第7話 決闘終わり、高額投げ銭に喜ぶ初配信!
スネーク。
彼もまた、ウルフと同じ暗殺者だった。
しかし、特務機関の所属ではない。
単独で依頼を請け負っていた。その点では、ウルフ以上の一匹狼だ。
ウルフとスネークは、ときに同じ獲物を巡って争った。
多くはウルフが勝負を制したものの、ある面ではスネークが勝っていた。
表向きは失敗に見えても、結果的に任務の達成に近づく、というのがスネークだった。
「いかせてもらう!」
持ち前の瞬間移動。
ウルフの背後をとり、腰から短剣を二本。
引き抜いて、切りつけんとする。
「……その程度、読める」
ウルフは、かわした。造作もない、とでもいうように。
目を瞑ったまま、ウルフは攻撃を回避した。
・まじかよ
・えっ
・語彙力が消えちゃう〜
五連続、瞬間移動。
五連続、余裕の回避。
素人にはそう映る。ただ、実際のところは。
(スネーク、腕は鈍っていないらしい。勝てるだろうが、どこに穴を見出すか)
(さすがだよ、ウルフ。やはり君はすごいよ。でも、倒さなくちゃね)
心の中で、両者はそう考えていた。
決して、一方が圧倒的に優勢、というわけではないのだ。
・ざ、残像が見えるよっ
・ウルフの動きも早いな
・短剣の二刀流VS徒手空拳とかいう対決、冷静に考えるとウルフ不利に見えるけど、どうか?
二本の刀が迫る。
空中も選択肢にはあるが、避ける場所は限られる。
ウルフは唇を歪めた。
「君とて余裕じゃないみたいだけど?」
「どうかな」
スネークの瞬間移動は速い。攻撃が入るか入らないかのギリギリのラインに刀を走らせる。
いまのところは防御に徹するしかない。
だが、永遠に続くわけではない。
「……緩んだぞ」
瞬間移動には弱点がある。魔力が切れてくれば、すこしずつ移動が遅くなる。
常人には微々たる差。ウルフにとってはゼロコンマ数秒よりも、はるかに短い遅延で充分だった。
隙が生まれた。
拳。飛ぶ。
「単純だね」
撃ち抜いたのは残像だった。
反撃が、くる。
避けられなくもないが、ウルフにとって、ややかわしにくい。
(ほぅ、スネークもやるじゃないか!)
持ち前の身体能力で、超人的な動きで回避。
・身体、曲がらなかったか?
・ウルフって背骨入ってんの
・【速報】ウルフ、体がゴム製と判明か
(やりすぎたな)
反省し、ウルフはすぐにカウンターに入る体勢を整える。
ここから拳や蹴りをを入れても、勝負がつくわけではない。
(どうぜ避けられる……あっ?)
スネークの動きを捉える。瞬間移動はしているものの、攻撃を避けるように動いてはいない。
「やはりいい動きをするね。今回はこの辺で勝負はお預けだ」
マイクが拾えない声で、ウルフに囁いた。
刹那、スネークの腹を捉えた。
『Winner、ウルフ!!』
両者の時計型端末から、効果音が上がる。
・うおおおおお!!
・スネークに勝っちゃったよ
・ウルフ強くないか
「いやぁ、ウルフ。君は強いね。まさか負けるとはね」
服についた汚れを払ってから、スネークはいった。
「強き者が勝つ。戦いの鉄則だろう。実力だ」
「いい切るね」
ウルフとて、完全に余裕だった、というわけではない。
スネークが負けにいったとき、針のような細さの魔力の塊が、ウルフの顔の横を通過した。
当たっていれば、ウルフの負けだった。
(油断は禁物、か。まだまだ精進が必要らしい)
・【赤染茉理チャンネル】なにやってんの! スネークさんと決闘なんて聞いてないんだけど!
ウルフはコメント欄に目をやった。赤染のコメントが、固定表示されていたのである。
「悪いな茉理。先にコラボしてしまって悔しいんだな。いずれ機会を設ける」
「多分そういうことじゃないと思うな……」
「そうか?」
スネークは呆れ顔だった。
(まぁいいか。【血祭り】と会えなかったのが残念だけど)
暗殺者として、スネークは赤染茉理を知っていた。
・はぁ……
・そういうとこだぞウルフ
・勘違いも度がすぎるとウザいだけだぜ
「ともかく、今回は楽しませてくれてありがとう、ウルフ」
「こちらこそ」
スネークは右手を差し出した。
そして、握手。
「次は、本気でやろう。頼むね?」
「こっちのセリフだ」
互いに囁く。
今回のコラボはここで終了となった。
「じゃあな」
「また今度、頼むよ?」
スネークと別れた後、ウルフはさらなる深層を目指していた。
「だいぶ視聴者が増えたな」
赤染の宣伝、それ以上にスネークとのコラボ!
影響は、大きかった。
「現在の視聴者、万単位と来たか」
ダンジョン配信者にとっては、あってもおかしくない数字。
しかし、ウルフはいちおう初配信なのだ。駆け出しとしては、充分すぎる。
・登録者五桁達成おめ
・はやっ
・誰だよこんな激アツ配信見てるの
「俺ひとりだけの力ではないが……むろん常識、当たり前。ここに甘んじず、まずは国内のトップを目指そう」
・その前にスネークさんでしょうが
・滑り出しがいいからって興奮気味のウルフさん
コメントはやや辛辣だった。
「では、本日の配信は以上とする。チャンネル登録、高評価をよろしく。投げ銭もいまから一分以内にしてくれ」
登録者が万を超えたため、投げ銭が可能となった。ウルフは投げ銭を許可した。
「おー、来てるな」
次々とくる投げ銭に、ウルフは喜んだ。
『ナイスバトル!』
『スネークが打ち負かしたので罰金』
『このまま突っ走って! 応援しています!』
『おい、軽い気持ちで調子乗んな。乗るならもっと本気で乗れ』
「なるほど、俺に好意的なものも、いたのだな。タダで書けるコメント欄……いや、なんでもない」
・ぎくっ
・なんだ? 金を出せない奴は低俗だと?
・やめろ
『¥50,000 私、惚れちゃいました……貯めていたバイト代、あげちゃいます♡』
数百円台が大半を占め、ちらほら数千円台が出てくるなか。
「……以上で締切だ。おっ、名前は、【東京を泳ぐ鮫】、でいいだろうか? 高額な投げ銭をありがとう。他の奴らもな。換金した暁には、食事代に使わせてもらう」
・ナイス
・ガチ恋ファン、だと?
・ふざけんな! こんな獣にファンがいて、どうして僕に(以下略)
・厨二病が悪化すると、彼女ができる、のか?(錯乱)
・え、ウルフって「ありがとう」がいえたの!?
・盛り上がって参りましたよっ
コメント欄は活気を取り戻した。なにせ、高額な投げ銭だ。
しかも、もしかすると異性のガチ恋勢やもしれぬ。
匿名のアカウントからの投げ銭だ。女性かどうかもわからない。真相は闇の中だ。
とはいえ、ウルフは純粋にうれしかった。
「今回の配信は以上だ。期待を胸に、さらに精進していく所存だ。では、さらば!」
配信を終了。
「これは意外や意外。配信というのは、楽しいものらしいな」
ハハハ、とウルフは豪快に笑った。
いままでは赤染の配信に乱入していただけで、あまり配信ということに意識が向いていなかったが。
(これは、面白い。暗殺稼業なんかよりも、下手をすればな)
赤染がいない間に、配信の沼にハマってしまうウルフだった。
「ん?」
腕につけた端末が震えた。
『赤染茉理』
表示された名前から、電話がかかってきたようである。
〜あとがき〜
ここまで読んでいただきありがとうざいます。
作品のフォロー・★★★・感想などをいただけると励みになります!
「まだしてないよ」という方は、この機会にどうぞよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます