第19話 特務機関の首魁、トゥエルブ

 トゥエルブ。


 特務機関にはボスがいた。組織である以上、上下関係があるのは当然である。


 ウルフと茉理を見つけ、結びつけた人物。


「いったいどういうつもりだ?」


 ウルフの瞳は怒りに燃えている。


「茉理を回収しにきた」

「なぜだ。茉理は俺のコンビだ。それに……」

「機関の意思である」


 ・どういうこと

 ・ウルフの設定のお付き合いじゃないの?

 ・茉理たん!!!! 


「【ウルフ】よ、機関はすでに壊滅した。しかし、その意思は引き継がれている。私が生き、お前と【血祭りブラッディ・フェスティバル】が生きている限り」

「ふざけるのはよせ。いまさら茉理を奪ってどうする」


 ウルフは、攻撃の機会を見計らっていた。隙さえあれば、拳をトゥエルブの顔面にぶち込む。仮面越しであっても、それは果たしておきたかった。


「お前の力を測りたいのだ。相棒を奪いでもしなければ、動かないことはわかっている」

「要求は理解した。が、いまは配信中だろう? のこのこ表に出てきて平気なのか」

「承知の上である。もはやそのような心配は無用という域にある」

「死ぬ気か?」

「とっくの昔に、死んだようなものだ」


 時間稼ぎはできた。あとは、動くだけである。


「卑怯な手段を使いやがって。芸がない」


 ウルフは地面を蹴ると、すかさずトゥエルブに魔法を放った。


 無属性魔法である。見た目は地味だが、効果は優れている。


 複数の種類の無属性魔法が、トゥエルブに近づく。


「芸がないのは、そちらも同様である」


 トゥエルブは、虫でもはらうかのように軽く手を振った。


 魔法という魔法が、消えた。


「なに?」

「所詮はこの程度か。見損なったな」


 ・強すぎないか!?

 ・おかしいおかしい

 ・ウルフ超えとかマ?


「こちらの番である。相馬、動くがいい」

「承知!」


 茉理は、トゥエルブから解放されようと必死にもがく。しかし、圧倒的な力を前にしては、無力もいいところだった。


「この、バケモノが」


 意識が戻ってきた茉理は、声を絞り出した。瞳は怒りに燃えている。


「バケモノでもなんでも呼ぶといい。私はとっくに、人間などやめている」

「人間を、やめて……?」


 ・どこぞの吸血鬼じゃないか

 ・おいおいおいおい

 ・こりゃ本格的にやばいのがきちゃってる


 コメント欄は困惑の渦の中だった。憶測ばかりで混乱している。受け入れがたい現実に、視聴者は頭を抱えるほかなかった。


「相馬、参る!」

「雑魚は引っ込んでいろ」


 シールドを展開し、防御を強化しつつ攻める相馬。


 彼の戦法を、ウルフは短期間の戦闘の中で見抜いていた。最初は苦戦を強いられたものの、もはや試行錯誤の必要はない。


「いってくれる!」


 両手剣が迫る。


(久方ぶりに解放するか……改造人間の力というものを)


 ウルフは体に力を入れた。改造人間としての能力が解放される。


「遅いな」

「なっ!?」


 相馬には、剣がウルフを斬り裂いたかのように見えたかもしれない。


 しかし、斬ったのは残像に過ぎなかった。ウルフはとっくに相馬の背後を取っていた。


「消え失せろ」


 カメラさえ捉えきれぬスピードで、ウルフの爪が相馬をズタズタに斬り裂いた。


「グガアアアッッ!!!!」


 断末魔の叫びと共に、血肉が飛び散った。ダンジョンマスター相馬は、かくして命を落とした。


「次は、あんたの番だ」

「最盛期から変わっていないようであるな」

「当然だ。俺は日々進化していく男だからな」

「面白い。やはりウルフはウルフだ」


 ・相馬さん死んじゃったよ

 ・ウルフって人を殺せるのか……

 ・滅茶苦茶だよ


「ここで決着をつける」

「つけられるものなら、つけてみるといい」

「望むところだ」


(この体、持つか? 改造人間の力を使い続けて)


 ウルフの身体能力は特段優れている。それは彼が改造されて戦闘に特化されたから、というのが理由のひとつとなる。


 これまでは、力の解放を抑えていた。解放するまでもなく、敵を殲滅できていたからだ。


 しかし、いまは相手が相手だ。本気を出さなければ、やられる。茉理を取り返すことができない。それだけは、ウルフの命に変えてでも避けなければならない。


「無意味な抵抗を、見せてみるといい」

「黙れ!」


 接近し、拳や蹴りを入れようとする。フェイントをかける。


「甘いな」


 ウルフの翻弄は、トゥエルブの前では無力だった。必要最小限の動きで、かわし続けるのだ。それも、茉理をしっかりとホールドした上で、だ。


「見えている」


 トゥエルブが指をさす。方向はウルフだ。凄まじい魔力と共に、七色の光が、蛇のようにウルフに近づく。


 軌道も威力もバラバラな攻撃を、ウルフはなんとか避ける。重力を無視したかのような動きだ。


 ・とんでもない動きをしやがる

 ・この人たち人間じゃないよ

 ・↑ そうに決まってるだろ!


「あっ」


 一本の光だけ、かわすことができなかった。ウルフの肩から、静かに血が流れる。


「やはりそこが弱かったか。昔から変わらないようである。お前の弱点は頭の中に叩き込んである。構成員なら誰でもそうだ」

「その情報は、いつから更新が止まっている? 最新のウルフを知らずに、俺のことを知ったような口をきくな」

「なるほど、育ての親に礼を欠いていいというのが、最新のお前であるか」

「昔から腹の中は変わっちゃいない」


 腕の中で暴れている茉理。抵抗しても、状況に変わりはなかった。


「さぁウルフよ、まだ抗おうという気はあるか?」


 この質問を聞いて、ウルフは笑った。


「諦める、という言葉は俺の辞書の中にはない。仮にあんたらが脳内に埋め込んだ言葉だとしても、俺はとっくにそれを封じ込めてきた」

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