第40話

 奴隷の教育と訓練は順調に進んだ。

 安定して奴隷を育成できるようになると、ギルドの地下に借金奴隷が送られてくるようになった。


「魔王さん!もっと奴隷を買いましょう!魔王さん無しでも回るようになってきました!」

「「私達が面倒を見ます!」」


 解放した元奴隷少女が訓練を手伝ってくれる。

 俺は育成費用も込みで計算して奴隷を買えるだけ買った。


 呪いを癒す為寝て過ごした。

 夕方になるとアクアマリンが回復魔法を使える元奴隷少女を連れて訪ねてきた。


「リカバリー!」

「リカバリー!」

「リカバリー!」

「リカバリー!」

「リカバリー!」


 みんなが呪いを癒すための魔法をかけてくれる。


「助かる」

「調子はどうですか?」


 アクアマリンが俺の額に手を当てる。


「助かるけど、力は奴隷を助ける為に力を使って欲しい」

「あの、ジェンダの事ですが……」

「どうした?」

「何でもありません。今は休みましょう」

「そ、そうか」


 アクアマリン達は帰って行った。

 その後ニャリスが訪ねて来た。


「お母さん!企画を持って来たよ!」

「ニャリスの企画……嫌な予感がするんだけど?」


「聞いて!グランド商会が寄付をしたいって!でも条件が配信をしつつお母さんと対談させてくれるのが条件だって」

「グランド商会か、大手じゃないか」

「そう!これは話題になるよ!」


「知名度アップなのか、宣伝なのか?分からない。話を聞いた後に寄付を受けるかどうか決めたい。その前提で話を進めてくれ」


 最悪グランド商会の宣伝に使われて、それに俺が同意していると取られかねない。

 寄付を受けるかどうかはその判断の後だ。


「分かったよ」


 ニャリスが尻尾を振って踊り出す。

 可愛いんだけど、配信に魂を売りすぎだ。


「ニャリス、もう登録者数は十分じゃないか?10万を超えているだけで凄いと思うぞ?」

「ええ?お母さんの方が凄いよ!まだまだ行けるよ!」


 言っても無理か。




【配信当日】


 俺は元奴隷少女が住むホールで配信を待つ。


「良い所だな」

「ん、ここは落ち着く」

「久しぶりね」


「おお!さっそく配信を始めるね!4英雄が揃ったを追加っと。ニャリスだよ!今4英雄が揃って座っているよ!」


「皆ニャリスに呼ばれたのか?」

「呼ばれた。面白そうだったから参加するぜ」

「パープルメア、忙しくないのか?帰った後またこっちに来て大丈夫か?」


「う~ん、後で挽回できると思うわ」


 あー、忙しいのか。


「アクリスピは、聞かなくていいか」


 ニャリスは皆に話を聞きながら場を持たせていた。


 元奴隷の子がニャリスに耳打ちする。


「準備OKだよ!始めるね!」


 小さい子供が飲物を渡してくる。


「お、サンキューな!」

「ふふ、ありがとう」

「ん、良く出来た」

「ありがとう」


 俺は収納から紙とペンを取り出した。


「お前、何でそんなボロボロの紙を使っているんだ?」

「これは良い物なんだよ」


 ニャリスが進行してハーフエルフの男が出てくる。

 見た目は若いが貫禄があった。

 そして挨拶をしながら俺達4人と握手をする。

 ハーフエルフの男は俺と握手をしながらボロボロの紙を見ていたような気がした。


「それでは、話を始めてもいいですかな?」

「OKです!」


「私はグランド商会の会長をやっているグランドと言います。私は小さな頃は貧しくてエルフの父を亡くしてからは苦労しました」


 ああ、自分語りか。

 そういう目的ならやりやすい。

 特に思惑があるわけではないだろう。


「私が小さいころ、母を手伝い紙を作って売っていました。と言っても紙の利益は薄く、働いても働いても貧しいままでした。そんな時ある男がお茶を貰いに来ました。その男はいつも言いました。今日はお腹の調子が悪くてな。お茶を飲むと調子が良くなる。お礼にパンをあげよう。そう言いました」


 あれ?それって?


「その男は毎日決まった時間に来て安いお茶を貰い、いつもお腹が痛いのが治ったと言って私にパンを渡してくれました。そのパンはどんなパンより美味しかったのです。ある時いつものようにパンを食べていると母が気付きました。どこで貰っているのか聞かれあった事を話しました。その瞬間に今まで泣いた事がなかった母が泣き出したのです」


 まさか


「母はこういいました『これが本当のやさしさなのよ』と言って泣きました。どんなに貧しくてもいつも笑顔だった母の涙は今も覚えています。私は毎日パンを貰う事で助けられていたのだと、今なら分かります。母が男に頭を下げてからパンは貰えなくなりました。今なら分かります。私はその男に施しを受けていたのです。ですが当時はそれが分からず、何も知らない子供でした。私はただただ、得意げになっていました」


 いや、だが、気のせいかもしれない。


「その後も同じ男が現れました。私がうまく作れなかったボロボロの紙を高く買ってくれました。何度も何度もです。使い切れない量のボロボロの紙を何度も買ってくれました。その男は失敗して売り物にならない紙だけを買っていったのです」


「イクス?どうしたの?」

「イクス、怪しい。その紙、ボロボロ」

「い、いや、何でもない」


「その男はまた私に会いに来ました。ギルドで手伝いを探していると。そう言って訓練場に行き戦闘訓練を受けると毎日お金がもらえました。訓練は厳しく、いやになった事もありましたが私は毎日お金をもらうために訓練に行きました。今なら分かります。訓練はお金をもらうものではありません。お金を払うものです。私は何も分からない馬鹿な子供でした」


「お母さん、目が泳いでるよ?」

「な、何でもない」


「おほん、続けていいですかな?」

「い、いや、2人で話をしないか?配信は終わりにしよう」


「そうは行きません。言わずにはいられないのです。続けます」


『来た!その男ってまさかおかあさ』

『絶対そうだろwwwwww』

『お母さんの焦り方が面白い』

『絶対お母さんだwwwwwwwwwww』


 大量のコメントが流れる。

 嫌な予感がする。

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