第51話

 魔道列車の旅が終わると、走ってブルーフォレストに戻った。


「おおお!お母さんが速いよ!」


 ニャリスはまだ配信を続けている。


『ストレス発散ダッシュwwwwww』

『分かりやすいよなwwwww』

『お母さん、ご自愛ください』

『なお、ご褒美はまだ3人分残っている地獄』


 速度を上げても皆ついてくる。

 成長したな。

 特にアクアマリンの成長は凄まじい。


 本人は家族の中で力が無いと言っていた。

 だが、筋力という意味では少なめでもその分素早くスタミナもある。

 魔法剣で攻撃力を補い、更に回復魔法すら使いこなす。

 

『こいつは才能がない』


 そう言われても、育てて見れば頼もしい成長を見せる。

 何度も繰り返して来た事だ。


 ニャリスのご褒美は終わった。

 だが、まだ3人残っているのか。


 それに、ドラグ達と話をして魔物を手分けして倒す事が決まっている。

 俺は異常発生したスライム討伐係だ。

 俺一人で倒した方が早いが、皆の成長や今後を考えれば俺はサポートに回ろう。


「ギルドに戻って食事にしよう!今後の事を話す!」

「「はい!」」




【ギルド】


 食事を頼み、今後の予定を話す。



「……と、言うわけだ」

「大変そうですね」


「うむ、スライム討伐は時間がかかるだろう。そこで先にご褒美の件を聞いておきたい」


「わたくしは、後で良いですわ」

「カノン、遠慮しなくていい。今言ってくれ」

「いえ、落ち着いてからにしますわ」


「ぼ、僕も後にするよ」

「私も後にします」


 カノンが遠慮するとみんなが言いにくくなる。

 ジェンダとアクアマリンも遠慮して後回しにした。

 3人はそこまで遠慮しなくていいと思う。

 だがニャリスには少しでも見習って欲しいものだ。


 ニャリスを見るとゴレショを起動させつつコメントを拾っていた。


「また魔道列車に乗るの?」

「乗る。明日スライム討伐キャンプの希望者を募る」


『今度は大量に引率するのか』

『ほんと、お母さんだよな』

『はしゃいだ子供が動き回るだろうな』


「と、言うわけで今日は休むのだ。俺は3日後の出発まで足りないテントを作る」


 こうしてその日は終わった。




【次の日】


 俺は奴隷の住む家に向かった。

 一室を工房として使わせてもらっているのだ。


 家の前に着くと、寒い中みんなが整列していた。

 前にはグランドが立っていた。

 そしてニャリスはゴレショを起動させて配信している。


「む?」

「イクスさん、基本の戦闘訓練を終えた1500名の希望者は選別済みです」

「グランド、さすが優秀だな」


「はっはっは!ご冗談を!イクスさんには遠く及びません」


 優秀なグランドが俺を持ちあげると、俺が凄いみたいになってしまう。


「提案ですが足りないテント作成は錬金術師の子にまかせ、すぐに出発してはどうでしょう」

「うむ、それは助かるが、錬金術師はポーションの作成や武具の作成で収入を得る事が出来る。稼ぎを減らしてしまうのではないか?まだ奴隷解放をされていない者もいるのだ」


「皆がイクスさんを手伝いたいと、そう言っているのです」

「「私達が作ります!」」


「分かった。ありがとう。では、500人を連れて行く」

「その500人も決まっています」

「本当にグランドは優秀だ」

「イクスさんの足元にも及びません」


 俺はアクアマリンのパーティー、そしてグランドと共に500人を連れて魔道列車の駅に向かった。




 駅に着くと3グループに分け、最初は俺、次はアクアマリンのパーティー、そして最後はグランドに引率してもらい、南の目的地を目指した。

 空いている時間帯を狙ったが3グループに分けても完全に座席数をオーバーしている。


 立ち乗りの子が多いがみんな初めての魔道列車に乗り楽しそうだ。


「「きゃっきゃ!」」

「こら!走るな!」




 レストランは常に満員だ。


「今日だけは食べたら早めに移動してくれ!」




 みんなテンションが高い。


「だんだん暖かくなって来た!空気が違うよ」

「皆で窓を開けるな!他のお客さんの迷惑になる!」

「お母さん、南は暖かいの?」

「防寒具はいらないだろう。そのくらい暖かい」


「スライムはどれくらいいるの?」

「億単位でいるようだ。スライムはネズミ算式に増える。討伐には時間がかかるだろう」


 他の冒険者も集まってはいるが、それでも冒険者の数が足りていないのだ。




 長い時間魔道列車に乗っていると静かになった。

 眠りだす子が多くなった。

 2人座る席に3人が座り寝ている。

 だが、そろそろ到着だ。


「皆!起きろ!起きない者は隣にいる子がおんぶして運べ!もうすぐ目的地だ!」


 目的地に着いても起きない子がいた。

 俺は寝ている子を窓から強引に降ろし、更に荷物の忘れ物をチェックして素早く降りた。


 周りのお客さんが『大変だねえ』と声をかけてきた。

 うるさくして迷惑をかけたがみんな優しいな。


「やっと、目的地に着いたか」


 みんなで駅を出て、決めていた街の外にある集合場所で待機する。


「今からテントを組み立てる!起きている者だけでも参加してくれ!」


 俺が1ステップずつ組み立て、周りの子が真似をして作るテントをチェックする。

 テントが完成したら寝ている子をテントに入れた。

 更に皆にはテントを畳んで作るを繰り返してもらった。


 男の子はテント作りのタイムアタックをして遊んでいた。


 俺はストレージで両手で抱えないと持てないほど大きい大鍋を取り出し、火にかけ、大きなへらで切った肉を炒め、水を入れて根菜を入れて煮込む。

 更に葉物野菜を入れて煮込み、キノコを入れて塩・香辛料・ハーブを入れて煮込む。


 本来はスパイスや乾燥ハーブを早めに入れるが、皆が何をするか分からない。

 炒めている際にトラブルで調理を離れれば焦がす可能性が高かった為失敗しない調理方法を選んだ。



 食事が終わったころにアクアマリン達がやって来た。

 みんな疲れているようだ。


「お疲れ様、次のスープを作る。皆はテントで休んでいてくれ」

「手伝います」

「僕も手伝うよ」

「わたくしも料理は出来ますわ」


 3人は手伝うといったがニャリスだけは配信を続ける。


「美味しそうな匂いがするよ。スパイスの香りがいいね」


「みんなは、休んでくれ。移動の引率だけで助かっている。本当に助かる」


『本当に助かるの感謝してる感が凄い』

『そりゃそうよ、魔道列車のあれを1人で世話してたんだぜ?』

『ニャリスも子供の世話をしていたけど、絶対に配信は止めなかったよなよな』

『ゴレショがあるからオートで配信が出来るんだよなあ』


 俺は3人を強引に休ませて食事を作る。




 グランドが来るが、グランドだけは疲れを見せていなかった。


『グランドだけ無傷、だと!』

『さすがグランド商会の元経営者!』

『いつも控えめだけど出来る感が凄いよな。マフィアのボスみたいな凄味がある』

『人を使うのがうまいんだろう』


「やはりグランドは優秀だな」

「いえ、私には時間がありましたから、誰にどの係を任せるか事前に考えておいたのです。最前線で不確実性の塊のような事を続けるイクスさんこそ、見習うべきでしょう。不測の事態が起きても必ず対策と防止策を考え、何度もリカバリーするその力、事前準備不足の中結果を出し続けるその力はまさに万能の救い手にふさわしい」


「……グランド、ゆっくり休んでくれ」

「イクスさんは不確実の連続で出来たような魔物狩りに長い間身を置いてきました。イクスさんは何が起きても必ず立て直します。その柔軟な発想こそが経営においても大事だと考えます。転んだままリカバリーできず退場する経営者を何度も見て来ましたから」


『グランドのオーバーキル』

『グランドが止まらないwwwwww』

『お母さんの偉大さを伝えたいグランドVS目立ちたくないお母さん』

『お母さんは何度も色々立て直すけど、自分の偉業だけは隠しきれていない件wwwwwwww』

『それだけはことごとく潰され続けているよなwwwwww』


『お母さんが下手にしゃべらない作戦に切り替えたぞ!』


 俺は無言で料理に集中した。

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