第39話

【次の日】


 ジェンダは朝会ってすぐに謝って来た。


「ごめん!僕びっくりして」

「いや、急に入ってしまった。男でも多感な時期はある」

「……そ、そろそろ出発だよ!」


「待て!初心者セットでは武具がすぐ駄目になるだろう。今すぐいい装備に着替えてくれ」

「い、今は、その、時間を掛けて合う装備を選びたいんだ!」


「今日帰ってからの方がいいか?」

「そ、そうするよ」

「ギルドで選んで貰うよう手続きしておく」


「ジェンダ、お母さん、早く行くよ!」

「ニャリスが呼んでいる。今日帰ってからだな」


 俺はジェンダの背中を押すとビクンと跳ねるように驚いた。


「ジェンダ?」

「な、何でもないよ!行こう!」


 こうしてジェンダとニャリスと共に沼地に向かった。




「えい!」


 ジェンダがイートトードを切り倒した。


「おお!いいねいいね!ジェンダ君いいよ!」


 ニャリスは実況を重視して攻撃しない。


『ジェンダは余裕だな』

『もっとたくさん相手にしても余裕じゃね?』

『アクアがいないのか』

『お母さん!魔呼びのポーションだ!』


「お母さん!魔呼びのポーションだよ!」


 俺は無言で魔呼びのポーションを木に投げた。


 イートトードの群れがジェンダに迫る。

 ジェンダは粘液を浴びながら気にせず倒していく。


『Dランク冒険者クラスだな。俺には分かる』

『ソロで戦わせて配信動画を受付嬢に見せれば数日でFランクからアップするだろうな』

『次の奴隷を買おうぜ』


「次は200人の奴隷を買う予定だよ。今度は私達で戦闘訓練をする様子も配信するね」


 100人の奴隷解放をした後皆には数日休んでもらった。

 ニャリスは休んでいないが、まあこいつはこういう奴だ。


 休みが終わった後奴隷の購入を再開する。

 その前にジェンダを買って様子を見ている。

 ジェンダが強すぎて参考にならない部分はあったが重要なのは少年を問題無く世話できるかだ。

 多分だが、男は言う事を聞かず走り回ったりとやんちゃな子が多い。

 動物園状態になるかもしれない。

 大丈夫か?



 ジェンダがイートトードを全滅させた。


「すまないな。全部1人で戦わせた」

「大丈夫だよ。もっと戦って強くなりたいんだ」

「次はうな竜に行ってみるか」


「行こう!早く強くなりたいんだ!」

「歩いていこう」


 俺達はうな竜のいる水辺を目指した。


 


 ザシュ!

 

 ジェンダがうな竜に斬りかかった。


 更にうな竜が噛みつこうとした瞬間にジェンダの大剣がヒットする。

 ひるんだうな竜に更に追撃を加えて連撃を食らわせた。


 ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!ザン!


 うな竜が倒れた。


 初心者装備で倒せるなら、装備を変えればもっと早く倒せる。


「ジェンダ、今日は帰ろう。帰ってしっかり食べて装備を変えてくれ」

「分かったよ」

「ジェンダ、もうDランクの強さは持っている。Cランクを目指してもいいと思うぞ」


 ジェンダの顔が明るくなった。

 少年は単純でいい。


 俺達はギルドに帰った。

 ジェンダは帰ってからすぐに装備を選んだ。

 アサルトアントの甲殻を使った軽装鎧だ。


 その後たくさんの食事を食べていた。

 アクアマリンを思い出す。


 アクアマリンは進化前だったが、ジェンダは角や尻尾などは生えていないから、進化前という事は無いだろう。

 だが、顔に似合わず大食いだ。


 俺は数日の間ジェンダと一緒に魔物を倒して回り、少年100人、少女100人の奴隷を購入した。


 雨が降り、雷鳴が鳴り響く。


「今日の訓練は中止か、みんなは受付嬢の講習をしっかり聞いて休んでくれ!」


「「はーい!」」


 受付嬢が50人ずつ講習を受けさせていく。

 俺がアニスを奴隷として売り払う所を見せたあと言った。


「みんなはいい子でいましょう。あまり悪い事をするとこうなりますよ!」


 飴と鞭か。

 アニスを売った時の動画を見せてどこまでやれば売られるかの線引きを教えているようだ。

 ギルドの方も育成に慣れてきている。


「あ、魔王さんは休みましょう。呪いが酷くなっているんですから」

「すまない。後は頼む」

「はい、任されました」


 俺は宿屋に帰った。




【ジェンダ視点】


 僕は暗い部屋に入った。


「よく来たな」


 アクリスピさんとドラグおじいちゃんがニコッと笑った。


「ドラグ、うまくやった」

「ん?何の事だ?」

「バレバレ、ジェンダは女の子、そして竜族」

 

 そう、僕は竜族だ。

 竜族は進化するまで頭に角が生えない。

 人間と変わらない見た目をしている。


「はっはっは、バレていたか。ジェンダは俺の孫娘だ」


「イクスが知ったら怒る」

 そう言ってにたあっと笑った。


「俺はジェンダが男だとは一言も言ってないぜ、くふふふふ」

「ジェンダ、グッジョブ!」


 アクリスピさんが親指を立てた。


「アクリスピ、お前も昔から悪戯が好きだよな。ま、俺もだぜ」

「気が合う」


 2人が邪悪に笑った。


 どうしてこうなったんだろう。


 僕はただ、イクスさんが好きなだけなのに。


 それをおじいちゃんに言ったら、こうなってしまった。


 言い出しにくい、イクスさんに言う事が出来なくなった。


 僕が進化して、子供の体から女の体になって、女の顔になって、イクスさんにバレたらどうなるんだろう?


 ゴロゴロゴロ!ビシャン!


 外を見ると雷光が暗闇の中で光を放っていた。

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