が初心者の村にいるとは盲点だったよ。ロプ爺さんなんて柄ではないだろう。なぁ……ロプス」


 白銀に輝く鎧。そして鎧に施された細やかな装飾。

 その豪華な鎧が引き立て役にしかならないほどの美貌を持つ女性が、武器屋の中でロプスと向かい合っていた。


「俺は伝説の鍛冶師なんてもんじゃねえ……それにどこで商売しようが俺の自由だろうが――で、要件はなんだ? あんな兵隊をぞろぞろ店の前に置いとかれたら商売あがったりだぜ」


 大きく溜め息付きながら女性に半眼を向けるロプス。


「私はOrange所属。異世界攻略部隊総司令『イザベラ』だ。要件など言わずとも分かっていよう? 外に置いてある鎧。あれは伝説の鎧のレプリカだろう? 本物を売ってもらおうと思ってな」


「何言ってやがる。あれが本物だろうが」


 ロプスは高圧的な態度を崩さないイザベラに辟易したように頬杖をつきながら、中古の鎧を顎先で指した。


「バカを言え。どこに伝説の鎧を雨風に晒される屋外の中古棚に飾るやつがいる!」


「はぁぁぁ……お前のような傲慢なやつ相手に商売をする気はないんだ。あれが気に入らないなら俺作成の……この『300億』の鎧がご所望なのかい? 伝説なんて柄じゃ~ないがなぁ」


 ロプスはカウンターから面倒くさそうに立ち上がるとカーテンを勢いよく引いた。

 そこには屋外に置いてある鎧そっくりでありながらも、神秘的な空気を纏う見る者を引き寄せる、えも言われぬ魅力が立ち込めていた。


「こ……これだ……これこそが探し求めていた鎧! くくっ……だが見誤ったなぁ……おい!」


 イザベラが脇に控えていた騎士に一声かけると背負っていた荷物を店の床にバラまいた。

 煌びやかに床に落ちるモノ――

 それは300億を優に超える金額に換算することができる量の貴重な鉱石や金塊だった。


「異世界の先頭を走る私たちが払えないとでも思ったか? これで交渉……いや、商売は成立だな」


「あ……ああ。俺が決めた金額をお前が払った以上、文句は付けられねえな……」


「商売人たる者かくあるべしだな。それではこの鎧はもらっていくぞ……!」


 イザベラの声と共に鎧をトルソーから外すと丁寧に梱包していく。

 手際よく梱包を終えるも、金塊は乱雑に床に散らかしたまま騎士は鎧を詰めた荷を背負う。

 騎士が迷う事なく店を出ていくとイザベラもロプスへ背を向ける。


「これだけの金があればこんなボロい店を続ける必要もなかろう。まぁせいぜい余生を謳歌するといい」


 そう言い残し当初から一貫した傲慢な姿勢を崩すことなく、イザベラたちは店を後にしたのだった。

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