ハートライフストーリー ~転生したら人間より弱く・・・そんな最弱ホビットに起こる奇跡~

赤ひげ

第1話 ド級初心者の洞窟

「おぉぉぉ――ッ! あんなに相手できるわけないってーーッ!」


 青や黄や緑、個体ごとに滑らかな体と個性的な色を携えるスライムたち。

 どこに突き刺そうとしているのか角を向けてくる一角ウサギたち。

 人が落とした武器を拾ったのかな? 良い装備で固めたゴブリンたち。


「待て……待って! 待てってばぁぁぁ! いやぁぁぁぁぁ~ッ!」


 力の限り叫びつつも足を止めることはない。

 だってあいつら止まる気配を一切見せない……と言うよりも言葉が通じてない可能性のほうが高いんだもん……。


『スラーーッ!』

『ブゥーーッ!』

『キキャーーッ!』


 うん。通じてなさそう。

 まぁ通じないから争うわけで……いや、それ以前の問題?

 人類みな兄弟というのに……うん。人類じゃなかったわ。

 ダメだ。バカなことばっかり考えてたらほんとに追いつかれそう……。


 こんな状態だけど、実はこの異世界で成り上がることを心に誓い、その目標に向かって突き進んでいる。

 そのためにやることは様々な異世界でモンスターを討伐し、末は魔王と呼ばれる存在を倒すことだ。


 ――と言っても1人っきりでそういう旅をする者は少ない。

 なぜならこの異世界には『パートナーシステム』というものがあるからだ。


 『ライフ』と呼ばれるハート型のアイテムをモンスターに与えることで、自分の相棒パートナーとして一緒に戦うことができるとても素敵なシステム。

 現世から持ち込むか、極々稀にライフを生成するモンスターもいるらしくなかなか入手何度の高いアイテムである。

 人から買う場合も気軽に買える値段では取引はされない……


 だからこそ重要で、極端な話を言うとライフを100個持って入れば100種のモンスターを相棒パートナーにすることだって可能な夢のアイテムなんだ。


 でも注意なのが1人で契約できる相棒パートナーの数は10種まで。

 11種目を相棒パートナーにしたい場合は間接契約が必要なんだ。

 ようするに自分の相棒パートナーとモンスターで相棒パートナー契約をさせるってこと。

 凶悪なモンスターの場合、ライフを食わせる前にやられるって話も聞くけど……それはそれということで……。



 まぁ自分自身の状況を告白するとライフを1個も持っていないから、こうやって1人で逃げるハメに陥ってるわけだけど……。


 でも、希望を捨てる必要はない。

 モンスターを相棒パートナーにするにはライフが必要だけど、現世での縁があればライフ不要で相棒パートナーになれるという救済措置があるんだ!

 相棒パートナーペットを強化するのにライフが必要だけどそこは置いておこう。


 縁とは何かって? 人同士では仲間として行動はできても、真の相棒パートナーになることはできないからね。


 そう……縁とは人とペットの関係を指しているというわけさ。


 人は類似の種族の姿で異世界に転生するけど、動物は違う。

 人型になっているのは当たり前、すごいやつだと幻獣の姿に変われるようになるやつもいるらしい。


 そしてもう縁とは運命共同体ってことだよね。

 極論を言えばどんなに貧弱な種族だとしても、相棒パートナーが幻獣になれればもうそれは最強の存在になれるってことなんだから。

 まぁそれはそれで異世界で手に入る特殊なアイテムが必要らしいけど……。


 と、まぁだからボクは現世での縁とあわよくばそのアイテムを探すために、ライフが0個にも関わらずこうしてダンジョンに潜ってるってわけ。



 そして、ここは『ド級初心者の洞窟』と呼ばれるダンジョン。

 転生後の最初の関門ってわけなんだけど、普通はみんなライフで相棒パートナーを作ってから探索するような場所なんだよね……。


 でも今は孤独と踊りながら潜るしかないわけで、無事にこうやってモンスターの群れに追いかけ回されてるってわけさっ!


「や――やばっ!! も、もう息が……――!」


 正直こんな不慣れな状態でいつまでも走り続けるなんて無理!

 そんなことを頭を過ぎらせていたらすっかり足元が疎かになっていたようだ。


 走り詰めで震え始めていた足が道を踏み外し、大きな口を開けて待つ底の見えない崖へと真っ逆さまに落ちていくハメになった。


「うそぉぉぉぉ! どこか掴めるとこぉぉぉぉ!」


 必死に崖から申し訳程度に出ていた木の根っこを掴むも、勢いが強すぎたために根っこも千切れて崖底へ落ちていった。


 ――全身が痛いけど……まだ生きてる。

 でも頭を打ったのか、頭の中にモヤがかかっているように意識が遠のいていく。


 なんでこんな状況に……


 そんなことを考えているうちに意識は闇の中へ滑り落ちていった。

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