第2話 プロローグ その1
異世界転生。
もうこの事象はすっかり受け入れられているこの時代、むしろ人々の興味は『誰』を送り『何』を持ち帰るかに注がれるようになっているんだよね。
持ち帰った異世界の遺物。
これを利用して財を築くもよし、企業に売るもよし、持ち帰れば一生いや、人生5回は遊んで暮らせることは確実だ。
〇ンターライセンスよりちょっと安いと思ってくれればいいと思う。
そんな恩恵を求める人々、そしてそれは自分自身も例外じゃない。
なぜなら今の状況を逆転するにはとても都合がいいからだ。
逆転とは言っても、家庭環境は貧しい中でも恵まれていると自分では思っている。
だからこそ、女手一つでここまで育ててくれた母ちゃんに恩返しをしたいということだ。
そしてペット……いや、妹の文鳥。
『ナ』イトホーク・フラン・ド・エル・ウル・ラピュタ・ジョルジ『ュ』三世
子供心に浮かれて付けた名前。誰もフルネームを覚えてくれない。
みんな呼ぶときは『ナユ』と呼んでいた。
ペットショップで8年ほど売れ残っていた強者であり、それで日々通って構ってたら店長が譲ってくれたのだ。
一緒に10年の歳月を共に過ごし、どこに行くにも一緒で肩があの子の定位置だった……。
とても可愛がっていたのに、2年ほど前に死んでしまった。
周りは文鳥としては大往生なんて言うけど、もっと世話が上手であればもう10年は生きられたと今でも思っている。
抱きかかえながら最後を看取ることはできたけど、自分自身の不甲斐なさで涙が止まらなかった。
だから異世界に渡り、もう一度会いたいという思いも正直に言えばある。
そんな、ぼくこと『
転生システム『ハートライフ』
このシステムはかなり昔から完成していたらしい。
とは言っても一般人まで異世界転生者に選ばれるようになったのは10年ちょっと前くらいだけど……。
SNSの猛威は留まることを知らず、端末を1人1台……いや、5、6台持っている人も珍しくない。
みんなは『いいね』というものを知っているだろうか。
それは様々なSNSで活用されるハートマークのただのボタンであり、それは他者への共感であったり、既読のサインだったり使い方は多様。
そんなハートマーク。現在は気軽に付けることは厳禁というか、できなくなったんだ。
なぜなら『1いいね=1000万円』これが現在の『いいね』の金額だからね。
そう過去に気軽に付けていた人には信じられないかもしれないけど、『いいね』は予め購入した数しか付けることができなくなっているんだ。
先の『ハートライフ』ができて『いいね』の価値はうなぎ登りとなった代償というか……でも、この1000万という金額は高いものではない。
それは『ハートライフ』のシステムに関係している。
『転生』それは一度死んだ者が新たな命を経て誕生することを指している。
ようするに転生させ、異世界に送るには一度死んだ者を生き返らせる仕組みが必要なんだけど……
そこで利用されるのが『いいね』である『ハート』。
ハートライフは『ハート』と『ライフ』を等価交換できる仕組みであり、『ライフ=命』、そう『いいね』は異世界での命と同価値となったんだ。
さらに異世界のモンスターにライフを与えることで、自分の
逆に1000万程度でこのような利便性を得ることができるなら安いとさえ言ってもよさそう。
『いいね』が100万個なんて当然な数々のインフルエンサーと呼ばれた者たちが異世界に転生していった。
中には『いいね』が7200万個付いた猛者もいたと聞いてちょっと震えたけど。
今現在、この現世から確認できている異世界は8個。
うち4個は魔王が討伐されているので、狙うのは残り4個の異世界のどれかなんだけど、悲しいかな……残り4個の好きな異世界に行けるわけではなく、その中で一番近い異世界を選ぶしか今は方法がないんだよね……
魔王が討伐されている異世界なら好きな異世界にいけるけど、それはダメだ。
なぜなら魔王討伐後の世界はライフを消費せずに移動できる代わりに、モンスターが生まれることはなくなっており、お宝を探し放題、多大な人数がひしめき合っているからだ。
現に第1異世界と呼ばれる場所は遠い昔に浦島さんという人物が幻獣『玄武』と共に救ったと言われる世界なんだけど、もうすっかり観光名所と化している。
第4異世界はつい先日に第3異世界解放から、200年振りに魔王が討伐されたばかりで宝探しでなだれ込む人で溢れている。
と言うよりも第4異世界が解放されたから、募集人数が増えたんだよね。
正直感謝している。
でも……だからこそ――その合間に第5異世界へ転生し、こつこつと強くなって魔王に挑むのが人生逆転の鍵になると信じている。
そんな壮大で途方もないような夢を胸に秘め、談笑を織り交ぜながら数少ない友人の1人――。
幼馴染と言ってもいいほど小さい頃からの付き合いである優斗に見送られ転生システムのある会社へ向かっているところなんだ。
「無事に資格を得たようでよかったな~ずっとそのために頑張ってきたんだもんなぁ。高校卒業後もバイトで食い繋いで異世界に応募してたかいがあったな~」
「最近は攻略後の異世界のほうが人気だからね! 魔王が討伐されていない異世界へ行きたいっていう人は希少なんだ。 ぼくにとってはありがたい話だね!」
浮かれ気味の自分を少しだけ侘しさを伴った表情で見ている優斗。
――大丈夫。
このために今まで準備してきたんだから心配は不要さ。
体験談も目を通したしバイトや通学の隙間時間に異世界ラノベも1000冊以上は読んだんだ……死角はない!
「まぁでもお前の場合、昔のペットが
「そんな都合よく事が進むなら苦労しないよ~……」
とか言いつつ自分の中では、あいつが会いに来てくれることを期待してるんだけどね!
なんて言葉とは真逆のことを考えていたけど……これから自分に降りかかる災いなんて予兆さえも感じることができていなかったんだ。
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