第11話 混乱 前編

「どうしましょう、校長先生」


「今までに無かった事ですよ、どうしましょう」


 会議室に集められた先生達が、どうしようと頭を抱えていた。


「どうしようもこうしようもない、とにかく何が原因だったのかがさっぱり分からない。朽城先生、申し訳ないけど一人ずつ話を聞いてみてくれ。これ見よがしに報道陣がやってくるはず、謝罪等はこっちでやるから」


「は、はい・・・・・・」


「あとはこっちに任せて、朽城先生はそっちを頼んだよ」


 原因追及の任を与えられたのは朽城だった。

 震える手を抑えるのに必死で、正直ほとんど会議の内容は入ってきていない。

 まあ、担任だからやるしかないか、でも荷が重すぎる。一人ずつ生徒に疑ってかからないといけないなんて、教師としてどうなのか。

 大きなため息をついて、失礼します、と会議室を出ていく。

 これは運命だったのか、朝から悲惨な現実を見せられたせいか、今の状況を恨みたい。




 昨日の小テストは最悪だった。まさかこんなにも、ほとんどの生徒が点数が低いとは思わなかった。担当しているクラスは三つ、その中でずば抜けて悪かったのが自分の受け持つクラスだなんて、どうにかしなくちゃ。

 朽城は、小テストの紙とにらめっこをして頭を抱えていた。こういう時のお供は、職員室に用意された雑味のあるコーヒー、大して旨味のないコーヒーは、目を覚ます一杯に過ぎない。そこまで味にこだわりのない朽城には、適当な一杯だった。


 小テストを家に持ち帰って丸つけをして、残りは早朝に学校で終わらせてと、欠伸あくびが先程から止まらないほど寝不足だ。

 朽城は、今にも雨が降りそうな鼠色の空をボーッと眺めて思う。出来の悪いクラスを持つというのはこういう事か、いやいやそんな事考えちゃいけない。まだまだこれからなんだから。

 葛藤を続けてよし、と気合を入れるが、でも、とまた項垂うなだれる。


 ​───────ああ、どうしよう。


 朽城が頭の中を整理するために、コーヒーを一口すする。その時だった。


 窓の外に一人の少女が、自分とは逆さに現れる。それは時として一瞬の出来事だったが、彼にとっては数秒の時を有した。ゆっくりと流れる時の中で、朽城は少女の特徴を捉えて正体を導き出し、思わず口にする。


「お、落合・・・・・・さん・・・・・・?」


 朽城が次に瞬きした時には、少女の姿はそこには無かった。

 まさかな、落合さんが窓の外にいるわけが無い。大体ここは二階だぞ、ありえないと自分に言い聞かせ、朽城は頭を横に振って目尻を抑える。

 そして、すぐにその幻覚と思った出来事は、女子生徒の叫び声と共に真実へと変わった。

 窓を閉めていても響く叫び声は、朽城の体を瞬時に動かした。

 窓を開けて下を見る、女子生徒が腰を抜かして座り込み口を両手で抑えている。女子生徒の瞳には、真っ赤な湖の上に浮かぶ少女の姿が映されていた。朽城もその姿を見て、その瞳に自然と焼き付けた。


「落合さんっ!」


 朽城は廊下を全力疾走して、落合の元へ駆け寄った。真っ赤な湖の上には、確かに落合絵梨の姿がある。朽城の知っている彼女の特徴と全く同じ、落下していく姿を見た時も特徴と同じだ。

 地面に直撃した際に砕けた頭から大量の出血と、ぐちゃぐちゃに折れた手足が反対方向へ向いている。あまりに無惨なその光景は、朽城の胃を刺激し、思いっきり吐き出した。

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