第12話 アジトで某アニメ風に作戦会議をする配信開始前!

「こちらでございます」


 ウルフと赤染は、執事の車に連れられ、アジトに戻った。


 窓は、前方以外カーテンで閉ざしている。ウルフも顔に布を被せてある。


 よって、ウルフがウルフだとバレる恐れは、極めて低いといってよかった。


「懐かしいな」

「久々の地上だものね」


 東京ダンジョンに入ってから、ウルフは一度も外に出ず、中で食事と睡眠を済ませていた。


 別に不便はなかったとはいえ、地上に出るのは新鮮だったようで。


「自然の空気は心地いいな」


 車から出て、被っていた布を外し。


 深呼吸して、ウルフは伸びをした。


「ずっとダンジョンにいると、性格が卑屈になるわよ」

「俺が自信を持っているのを卑屈というなら、元来の性格だ」


 アジトは、人気ひとけのすくない田舎にある。ここなら、人の視線に怯える必要はない。


「気が向かれましたら、中へお入りください」


 いって、執事は一礼すると施設内へと入っていく。


 ウルフは外の新鮮な空気を堪能すると、「行くぞ」と赤染に告げ、建物の方へと歩みを進めた。


「懐かしいな」


 アジトといっても、豪華なものではない。やや大きな一軒家という様相である。


 特筆すべきは、地下室を有していることだろう。


 アジトにいるときは、おおよそ地下室にいることが多かった。


「本棚、本棚……」


 靴を脱ぎ、執務室へ。


 とある本棚から、ある一冊を見つけたウルフ。本の背、その上部に指をかけ、手前に倒す。


 ゴゴゴゴ、と響く音。


 本棚が時計回りにおよそ90度、動いた。


「隠し階段、我ながら粋な設計だ」

「あんたは執事に頼んだだけでしょ」

「戦闘においては、実践より発想こそすべてではないか」

「それはあんたの戦闘力が高すぎて、おおよその発想を実行できるからよ」

「そういうものか? まあいい、降りよう」


 執事の先導のもと、螺旋状の階段を降りる。


 階段を降りきると、ウルフは立ち止まった。


「やはり落ち着くな」

「たまには執事を頼って、ダンジョンから出ればいいのに」

「住めば都。ダンジョンにも良さがあったからな」


 ごゆっくり、と執事はいって、上の階へと戻った。


「さて、作戦会議としようじゃないか」

「そうね」


 目の前に広がるのは、司令室とでもいうべき設備。


 薄暗く、コンピューターの光が怪しく部屋を照らしている。真ん中には、やや大きめの机があった。表面がスクリーンとなっている。


「以降の探索についての提案だ」


 一台のパソコンを使って、カタカタとタイピング。


 しばらくすると、机のスクリーンが切り替わった。


「隣に座るか?」

「向かい合った方がいい」

「わかった」


 腰掛けて、ウルフは提案を始めた。


「東京ダンジョン、しばらく潜ったな。どうだった?」

「意外と余裕だったわね」


 ウルフたちは、東京ダンジョンに来る前にも、他に数箇所のダンジョンに潜っていた。実力の確認のためである。


 他のダンジョンは、ふたりの能力からして、あまりにも面白みがなかった。


 ならば、いきなり最高峰のダンジョンに挑む――そんな頭の悪い真似はしない。


「ものごとは慎重に、とはいうが、慎重すぎたかもしれんな」

「あなたはもっと慎重になるべきよ」

「ほぅ、そうか?」

「いや。謙虚に、の間違いかも」


 ダンジョンは、現実世界とは異なる。現実の暗殺稼業以上に、用心すべきところもある。


 低いレベルのダンジョンでも、時間をかけてダンジョンのルールを理解する。それを、しばらく優先していた。


 そうして辿り着いた、東京ダンジョン。


 有名配信者や探索者の上位層も潜っている、名の知れたダンジョン。


 ここにきて、赤染は配信を始めた。


 特務機関の残党も、ほとんど消えた頃だった。新しい人生を始めようじゃないか――そう思い、名前をかくして配信を始めた。


 執事に手を回してもらい、高校にも通いつつ、配信者として活動。赤染茉理は、配信者としての仮の名前。学校では、また別の名前を。


 コードネーム【血祭り】ゆえ、血で赤く染まる祭り――赤染茉理としただけだった。


 茉理としては、さすがに安直すぎたと後悔しているきょうこのごろだ。が、いまさら変える気にはならなかった。


「俺はもちろん余裕だったわけだが。次になると、一気にレベルが異なってくるな」

「そこがネックよね……」


 茉理は腕を組んで、うなる。


 ウルフはスクリーンを操作し、次に潜る候補のダンジョンをあげていく。


「いま、俺たちの前に浮かび上がっているダンジョンは三つ。この中から、選ぶ」

「三つね」

鳥飼とりかいダンジョン、木虎きとらダンジョン、いぬいダンジョン。難易度が高い順に行くとこうだが……さて、どうするか」


 鳥飼とりかいダンジョンは、日本にあるダンジョンの中で、三本の指に入る攻略難易度を誇っている。


 ダンジョン内の気温差・凶悪なモンスター・張り巡らされたトラップの多さ。


 これらの悪条件から、モンスターのレベルの高さ以上の攻略難度となっている。致死率もワーストに限りなく近い。


 木虎きとらダンジョンといぬいダンジョンは、鳥飼ダンジョンとは、また違った特徴を持つ。


 いずれも、東京ダンジョンの延長線上という説明が的確だろう。


 前者は、東京ダンジョンから近い。後者は、東京ダンジョンからはかなり遠い。


 それが、両者の違いだ。いぬいダンジョンの方が、攻略難易度はやや高めだ。


 なお、これら三つのダンジョンの名前は、経営に携わる人物の苗字である。東京ダンジョンとは違うのだ。


「どうせウルフは、もう去就を決めているのでしょう?」

「鋭いな」

「自分を高く見せるには、より難しいことを達成しないと――」

「――俺を俺たらしめることができない。さすがだ。よくわかったな」

相棒バディ、舐めんじゃないわよ」


 せっかく司令室にきたものの、懸案事項はかくしてすぐに解決された。


 それから、細かな攻略の方針を立てたり、配信のあり方を考えたりと。


 ウルフと赤染は、いますぐにでもダンジョンに潜りたいという欲求を抑えつつ、話を進めた。


「……こんなところか」

「いいんじゃない。あとは、お互い死なないようにね、って話」

「死なずとも、身の危険に遭わないように気をつけろよ」

「モンスターは大丈夫よ」

「いや、人災だ。俺がウルフだと喧伝したことで、刃が茉理に向けられかねん」

「ならどうしてウルフだウルフだ、っていい張るのよ」

「楽しいからに決まっているだろう」


 はぁ、と茉理はため息をついた。


 ウルフが自己顕示欲の塊であり、自己中心的な性格であるから、諦めはついていた。


「じゃあ質問。私が危うくなったらどうするの」

「むろん、俺が助けにいく。どこにいても必ずな。相棒バディってのは、片方が欠けたらお終いだからな」

「いいこというじゃない、たまには」

「まぁな」


 会議を終え、鳥飼とりかいダンジョン攻略が決まった。


 地上に戻り、執事に今後の予定を告げる。


「あす、ここを出て鳥飼とりかいダンジョンまで車を出してくれ」

「承知いたしました。おふた方とも、ご武運を」

「執事、気が早いってもんだ」


 次の日、黒塗りの車がアジトを出た。


 むろん、目的地は鳥飼とりかいダンジョンである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る