第23話 鳥飼ダンジョン配信を再開してイキるウルフ!

 鳥飼ダンジョンに潜ったウルフ一行。


 潜るといっても、いままで攻略した層までいくわけだ。そこまでの過程はカットだ。


 途中で視聴者らしき人物から奇異の視線を向けられた。下手に初心者もいるような層で配信をしてしまうと、配信の妨害につながるという判断からだ。


 鳥飼ダンジョンはある程度の実力者でないと潜れないとはいえ、対策に対策を重ねていく必要が、現在のウルフたちにはあった。


「なにせ有名人だからな」 

「調子に乗りまくっていると、足をすくわれるわよ」

「現に一度、すくわれたじゃないか」

「さくっと私の危機を話のネタにしないで」

「俺にそのような配慮ができると思っていたのか」

「やはりあなたは最低ね。組んだことが一生の恥よ」


 はぁ、と茉理はため息。ウルフの言動にはとっくに呆れている。


 さきほどの配信でちょっとはウルフのことを見直しかけていた茉理だった。


 が、このような振る舞いをみると、結局ウルフは内面的に変わっていないのだと期待を裏切られたような感覚になるのだった。


「そろそろいい層にいけそうね」

「配信が楽しみだな」

「もはや配信沼の中ね」

「ずぶずぶに、はまっているさ」

「手遅れね」


 現に何体もモンスターを倒しているふたりだ。


 体の疲労度は高まらざるをえないわけで、腹も空いてきている。


「そろそろ休憩にするか」

「いいわね」


 モンスターの数がすくなそうなスポットを見繕う。いったん腰を下ろすと、ウルフと茉理とて、疲れが出て当然というものだった。


「なかなかハードなことをしているわよね、私たち」

「特務機関にいたときのほうが、よっぽど非人間的な扱いをされていたと思うが」

「比べる対象が悪いわ」

「まぁ、充分きついことはよくわかる」


 ふたりは、しっかり休むことに決めた。


「トゥエルブもそうだが」

「ん?」

「機関となんらかの関わりがあった人間は、いまごろどうしているだろうか」 

「あまり考えてなかったわね。考えたくなかったともいえるけど」

「俺たちがこうやって大々的に告白したことで、これまで息を潜めていた連中の注目を受けることになるわけだ」

「あなたとて、なにも考えていたわけではないでしょう?」


 ウルフはふっと笑った。


 そもそも、トゥエルブがあのような形で配信に顔を出し、特務機関の情報を大々的に告白するなど、異常事態である。


「まぁな。大きな組織がいるとは考えがたいな。細々とした連中が、今後突撃されることは避けがたいだろう」

「でも、そう深く考えることはないでしょうね」

「俺たちの実力はこれだけあるのだと、配信でありありと見せつけているからな」


 自分の手の内を明かすというデメリットはある。が、小物は関係ない。


 真の実力者であれば、なんであろうと関係なく突っ込んでくるはずだ。そのような判断であるから、ふたりは過度に心配していないのだった。


「本物はいつ現れるだろうな。実に楽しみだ」

「たまにはあなたも痛い目を見ないとね。私だけとらわれるなんて最悪よ」

「まさか、俺が窮地に陥ることなど、そうそうあるまい」 

「それってフラグだよな、とかコメントされそうなことをいうわね」

「安心しろ。俺もそういわれるだろうな、という想定のもと口に出した」

「抑えなさいよ」

「配信外だしな。むろん、配信でも関係なくいうのだがな」

「ダメじゃない」

「申し訳ないが、これが俺の流儀でね」

「炎上しても責任取らないわよ」

「承知の上だ」


 このようないつもの会話をしていると、しばらく休憩してしまったということに気づいた茉理。


「そろそろいきましょうか」

「無駄話をしても、なんらいいことはないからな」


 かくして探索を再開することとなった。ようやくだ。


「ようこそ諸君。本日も配信を始めるとしようか」


 凄まじい勢いで視聴者が流れ込んでくる。ウルフが本物とわかり、その元ペアが茉理とわかったのだ。盛り上がらないわけがない。


 ・本物コンビの登場だぁ!

 ・うおぉ! ジーク・ウルフ! ジーク・ウルフ!

 ・重大発表があってもなくても、ウルフはやっぱりウルフだな


「ウルフ、今回はこのダンジョンを攻略し切ることが目的なんだったっけ」

「そんなところだ」


 ・正気かよ

 ・まぁ大丈夫だろう、ウルフと茉理ちゃんは最強のコンビなんだから

 ・常人ならざらぬ宣言をホイホイするよなぁ……おじさん探索者には眩しいよ……

 ・有言実行する男だからな、ウルフは


 本物とわかるや否や、手のひら返しがあからさまというものだった。ウルフはそんな視聴者の姿に失望を覚えることはなかった。自分が称えられているのなら、あちらの内心など知ったことないのである。


「罠の多さは弁えているし、俺の予測を超える強敵が現れるであろうことも想定に入っている」

「仮にそういう事態に巻き込まれたら、どうするの?」

「むろん、変わらず拳を振るだけだ。いつもと同じようにな」


 ・ドヤ顔するな

 ・実力者だからといって、傲慢に振る舞われたら腹立たしいんだぞ

 ・やっぱりなんも変わらないじゃないか(歓喜)


 当然、ウルフのふざけたように見える俺様ムーブメントは、視聴者の中でエンターテイメントとして捉えられている。うざいことは承知だが、求めているのは確かだ。


「俺の目の前に現れた敵は、殲滅あるのみだ。それしかない。最強になるということは、自分よりも強い敵がいなくなることなのだから」


 ・ウルフ先生のありがたいお言葉

 ・深いことをいっているつもりだろうが、実際は浅い

 ・つくづくウルフじゃなきゃいえないセリフだよなぁ


「戯言はそのへんにしておきなさい、ウルフ」

「わかっているさ。さぁ、潜るぞ」

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