第22話 ネタバラシ配信をするウルフたち!

 ウルフたちの目的は、最強の探索者を目指すことに決まった。


 茉理にとって、最強の探索者になるという目標は、はるかに彼方にそびえ立つ、山々のように高いものだ。


 有名配信者として、ダンジョン探索者のピンからキリまで見ていた身である。簡単には上のレベルに上がるのは難しい。


 上の上と呼ばれる存在は、もともと持っている能力がすさまじいのはもちろん、おのおのの技の使い方が一流なのだ。


 茉理でさえ、自分が敵う相手とはいえない立場にあった。


(ウルフは現実が見えていないんだから……)


 慢心ともいえる自信が、ウルフの圧倒的な実力に起因するものであることくらい茉理はわかっている。


 ただ、トゥエルブの件のように、慢心はときに危険を呼び起こす。


 そこのところを、果たしてウルフはわかっているのだろうか。茉理のなかで不安が膨れ上がっていた。


「まずはダンジョンを攻略しきらなくてはならないな」

「いまいるところを? 正気?」

トラップだらけで、ひとつの行動が命取りになる。それはそうだ。しかし、いまやパターンというパターンは、俺たちの脳内にあるだろう」 

「間違ってはいないわ」

「深い階層でも同じパターンであるという確証はない。が、罠という存在にどう対処すべきかはわかっているだろう」


 ふたりの能力は決して低くない。一度学んだことを無にするような愚行はしない。


「鳥飼ダンジョンの攻略に成功しなくては、木虎や乾のような、さらに難しいダンジョンをどうにかすることはかなわない。やるぞ、必ず」

「自信だけは確かなようね」

「人様の配信で予習したり、戦闘パターンの構築をするなり、対策はみっちりやる。その上での自信だ」


 根拠のない自信であることに、茉理は安心した。


「が、その前にだ」

「うん?」

「あの配信の後、なにも音沙汰がないのはまずい。遅れてしまったが、すこしは視聴者に弁明をしなくてはな」

「ここで配信するの?」

「地上ではしておくべきだ、という話だ」  


 いい方がまわりくどいのは、アジトの特定を避けたいという考えによるものである。


「場所はある?」

「はい。いくつか、その場限りで使える場所がございます」


 執事はタブレットを取り出すと、地図の画面を出した。赤い旗が何本も立っている。


「ここでいいな」

「ええ」

「配信を終えたら、そのままダンジョンに潜られますか?」

「ああ。地上にいてはリスクの方が多いのだからな」


 かくして、安全の保証された場所へと、執事は車を走らせた。


 


「始めるぞ」

「わかったわ」


 なんの特徴もない一室に、ふたりは機材を置いた。背景は特定されないよう、グリーンバックで覆っている。


「なぜグリーンバックなの?」 

「遊び心だ」

「遊び心ね」


 珍しく、今回はパソコンを使っての配信だ。気合が入っている。


「これが配信者らしい背景だと聞くからな」

「かもしれないけど……」


 茉理としてはいろいろ思うところはあった。それを押さえつけて、さっそく配信スタートだ。


「視聴者諸君、ごきげんよう。元特務機関、【ウルフ】だ」

「やっほー! みんなの太陽、茉理だよ!」


 ・はじまった

 ・ちゃんと教えてもらおうか(ゴクリ)

 ・なんでそんなしれっとしてるんですかねぇ

 ・謎のグリーンバックは笑う


「はじめて間もないのに、よくぞ集まってくれた。いまは平日の昼間だ。いいご身分だな」


 ・黙れ

 ・その言葉、取り消せよ

 ・やめろ、その技は俺に効く


「やめなさい。あなたも割合自由な職業でしょうに」

「しかし労働はしている。視聴者より上だ」

「人として恥ずかしいわ……」


 ・視聴者全員ニート呼ばわりで草

 ・毎秒敵を生成する男

 ・ ↑ええやん、倒す敵に困らないから

 ・ ↑それはさすがに草


「雑談はここまでだ。視聴者煽りより大事なことがある」


 ・ようやく本題

 ・煽ってもなんもいいことないぞ

 ・俺様ムーブ、好き

 ・信者の幸せタイム終了


「前日の配信を見てくれたらわかると思うが、俺はトゥエルブを倒した」 


 ・あのバケモノか

 ・めちゃつよでキメラになった謎人物やな

 ・うんうん


「あれは、正真正銘、特務機関のトップだった男だ。いうまでもないが、特務機関ってのは俺が加わっていた組織のことだ」

「そして、私こと赤染茉理も機関の一員だった」


 ・本当だったのかよ

 ・おいおいおいおい

 ・わけがわからないよ


「俺の発言を疑っていたやつがごまんといることは知っている。しかし、見ての通りこれは事実だ。茉理の発言は、ちゃんと所属の事務所に確認とってのものだ」

「嘘なんてつかないわ。ついたって、自分の汚名につながるだけ」


 配信を通して、おおよその事情を推測をした者はすくなくなかった。


 まさか、そんなはずがないという意見が多数だったなか、配信という形で投げられた石が水面に投じられた。


 むろん、コメント欄は大荒れだ。すでに各種SNSも混乱状態。こうなるのは必然といえた。


「俺たちは元々コンビだった。再会したのはつい最近だ」 


 ・やっぱり熟年夫婦だったのか

 ・有象無象が茉理に接触できる理由はそこか

 ・あ、納得した

 ・どうなってんだおいおい

 

「ウルフは昔からこう。自信過剰のナルシスト、自分の痛さを歯牙にも掛けない、強くなかったら人間のクズね。私じゃなければ扱えない。むろん恋愛感情なんてない。今後も私のファンは安心して」

「よくいう」


 ・ボロクソで草

 ・喧嘩するほど仲がいい

 ・ショックなはずなのに、なぜか安心してる俺がある


「よって、ここに宣言する。俺たちは今後、コンビ探索者として、探索者の頂点を目指す」

「私も同意の上。ついていく覚悟はある」


 ・まじか

 ・安心感のあるセリフな気がしてきた

 ・おおー!


「俺たちに不可能はない。なぜなら、俺はコードネーム【ウルフ】であり」

「コードネーム【血祭り】だから」


 ・決まったぁ!

 ・かっこよ

 ・はじめてウルフが頼もしく見えた


「以上だ。伝えたいことはそれだけだ。これからまた潜る。ダンジョン配信、必ず見るように。はらばだ諸君!」


 いって、配信を終了した。




「いいのですね、ウルフ様」

「世話になったな、執事。地上に出て、無事に過ごすのはひと苦労だからな」

「ウルフ様と茉理様の希望とあれば、いつでもうかがいます」

「頼りにしているぞ、これからも」

「もちろんでございます」


 配信後、すぐに次の動きをしていた。


 ダンジョンまで車で移動。早々に手続きを終わらせ、どんどん下っていく。


「やるぞ、茉理」

「お安い御用よ」

「いい返事だ」

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