第2話「世界を救わないほうのスミス」
ぎりぎり判別できた水津ほたるは、黄色い髪をしたベリーショートのひとだった。
お酒はたぶんわたしより弱いのに、なぜかウイスキーをグラスに注いでいる。ライブに出演したわけでもなく打ち上げに出たくせ、なんかこう会話の輪からはずれて見えるのはわたしの曲解ってもんだろうか?
「ひとり酒とはさびしいやつだな」
わたしはテーブルの発泡酒を開けて軽くあおった。
別に美味くはないと思って飲んでいるが、今日はちょっとだけ美味く感じる。
ほたるの前の髪型は黒髪のクソ長いロングだった。どういう職場環境でどう溜め込んだらその長さにゴーサインが出るのかもよく分からなかったが、今の美輪明宏みたいな色の髪を見ると自由なところで働いているんだろうと思う。
一応、ほたるとは個人としてもLINE登録してはいるのだけれども、通知が来ることはまずありなどしない。たまに気が向いたらライブの告知だけ入れているけど、既読がついたらまだ死んでないんだなって生存確認するくらいの関係だ。
「しかしベリショはないだろベリショは」
あいつと関係を解消してからはじめて確認した髪型がそれとか、旧時代の失恋アピールかよという気持ちにさせられる。
メイク落とさないといかんのにと思いつつ、苛立つような感情は妙にお酒を進ませてくれる。
二本目の缶を開けてAKG271で爆音のフレーミング・リップスを聴く。やっぱり元カノがまずそうな酒を飲んでいるときのお酒は美味い。
二次会でほたるの姿が消えたLINEをながめて、あくまで憐れむ者の立場からあいつに着信を入れようかと考える。三本目の缶が空いて、今日十二本目のウィンストンが死んだ。しかたがないなとシャワーを浴びて、適当なブローをしながらスマホを手に取る。
珍しく直接「うらぎりもの」というワードが飛んできたので、わたしは「ばかめ」と返す。てめえはだいたい自業自得なんだよという言葉をそこに続けても良いのだが、こればっかりはさすがに呑みくだす。
「死ね死ねしね」
うぜえよお前が死ねといつも思う。わたしは大体なんもしてねえんだから。
「今なに聴いてんの?」
「Between The Bars」
「エリオットのスミス?」「うん、世界を救わないほうのスミス」
わたしたちのヒーローは世界を救ってはくれない。
「今なに聴いてるの?」と返されてわたしは答える。「ポリフォニック・スプリー」
「ほんもののバカになるよ」と返されたので、わたしは寝た。
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