第16話 定番の赤外線を華麗に突破する驚愕配信!
「……ともかく、視聴者諸君。今回、俺たちは企画なるものをやってみたいと考えている」
モンスターを狩るのにも飽きて、ウルフと赤染は、今後の方針を考えていた。配信をしながらの、ぶっつけ本番というやつだ。
なんの策も考えていない。要するに行き当たりばったりである。
この場で意見を出し、そして即実行に移す。トラブルはつきものだろうが、その方が面白いと判断したらしい。
「私が出した案、どれを取るの?」
「金を得るなら企業案件だろう」
「あなたに仕事を任せたいと思う企業があるか考えてみましょうか」
「……仮に俺が企業としたら、俺のような奴に仕事を任せたいとは思えんな、残念ながら。なぜなら……いや、これはいわなくていい。わかりきってるからな」
「却下ね。どうせ、ナルシシズム全開の発言をするつもりだったのでしょう?」
「茉理はなんでもお見通しってか」
・図星やないか!
・ウルフはやはりナルシストなのか
・↑ いわずもがなだろ
企業案件はなし。
となると、企画かコラボとなるだろう。
「近くに面白いステージはないのか」
「このダンジョンで、ということ?」
「当然だ。他のダンジョンに行くのはひと苦労だろう。俺の見た目を考えて」
・お前のような奴が外を歩いていたら、たぶん通報一択
・一発でウルフとバレるから、外なんて出歩けないよなぁ……当然か
・やはりか
複雑極まりないもの――罠である。
このために日本で有数を誇る致死率を叩き出しているダンジョンとなっている。
「やはり、罠をいかに潜り抜けるか、ということになるだろうな」
「大丈夫? 死なない?」
「俺は問題ない。茉理の安全を確保できるならな」
「私も大丈夫。あなたに心配される筋合いはないわ。私は、高校生だけど、もうほとんど大人みたいなものじゃない」
「いえてるかもしれないな」
ウルフと茉理は、ダンジョンの有名スポットを調べ出した。下調べの段階で、いくつか目星はついていた。配信を始める前、ダンジョンを知るためといって、危険スポットを把握しておいたのだ。
わざわざ燃え盛る炎の中に首を突っ込むようなものだが、企画のためだ。無法地帯であるダンジョンなら、いささかスレスレな行為をしても、受け入れられる土壌がある。
「そうなると……このあたりかしら」
赤染は候補をいくつか出した。
ひとつ。迷路のように入り組んだ構造のフロア。
ふたつ。マグマだらけの高温なエリア。
そして最後に、赤外線が張り巡らされたフロア。
「どれも面白そうだな」
「命の危険もついて回るけれど、ね」
「周知の通り、俺がコードネーム【
・知ってる、君が偽物ということは
・またいっているよ
・……という虚言定期
「暗殺者として、真の実力を発揮できる場所がいいだろう。そうすれば、暗殺者としての名声は高まろうし、俺への疑いも、晴れるというものだ」
「結局どこにしたの?」
「赤外線エリアだ」
赤外線エリア。
やや長い通路を抜けた先に、幾多ものお宝が眠っていると噂されている。しかし、広まっているのは噂だけで、いまだにお宝の回収はなされていない。
なぜか。
お宝に辿り着くまでに、途轍もない労力を費やさねばならないからだ。
赤外線、というように、お宝に至るまでの通路は、赤外線がびっしりだ。スコープ越しに見ると、あまりにもすり抜けるのが困難だとわかる。
これにガッツリ触れてしまうと、鋭利なナイフのように、たやすく肉と骨が切断される。触れたら終わりの、超絶スリリングな仕掛けなのだ。
「頭悪いの? 死者多数、成功例はいまだなし、やるだけ失敗のハイリスクなフロアじゃない?」
「リスクが高い分、リターンも大きい。前例がないからといって、ためらうのはもったいないというものではないか」
「あなたのいうことも一理あるわ。でも、あなたが赤外線によって十数個の肉塊になっても、私はなんら責任を取れないわ」
「構わない。スプラッター映像になりそうだったら、配信を止めてくれ。茉理のアカウントが消されたら、俺の立場がない」
「ならやめればいいのに……」
「俺は失敗しない男だ。信頼してくれ」
「あなたの言葉は信頼しないわ。でも、あなたの実績だけでいえば、信頼せざるをえない」
かくして、赤外線フロアの探索開始と相成った。
時計型端末から、赤外線を認識するためのスコープをふたり分、購入する。VRゴーグルのような形状である。
「ダサいわね」
「なら、まったく見えない状態でやろうっていうのか」
「そうとはいってない。ただ、気が乗らないってだけ」
「俺が先陣を切るんだ。別に気乗りしなくてもいいってものだろう」
「そうかもしれないわね」
移動は済んでいた。ウルフたちのいるフロアより、浅い層にあった。ここにいるモンスターは、ウルフたちにとってさして強いものではない。
が、この赤外線エリアだけに関しては、より深い層の探索者でも行くという選択肢をとるものはすくない。たかだか赤外線のために、探索者生命を終わらせたくないという思いだ。
「見ているといい、視聴者諸君」
配信用のカメラは超高性能だ。赤外線を映し出すこともできる。
・こ、これは!
・いけるのかよほんとに
・人っこひとり通せなさそうな狭さなんだよなぁ
全方位に、無茶苦茶に張られている赤外線。かろうじて、隙間を見つけて潜り抜けられそうだが、身のこなしが早くないと、余裕で腕や足がスッパリいく。
「いいから見ていろ」
「ほんと、責任取らないからね!」
「ああ! 了解だ。俺はウルフ。見ていればわかる!」
しばらく空間を眺めた。どうやって動くかのシミュレーションをしていたからだ。
軽く助走をつけて、飛び込む。
タップダンスでも踊るかのように、軽快に、そして美しく赤外線をかわす。長い距離にも関わらず、動きが滞ることはない。
背中をぐいっとそらす必要のある箇所もあった。華麗なる柔軟性を発揮し、リンボーダンスのような体の使い方さえする。
非常に難しいことではあったが、難なくウルフはかわしていくのだった。
「……で、これで正解だろうか」
いい切る。ウルフは、すでに赤外線の蜘蛛の巣を乗り越えていた。皮膚の一箇所も、裂けていない。完全なる無傷というものだった。
ブン、とゲームの電源が切れるような音がした。すると、赤外線が完全に消滅した。カメラは、その瞬間を収めていた。
・は?
・狼人間だからって、お前は人間だろう? 神ですかあなたは
・神というより悪魔だろうけど、これはこれは……
すぐには理解できない視聴者たちだったが、配信後、この切り抜きがおおいにバズることとなった。
肝心の財宝の方だが、かなりの量があった。ひとつひとつの値段は安かったが、充分な値段を誇っているというものだった――。
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