第69話
【グランド視点】
私はエムリアさん、ドラグさん、アクリスピさんと秘密会議を開いた。
「皆様に集まって頂いたのは、イクスさんが前に出てもらう段取りを整える為です。イクスさんはどうすれば前に出ていただけるか?考えた結果、悪徳奴隷派遣ギルドを見学してもらうのが早いと考えます」
「いいと思うぜ。イクスは奴隷を使い潰すのを良く思わない。一回現実を見せた方がいい」
「はい、ソナパ奴隷派遣ギルドがいいでしょう。表向きは犯罪者奴隷を購入している事にはなっていますが、裏では借金奴隷を購入して安く使い潰すように過酷な労働を強いています。イクスさんが表に出る事でお母さん協会の借金奴隷購入はさらに加速するでしょう」
イクスさんが前に出る=お母さん協会で借金奴隷の購入が進む=奴隷の購入価格が上がる=悪徳ギルドが苦しくなる
このような構図に持っていければイクスさんは前に出るだろう。
イクスさんが前に出て悪徳ギルドを批判してくれれば更に効果的だ。
「イクスは明日出てくる。グランド、見学の段取りは任せるぜ」
「お任せください」
「私も、メシウマ協力する」
「俺とアクリスピでイクスを見学に行かせる。何か言ってきたらすぐに呼んでくれ」
「私も協力します。イクスさんには是が非でも前に出ていただかなければいけませんから」
「決まりですな。早速準備を始めます」
こうして明日に向けた準備が整った。
【イクス視点】
日の光がまぶしい。
いい天気だ。
「グランド、どうした?」
「今すぐにソナパ奴隷派遣ギルドに向かいましょう。魔道カーに乗ってください」
「走っても大丈夫だぞ」
「いえ、車の中で動画を見ていただきたいのです。大事な内容です」
「……分かった」
グランドがここまで言うのは珍しい。
俺とグランドは車に乗りこむとすぐに運転手が車を発進させた。
「イクスさん、まずはこの動画を見てください」
グランドが動画を再生させた。
『たった今パソナ奴隷派遣ギルドの冒険者パーティーを尾行しています。4人のパーティーの後ろで指揮官の男が魔物と戦わず座っています』
ソナパのパーティーを尾行している動画か。
『おらあ!速く倒せよ!お前ら!俺が酒を飲み終わる前に倒せなかったら苦痛を与えてやるから覚悟しろよ!』
4人の奴隷冒険者が奇声をあげながらトレントに突撃した。
皆異様に痩せていた。
その後ろで指揮官の男は酒の瓶をラッパ飲みし、干し肉をむしゃむしゃと食べ太っている。
4人は血を流しながらトレントを倒した。
『回収!』
『す、少し休ませてください』
『回収うううううううううううううううう!』
奴隷は泣きながらトレントを回収した。
続いて指揮官の男はパンを4人に投げつけた。
『感謝しろよ!食事を与えてやってるんだからなああ!座るな!歩きながら食べろ!休むな!』
これは酷い。
明らかに命に関わる戦いを強要している。
『ほれ!先に見えるトレントも狩ってこい!すぐに行け!』
みんな血を流している。
連戦となれば更に過酷だろう。
『いつも通り今日一番動いていない奴に激痛を与えてやる。ありがたく思えよ。がっはっはっはっは!ん?そこにいるのは誰だ!?出てこい!』
ここで動画は終了した。
「配信をしていた配信者はどうなった?」
「無事逃げる事が出来たようです」
「これが今から見学に行くギルドか」
「はい」
「何となく、グランドの言いたいことが分かった。他の動画もあるのか?」
「あります」
「見よう」
俺はソナパの悪行動画をいくつも視聴した。
動画の視聴が終わるとグランドは言った。
「ソナパの評判は私が商会をやっている頃から悪いのです。ですがソナパの依頼料は安く、魔物討伐も早い為、ソナパに依頼を出す商会は多く、しかも裏では借金奴隷を安価に購入して利益を高めています」
ギルドがどんなにブラックでも安く仕事をして貰えるならそこに依頼は集中する。
奴隷を使い潰すように働かせて早く依頼を達成させる事でソナパは成長してきたか。
「今回のギルド見学でソナパは自分を良く見せるような案内をするでしょう。ですがその裏を見ていただきたいのです。どのくらい自分のギルドを良く見せる能力に長けているか、どのような言い回しでイクスさんを案内するのか。イクスさんにはいつも通りに接していただきたい。ですが、注意深く見て欲しいのです」
「……分かった」
俺はソナパを見学した。
「どうも!イクスさんの事はネットで拝見しております」
会長が笑顔で俺と握手を求めてきた。
俺と握手をした瞬間に写真を撮られた。
後で分かった事だがそれがネットで公開された。
「我がソナパでは慈善事業に力を入れています」
会長は孤児院を案内する。
確かに孤児院は綺麗で立派だがあまりにも規模が小さい。
更に慈善事業のよく見える部分のみを案内されてそれも撮影されていた。
「ソナパでは奴隷を人材として大切に扱っています」
見学した奴隷パーティーの服装を見ると異様に新しかった。
まるで今日新品を着せてもらったかのように見えた。
奴隷たちは作ったような笑顔で楽しそうに笑いながら魔物を狩っていた。
この奴隷達は痩せておらず見た目が良い。
見せる用の奴隷である事が分かった。
見学が終わるとグランドが言った。
「ソナパの本当の姿を、分かっていただけましたかな?」
「ああ、良く見せる能力の高いクズだな。しかも組織が巨大な分更にたちが悪い」
「分かって頂けて何よりです。借金奴隷の解放を続けましょう。所で、イクスさんには本気を出していただきたいのです。私はソナパが嫌いです。借金奴隷の値段は前より高くなりましたがそれでも安すぎます。奴隷の購入が進めば奴隷の購入費用が高くなりソナパも苦しくなります」
「俺に前に出て欲しいのか」
「そうです。イクスさんには毎日配信を行って欲しいのです」
「ソナパは巨大だ。4国も気を使って表立った批判はしない。冒険者ギルドにとってもソナパは依頼を受け、奴隷を買ってくれる上客だ」
「ええ、確かにソナパは巨大なギルドですが出来る事はすべてやりたいのです」
やりたくない気持ちもある。
だが、それ以上にソナパが嫌いだ。
そこはグランドと同じなのだ。
俺が配信をした所でそこまで影響力があるとは思えない。
だが、やってみようと、そう思った。
借金奴隷がソナパに買われるのは気に入らない。
「分かった。やってみよう」
「ありがとうございます!」
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