第10話 防御力高めで厄介な階層ボス戦配信!

 キューブがひとつ、ふたつ。


 角を軸に回転しながら、ウルフたちに迫る。


「なんとも画面映えのしない敵だな」

「自分の魅力が際立っちゃうから困るって?」

「よく俺のセリフがわかるな」


 ・やはりウルフはウルフ

 ・ポジティブすぎて一周回って好きかもしれん

 ・頑張れ茉理ちゃん! いろんな意味で


「まずはひとりひとつ担当でいくぞ」

「わかった!」


 ウルフは、キューブにまわし蹴りを食らわせる。人並みではないパワー。


 しかし、回転にかき消されてしまう。


「うむ」


 ・珍しくウルフが不調気味か?

 ・勝負はこれから

 ・いけー!


「我慢だな」


 一方、赤染は連続斬りで攻める。


 多彩な軌道で振り抜く。着実にダメージを蓄積させるも、キューブ状の敵は、いささか硬いらしく、赤染は口元を歪ませる。


「やはり階層ボスってだけある!」


 ・茉理ちゃん、久々の苦戦気味か

 ・たまにはこういう勝負も見応えあっていい


「続けるぞ。耐久戦となるのはわかっていたことだ」

「そうね!」


 敵の高速スピンと衝突せぬよう、避けつつ戦う。


 ・いろんな技使えんね

 ・隠してたな、いつものじゃないやつを

 ・こりゃあ見てて飽きないね


 攻撃のバリエーションは豊富だった。ふだんはすくない技だけでモンスターを倒せるふたりだ。


 モンスターを倒すのに有効な技でありながら、効率や優先順位を加味し、配信では使用頻度の低い技も、使っていた。


 かつては暗殺技術を磨いていたふたり。


 すくない種類の技を極めながら、多種多様な条件のもとでも任務を遂行できるよう、訓練を課せられていた。


 そして、確実に技術は身になっていたのだ。


「――――」


 ダイス状のモンスターは、ウルフたちの技のネタが尽きる前に、電子音のような鳴き声をあげた。


「見て」

「……ついにか」


 二体のモンスターの影が薄くなり、接続の悪い画面のように乱れ、ぼやけた。


 ぼやけが収まると、モンスターは四体になっていた。分裂したのである。


「今度もひとり二体?」

「律儀に半分ずつ襲ってくれるというわけか」

「……わかった、襲いかかって来る方と近い方でいくから」


 戦略を定め、ウルフたちは動き出した。


 ・すでにウルフコラボ時では最長記録、大丈夫か

 ・ウルフって口ほどにもないのかな

 ・他の探索者のダイス戦に比べれば順調では


 ウルフや赤染の技に見応えはあるかもしれないが。いってしまえば単調な戦闘に、嫌気をさす視聴者も出てくる頃だ。


 離脱した視聴者もいたとはいえ、それ以上に。


 階層ボス戦に挑んでいる、というのは、ダンジョン配信にとって充分に魅力的なネタだ。


 よくウルフや赤染の配信を見るファン層だけでなく、SNSで噂を聞きつけ、興味本位でやってくる新規層も取り込み。


 これまでの配信の中でも、なかなかいい同接数を誇っていた。


「いい感じで増えているな。失望させないためにも、ちとギアを入れるか」


 多彩な技を使ったのは、敵の特徴を掴むためであった。それゆえ、威力をやや蔑ろにしていた節があった。


 しかし、かまわない。モンスターの弱点を、一回目の分裂の時点ではっきりとさせたのだから。


 六面あるうちの、一面。そのど真ん中。


 そこを的確につきさえすれば、他のところを狙うよりも効率がいいと判明した。


 赤染もまた、同じように気づいてはいた。


 常人であれば、高速回転するサイコロの、決まった一点を狙うのは難しい。


 面が次々と変わってしまえば、せっかく見つけた弱点もどこにあるかわからなくなる。


「お前ら、朗報だ。俺たちはあいつの弱点を見つけてしまった」


 そういって、一点を突けばいいという説明を、戦いながらいってみせる。


 ・理論としては最高だ、現実的に不可能というところに目を瞑れば

 ・机上の空論や! 現実を見ろ!

 ・どの面に当たるかなんて確率ゲーや、豪運の持ち主じゃないと全部決めるのは無理


「知っているか? 暗殺者の辞書に、不可能という文字はない」


 凄まじい速度で拳を入れつつ、続ける。


「なぜなら――俺が不可能という字の“不”の部分を、血で染め続けているからだ」


 ・暗殺者語録確定

 ・根性論かな?

 ・おいおいおいおい


 ウルフでなければ、ただの厨二病発言。


 しかし、ウルフはウルフである。


 攻撃と退却を短いスパンで繰り返す。


「見ての通り、俺の目を活かすことで、弱点の目を追い続けている。回ってきたタイミングで、高速でパンチや蹴りを出す。実に効率的だ」


 ・ただのゴリ押しで笑う

 ・アホみたいな理論をスペックの高さで補うな!

 ・※ウルフと茉理ちゃんは特殊な訓練を積んでいますから、良い子は真似しないでください


 実際に特殊な訓練を積んできたふたりだからなせる、ゴリ押しの一手だ。


 いわゆる速読トレーニングの効果が一面としてあった。日々の戦闘訓練に加えてこれをやることで、常人ならざらぬ反射神経を手に入れたのだ。


 改造人間となったウルフにとっては、鬼に金棒である。


 赤染も同じ理論で、不規則に飛び回るダイスの一点だけを、正確かつ高速に狙っている。


 これにより、戦闘の効率は飛躍的に向上した。


 ・学習能力たかっ

 ・こんな弱点なんてまだ未発見情報じゃないの?

 ・うおおおお! すげえよすげえよ


 攻略ペースの向上が、さらなる同接数の向上に貢献。


 八体に分裂する頃には、この配信で一番の盛り上がりを見せた。


 以降の分裂では、敵一体あたりの強さが低下したことで、だいぶ倒すのは楽になった。


 追いかける対象が増えたところで、彼らには問題なかった。雑魚が増えるだけなら、変わらないというものだったらしい。


 長い戦闘時間を経て、ついに一体のみ――最後の一撃を決めるのは。


「私よ!」

「いや俺だ!」


 ウルフの拳と、赤染の魔光剣とが、ほぼ同時にダイス型モンスターに直撃。


 灰となって、倒すべき敵は消えた。


 階層ボス、討伐である!


「やったな」

「そうね! 私がラスト攻撃を飾ったいい試合だった」

「いや、最後は俺だ。俺の目にはそう映った」

「疲れ目じゃないの? 最後は私よ」

「どうだ、視聴者の諸君。どちらが早かったか、教えてくれたまえ」


 ・わかるか、そんなもん!

 ・これはビデオ判定するしか

 ・肉眼だと同時にしか見えなかった件


「あとで見返しておこう」

「というわけで、討伐成功! みんな、応援ありがとうね!」


 大量の投げ銭とともに、配信は幕を閉じた。


 落ち着いてビデオ判定をしたところ、最もスローにしてもわからずじまいという結果に終わった……。

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