第8話 再会してからビンタされる配信後!
人気配信者、スネークとの戦闘を終え、投げ銭に歓喜していたウルフ。
彼を待っていたのは、
「もしもし?」
時計型端末をタップすると、赤染茉理の姿が浮かび上がった。
搭載されたカメラが、現在の赤染の様子を映し出す。
彼女もまた、ダンジョンの中にいた。
『ウルフ? あんた、なにやってんの!? バカなの、ねえ?』
「開口一番バカとはなんだ? 頼まれた通り、登録者を効率的に増やしただけだが」
赤染のSNSでウルフのチャンネルの宣伝を頼んだ。
それから、人気配信者のスネーク(なお元暗殺者で知り合い)と
インフルエンサーの力を借り、登録者をものの数時間で五桁台、つまり万単位までもっていった。
登録者を増やす、という点では完璧だったかもしれないが……。
『もうすこし手段を選びなさいよ! スネークのファンを敵に回してどうするの?』
「お前のファンの方が敵に回したら怖そうだ」
『私をイライラさせないで、よっ!』
喋りながら、モンスターを斬ったらしい。画面に血が付着した。赤染はすぐに拭き取る。
「落ち着いてから電話したらどうだ」
『拒否! あんたの憎っくき顔に、平手を加えたくて一分一秒もったいないの!』
「そういうことか。頑張れよ」
『わざわざ敵を作られると困る、それだけはいっておくね。じゃあね!』
「……切れた」
ウルフの性格と手法は、ややもすると他者を刺激しかねない――彼自身、それは重々承知だ。
その上で、傲岸不遜な態度をとっている。
かっこいい、と信じてやまないからだ。
ウルフはそれでいいかもしれないが、周りも同じ感性とは限らぬ。
「このままでは確実に敵を作る。わかっているさ。だが、敵より多くの味方を作ればいいだけの話だ。我を貫けば、いずれ理解者も増えるはずだ」
ウルフは自分にいい聞かせた。確信を持ち切れなかったからだ。
「……よし」
狩りを再開した。
いつものように、倒すこと自体は、ウルフにとって楽だった。
ただ、気持ちのブレが、討伐にも影響していた……。
「いたっ!」
しばらくすると、赤染はウルフの居場所を突き止めた。ときおり連絡をとって、正確な位置を伝え合っていたので、会えた。
「早いな」
「早いなじゃ、ない!」
「おっ」
油断をしていたせいで、平手打ちが若干入ってしまった。
「お前に殴られるなど、一生の不覚だ」
「いってなさい」
聞きながら、ウルフはすこし赤くなった頬を撫でた。
「……で、詳しい近況報告といこうじゃないか」
赤染の、近況報告。
地上に出ている間、すこしだけ、学校に行っていた。
教材の受け取り、小テストの実施、担任との面談など、数時間ほどだったらしい。
「学校なんて、行っても仕方ないわ。私みたいなはぐれ者の探索者は、ね」
学生の中にも、少数ながら探索者はいる。
一攫千金も夢ではないのに、すくないのはなぜか。
カネがかかるが割に合わない、というところだろう。
「レアケースだもんな、茉理は」
「組織が残っていれば、学校なんて行かずに済んだのに」
ダンジョンには夢がある。入る前には現実が立ちはだかる。現実を見て、多くは引き返す。
装備も致死率が高い。精神的な負担が大きい。時間もかかる。
負の側面が多すぎる。
厳しく選別された結果、わざわざダンジョンに潜るのは、物好きくらいである。
裏社会においては、魔石等をシノギにしている者も増えた。当然、企業や政治家との癒着もある。
無法者ばかりが集うダンジョンを管理するのも、また無法者。
ダンジョン運営において、厳しいルールは設けられていない理由は、おおよそそういったところにある。
「執事は元気にしていたか?」
「ええ。ピンピンしていたわ。相変わらず、私にセクハラしかける変態紳士だったわ」
「ある意味では安心だな」
「まったくね」
執事。
幼少期からウルフと赤染の
すでに老齢だが、その実力は衰えることを知らない。
情報と戦闘の両方で優れた能力を有している。
イケメンかつ表での振る舞いが紳士だが、変態というのは玉に
「そろそろこのダンジョンも狩り尽くしたってところでしょう」
「ああ」
「いずれ執事に頼んで外に出てみない?」
「そうするしかないだろうな」
ふつうの人間の顔に戻せるのは、一日でたったの三分。
自分の力だけでは、狼顔を世間に晒すことになり、いろいろと面倒だ。
頼れるものは頼る。そうでないと生きにくい。
「あんたの近況報告も頼みたいわね」
「見逃し配信は動画サイト上で」
「ちゃんと生で見たわ」
「それはよかった。茉理、投げ銭というのはいいな。人の善意で貰った金は、稼いだ金より圧倒的に素晴らしい」
「あなたも配信の
「もっと早くからチャンネルを開設すべきだったな」
ウルフは次の配信が楽しみで仕方ない。
ただ、スネークのような人気配信者との絡みや大きなイベントがなければ。
初回配信と同等の伸びを期待するのは難しいだろう。
「まずは着実にファンを獲得。コンスタントな配信、宣伝、還元。やることは多いわ」
「面倒くさそうだな」
「慣れればすぐよ」
「
「はぁ?」
さすがの赤染も、声をあげざるをえない。
ウルフの態度は、
否、
「横暴よ横暴。私をなんだと思ってるわけ?」
「最高の
「……条件は」
「俺の収益を折半」
「いままでと変わらないじゃない……」
「じゃあ、わめくこともないな」
「なんなのよ……わかったわ、手伝うから」
無茶な願いであっても、お互い様の精神でここまでやってきた。
今回も例に漏れず、赤染は受け入れた。
「これでウルフに貸しができたわね」
「ずるいな」
「あんたがいえたもんじゃないでしょ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます