第5話 ド級初心者の村
ボコられた。
簡単な報告で申し訳ないけどボコられた。
死闘とかじゃなくて、手も足もでないほど一方的にボコられた。
軟体な体なのは知ってたけど、まさか体の一部をラリアットの腕形に変えてぶちかまされるのは想定外だった……変形させた部分めっちゃ硬いし。
しかもラリアットで浮かされた後に〇斗百裂拳ばりに突かれたけど、幸い秘孔じゃなく、ただ突かれただけで、ひでぶを回避できているのが救いだ……。
そもそもスライムって、あの体を生かして相手を窒息させたりするのが戦術じゃないの? なんで完全物理攻撃なの?
薄れゆく意識でまた細道に帰っていったのは見えたけど、止めを刺されなかったのはよかった……
というよりもあの強さ……きっとあの細道の先に重要なお宝……いや、伝説の武器が眠っていて番人だったりするんじゃ!?
ボクの鼓動がまたしても高まっていく。
だが、ここですぐにリベンジに走ってもこの負傷具合では結果は見えている。
いったん傷を癒すためにボクは村へ戻ることを決意した。
この負傷具合で遠回り、かつ崖登りは辛いがそんなことは気にならない程度にはボクはこの発見に浮かれていた。
体を引きずりながらようやく村に到着する。
ここは『ド級初心者の村』
異世界に転生したばかりの新人を中心に受け入れる村は数多くあり、その中の一つだ。
他にも村や街はあるけど、初心者向けの村でないと宿代や食事代がかさむので、ここでまとまったお金を貯めるまでは、他へ行くことは結構自殺行為に近い。
と言われていたのは過去の話らしい。
最近はもう異世界への準備を入念にした上で転生してくる人も多いので、初心者の村は素通りされている傾向が強い、というか今この村にいる新人はボクだけっぽい……。
みんな率先して強いモンスターが生息する地域の村を拠点にしたがるらしいからね。
それに、神様とか英雄と呼ばれた人たちが住んでいる村もあるようで、そこを血眼で探す人も後を絶たないようだ。
「よぉ~新人。苦戦してるようだな~」
声を掛けてきたのは武器屋のロプ爺さんだ。
この異世界に来て1人で右往左往している時に懇切丁寧に物事を教えてくれた恩人でもある。
ボクのように現世出身ではなく、異世界出身らしい。
現世事情がとても好きでラノベや漫画の話のほうが異世界事情の話より長く、恩人でなければ立ち去っていただろう。
腕回りの筋肉が明らかにボクの倍はある筋骨隆々のガタイ。さらに茶髪のモヒカンに同色の髭をもっさりと蓄えている。
種族は不明だけど、ドワーフばりに肉が付きやすいのだろう。というより絶対ボクより強いしね……
このロプ爺さんの店は新人向けの武器を扱いはしているものの、初心者の村らしからぬ上級者向けの武器まで幅広く取り扱っている。
まぁ上級者向けの武器なんてお高くて買えないんですけどね……
ボクの手持ちの『リグナムバイタの剣』もここでもらったものだ。
名前の響きはとても良いけど、実体としてはリグナムバイタという木を剣の形に加工した『木剣』だ。
買ったわけではない。だってお金ないんだもん。
あまりの金欠に見兼ねて、余りの木材を即興で加工してくれたのはとてもありがたかった。
「ふふっ……たしかに今日は不覚を取ったけど、感触として良好だよ……! まぁ見ててよっ」
よくよく考えると一匹も討伐していないんだけど、あの空洞を見つけたので良しということにしておこう。
「ガッハッハ! 威勢が良いのは新人の特権だからな~! まぁ早く新人向けの武具を卒業してうちの店に貢献してくれやっ」
気軽に言ってくれる……。
新人向けの武具から卒業したら、一振りの剣でも10万パル以上するのが当たり前だ。そんなの無理。
ちなみに新人向けの武具であれば5000パルで剣。防具も合わせて1万パルあればなんとか一式揃う、というところだ。
そこからジャンプアップするにも程があるだろ。と、もじゃ髭を毟りたくなる衝動に駆られるが、返り討ちにされること間違いなしなのでここは抑えよう。
「え~善処はするけどさ~……買うとしてもこの店の前に雨ざらしにされてる中古とかかなぁ……それにロプ爺さんのお店の武具変なマーク入ってるから……こういう中古の鎧ならマーク入ってないし、なんかこの鎧好みなんだよね」
「おいおい~そこらへんのは3万パルがいいところだ~それじゃ俺の店が潰れちまうぜ~? それに変なマークって言うな。それは俺の作ったサインだ! こればっかりは外せないからなっ! サイン付きならアフターケアも万全保証ってな! まっ期待しねえで待ってるさ!」
そう言い残してロプ爺さんは自分の店に戻っていく。
ロプ爺さんの後ろ姿を見送った後、傷薬などの消耗品を新人割引で購入し情報収集のためにボクは酒場へ向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます