第21話 世界最強の暗殺者、探索者の頂点を目指す
トゥエルブの死は、ウルフの実力を喧伝する結果となった。
それだけではない。偽物だ偽物だと疑われていた風潮が、これを機に変わりつつあることだった。
有志の調査により、キメラ化して死んでいった自称トゥエルブが、本物である可能性が浮上していった。
特務機関の長であったトゥエルブは、ダンジョンの出現後に組織を解散。その後は、手にした名声が損なわれ、手元には資産が残るだけだった。
これを元手に、トゥエルブはダンジョン探索に乗り込んだ。そして、最強たる存在を目指して、自身をモンスターにする主砲に手を染めた。
「阿呆だな。破滅するとわかりきったことを」
「改造人間のあなたがいえるわけ?」
「好きで改造人間になったわけじゃない。顔は狼でも、中身は人間だ」
「ナルシストのね」
「うるさいな……」
ウルフとて、最近では自身がナルシストではないかと疑い始めるようになった。配信のコメントが、自身を客観視することにつながっていたのだ。
「まぁ、ナルシストでもなんでもいうといい。俺はこちらの方が性に合っている」
「もっともね」
「世界はこれでようやく、俺が本当に最強に近しい存在だということを知ってくれたはずだ」
「それもそうね」
まだ疑惑を持っている者もすくなくない。映像が不自然に一時的に止まったことがネックになっていた。わざと止めることで、いろいろ細工を施したのだと。
ウルフの振る舞いが、疑惑を抱かせる原因になっているのは両者とも承知の上だ。とはいえ、信じられない者がいることに少々驚いていた。
トゥエルブを知るものにとって、ウルフが本物であることはここで確かになったといえる。そうでない一般人も、さすがにウルフを無碍にするわけにはいかなくなった。
あの配信で、登録者は一気にうなぎのぼりとなり、中堅と名乗ってよいほどになった。
茉理の救出と、強敵の撃破、ウルフが本物だという確信という濃厚な三点を含んだ配信であったから、増えるのは必然といえば必然だった。
「今後は、もう遠慮することはないな」
「私の正体も、いまさら隠しても仕方ないわよね」
「
「修正を食らってしまいそう」
「やむなしだろう」
あんなことがあっては、視聴者に説明なしともいかなくなった。
ダンジョンだけですべてことを済ませるのは不可能だという話になり、執事を通して地上に戻ることにした。
戻る際に、危うく他人に正体がバレそうになる、というトラブルがあった。これは、ウルフの知名度が向上した証拠に他ならない。
「有名人としての自覚が必要らしいな」
「活動者の性ね。わきまえるところはわきまえなさいよ」
「わかっているさ」
地上に上がって、ウルフは久々の休養をとった。
茉理は会わねばならぬ人が多く、いろいろと忙しかった。ウルフとは真逆である。
「もう、俺を縛るものはなくなったか」
「左様ですな」
「執事よ。俺がトゥエルブを殺したことをどう思っている?」
「いずれはそのときがくると思っておりましたから……かつての上司を失ったことは確か。茉理様の生命が危うかったとはいえ……」
「やはり思うところはあるか」
「そういうことになりますな」
執事を怒ることはない。自分が同じ立場だったら、複雑な感情を抱いていたに違いない、とウルフは考えていた。
「執事の考えはよくわかった」
「ありがとうございます」
「感謝されることはない。いまはともかく、次の動きを考える」
「次の動きですか」
茉理の行動の自由が得られなければ、ウルフとて勝手に活動することはできない。考えているのは、あくまで茉理の自由が保障されているという条件付きである。
「探索者のてっぺんをとる」
「本気なのですか?」
「俺は世界有数の暗殺者であったと自覚している。自惚れではない。確かにそうだった」
「左様で」
「最強の暗殺者たりえた人物に、どうして最強の探索者たりえないといえるだろうか」
「ウルフ様……」
まったく別の畑ではないか、と他の者なら指摘を加えるだろう。
あの突飛な考えは、ウルフの中では整合性がついている。自分の実力を信じてやまないのだ。仮にいま最強の座ではなくとも、力をつければ必ずたどり着く領域と信じてやまないのである。
「俺は俺の信じた道をゆく。まぁ、実をいえば配信が楽しいという側面が強いかもしれないな」
いうと、茉理は戻ってきた。
「茉理、話はついたか?」
「ええ。結果としては及第点ね」
「ほぅ」
「今回のように極度の危険にさらされるのはあまりよくないみたい」
「どこだってそういうだろうさ」
「ある程度安全が確保できるなら、自由にやっていいって」
だいぶ甘いのではないか、とウルフは思った。この段階で、もうウルフの腹は完全に決まった。
「茉理。前からいっていたが、今後は探索者の頂点を目指す」
「本気なのね」
「トゥエルブ亡きいま、俺たちは俺たちの道を選ぶ。最強の探索者コンビとなったら、面白くてたまらないだろう」
ウルフの瞳はギラついていた。格好の獲物を前にした獣と同じだ。
「ついていくわ。あなたの夢に」
「いい返事だ」
「だって私たち、
「茉理の方からいってくれるとは」
「生命の恩人の言葉を、雑に受け取ることはできないわ」
「丸くなったじゃないか、茉理」
「気のせいよ!」
かくして、ふたりはさらなる困難を極める道へと、足を踏み入れるのだった。
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