第7話 勢いの再戦
恥ずかしさから逃げるように酒場を後にしたボクは、疲れた体を癒すべく宿屋へ戻った。
「だぁ~~~! 体中が痛いっ!」
新人向けの宿は朝夕のご飯付きで1泊1000パルという破格の安さだ。
モンスターと戦うようなダンジョンではなく、鉱石採取や薬草採取で稼げる金額は1日でおよそ3000パルなので、ありがたすぎる存在だ。
初心者向けではない場合、3000パルがだいたい宿の最低価格らしいからね……
モンスターを倒せるようになれば1日1万パルも夢ではないんだけど、それを今日実行して散々な目にあったので堅実にいかねばならない。
ボクは明日からは採取は2000パルを目安として、その後にあのスライムを討伐するための特訓の時間に当てることを決意しつつ、傷薬を体に塗り終えると深い眠りに落ちていった。
翌朝。打撲の痛みも引いて動きに支障はなし。
ボクは寝ぼけまなこで支度を整えると、宿から用意された朝食を食べて出発した。
向かう先は採取なのだが、その前に雑貨屋に立ち寄ってみる。
ピンからキリの品揃えだが、鉱石や薬草の採取に地味に便利な道具が置いてあることもあるので、出発前にいつも確認する癖がついているんだ。
「お~新人は朝がはええな~どうだい虫除けの護符を仕入れたから、採取中の虫対策にお勧めだぜ? モンスターにはもちろん効かねえがな!」
「ん~……いくらかな……?」
「10枚セットで1200パルのところをしょうがねえ……1000パルでどうだ!」
「ボクには高すぎるっ!」
「残念だな~シール形式にして色んな形にしてあるからオシャレにもなるのになぁ……」
ボクはオシャレと聞いて心が震度7の揺れに見舞われたが、今は実用性にお金を使う時期だ。
並べられた護符もといシールを見ると、呪文なのか模様なのかそれっぽいモノもあるが、ハートマークのシールや、絆創膏そっくりなもの、切り傷に見えるようなシールと統一性が皆無なところが雑貨屋らしい。
また、シールではなくアクセサリ的に付けるトンボ型の虫除けも置いてある。
たしかに効果は高そうだけど……
「じゃあこれはどうだ? あ、こっちも――」
商売根性逞しく、次から次に品物が出てくるので、心が揺れ動くが金欠がゆえに最大限の自制心を発揮し、山菜取りにも使える小さい腰籠だけを購入するに踏みとどまることができた。
薬草取る時に便利だからね。
雑貨屋の後に近場の森で薬草と鉱石の採取を終えると、ボクは村に戻らずそのまま木剣を振るい鍛錬に励んでいた。
――が、1時間ほどすると焦る気持ちを抑えられなくなり、ダンジョンの地下へ向かうことに。
昨日は油断していたからだ。
あいつの攻撃方法も分かっているんだし、やれないことはないはず……!
入口に入ると足音を忍ばせるようにつま先歩きに切り替える。
ゆっくり……慎重に進み昨日の戦闘場所でもある大広間を覗いた時、やつは細道ではなくすでに広間の中心に鎮座していた。
「昨日のボクと一緒だと思ったら痛い目を見るよっ!!」
振り向いたスライムと睨み合う。
昨日とは違いやつも出方を探っている様子だ。
気を抜けば殺られる――
このヒリついた緊張感はボクの集中力を極限まで研ぎ澄ませてくれる。
そして……ボクが大きく息を吐き出したその時を狙って
ボクが相手の体当たりをギリギリで躱すとその勢いのままに岩の壁へ激突した。
チャンスだ――!
「もらったァ――――ッ!」
達人同士の決闘というものは一瞬だ。ボクは
だが、壁に激突したスライムはその弾力を生かし突撃した勢いを殺すことなくボクの顔目掛けて跳ね返ってくる。
その軟体な体の一部が見覚えのある形――そうドロップキックの足の形へと変形する様をボクは見届けることしかできなかった。
「へぶぁっ!!」
おかしな声と共に目の前の景色、もとい意識が遠のいていく。
最後に見た景色は、肩? 越しにボクを一瞥し、誇りと威厳を持った姿で去っていくやつの姿だった――
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