第52話

【グランド視点】


 街の外でキャンプを作り一泊した後スライムがいる群生地を目指した。

 他の冒険者が多くなり、更に少し進むとスライムがいる湿地帯に到着する。

 イクスさんは走って偵察に向かった。

 戻って来るとキャンプ地点を決め、木の棒で大きな円を描いた。


「この中で好きな場所にテントを張ってくれ!見回り部隊をやりたい者は申し出て欲しい!」


 イクスさんがテント作りに慣れた者を褒めるとその子は、得意になって皆にテント作りを教えだした。


 テントを張り終えると今度はスライムのいる簡易マップを張り出した。

 更に食事を作りの配膳係を決めた。


 次にニャリスと一緒に近場の街にあるギルドと交渉をして近くに簡易取引所を作って貰おうとして断られたようだ。

 コメントを見るとイクスさんを笑う者がいて悲しい気分になった。


 だが、イクスさんは気にせずすぐにストレージに収納できないほど大きなログハウスを建て始めた。

 どうやらスライムを一括で預かる簡易取引所を作るようだ。

 ストレージのスキルを使える者は少なく、使えても容量が小さい者が大半なのだ。

 毎日込み合う街のギルドに運んでいては効率が悪い。


 ログハウスが出来るとイクスさんはすぐに動いた。


「カノン、アクアマリン、パーティーごとにスライムを預かって、どのパーティーがどれだけスライムを預けたかメモをお願いしたい」


 うまい!事前にスライムの預かり日に休日を設定する事で、他の子も休むようコントロールしている。

 更に希望者には受付嬢を体験してもらい給金も出る仕組みにした。

 スライムを預けられないとなればその日は他の子も休むだろう。

 そして混雑している街のギルドに向かい、納品の待ち時間を無くした。

 当然私も事務員として立候補した。


「グランドがいれば心強い」


 その言葉で胸が熱くなった。

 私はその言葉のおかげで助けられてきた。

 イクスさんの訓練があったおかげで夜遅くまで商会で仕事をしても倒れずに済んだ。

 イクスさんがいなければ今の私は無い。


 アクアマリンとカノンには交代制でブルーフォレストに帰ってスライムを納品して貰う事になった。

 近場のギルドで納品すると半日待つことになる。

 ギルドに大量のスライム納品があり、パンク寸前だった。


 更にニャリスがその様子を配信する事で本来街に入るはずだったスライムの販売収入がブルーフォレストに吸われている事が街に伝わり、領主がギルドの人手不足問題に対して何も手を打っていないことがバレ始めた。

 その事で領主がギルドの混雑防止の為応援人員を呼ぶ形で重い腰を上げた。


 そしてついでに追加の冒険者をブルーフォレストから連れて来てもらう事で規模を拡大していった。


「さすがですな。どんどん効率が上がっています」

「まだまだだ。もっと施設を充実させる」


 そう言ってまた大きなログハウスを作りだした。




 そして食堂が出来た。

 食事の匂いがするとみんなが並んでいた。

 ニャリスは配信を始める。


 私も並んで食堂に入るとホットサンドセット1つだけのメニューのようだ。

 1つのメニューを高回転で回す事で500ゴールドの安価で提供している。

 ニャリスが私を撮っている。


 揚げたポテト

 野菜とハンバーグを挟んだホットサンド

 野菜スープ

 ビンに入ったサイダー


「ホットサンドセットです!」


 子供が笑顔でホットサンドセットセットを渡してくれた。

 席に座り、ゆっくりと味わう。

 昔、イクスさんに作って貰ったホットサンド。


「うん、味がいい。揚げたてのポテトとホットサンドは運動量が激しく汗をかく冒険者にマッチしています。サイダーもよく動くと飲みたくなります。これは、癖になる味ですな」


「野菜スープも美味しいよ」


 そう言いながらニャリスは配信を続ける。


「ベーコンの風味と野菜の甘みが優しい。メニューを増やせば街に出店してもやって行けるでしょう。更に元奴隷ではない他の冒険者にも食事を解放している点はイクスさんらしいですね」


『グランド氏の話を聞いていると食べたくなってくる』

『うまそう』

『ワイも食べたい』

『でも遠いよな』



「グランドさんはこの食堂の事を知ってたの?」

「いえ、こうなるとは予想できませんでした。これで納品と食事が揃いました。皆は長期間ここに滞在し続け、スライムを狩り続ける事が出来ますな」


「次は錬金術師を呼んで武具を販売するんだって」

「ふふふ、イクスさんが動くまで何をするのか全く分かりません。ですが、終わって結果だけを見ればなるほど、確かにこの手があったなといつも感心させられます。結果を出した後に見れば大した事が無いように見えます。しかし皆がやらない事を最初に始めるのです」


「……」

「……食べてもいいですかな?」

「気にしないで」


 私はゆっくりと、味わいながら食事を堪能した。


 若いころを思い出し、涙があふれる。

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