第25話

「な、何で、取った?」

「つい」

「ついじゃなくて、え?このタイミングで取るか?」


「私、昔からそうで、ボタンを押すなと言われると、押したくなっちゃうんです。ごめんなさい」


 完全に油断していた。

 だが、アクアマリンは俺の仮面が気になっていた。

 仮面を外すとは思っていなかったが今考えれば予兆はあった。




『アクアマリンちゃん!グッジョブ!』

『今日は泣いて笑えた!お母さん面白い!』

『お母さん優しそうな顔をしてる。声もいい』

『アクアは前からお母さんの顔が気になっていた』

『お母さんのファンになったわ。私も奴隷になりたい』

『ついに正体を現したか』

『お母さんのあの顔、ウケるwwwwwwwwww』


『時が止まってたよな!wwwwwwwwお母さんが止まった瞬間!』

『切り抜き班、準備OKです!』

『これは切り抜きが盛り上がる』

『お母さん、広告収入が入ってきますよ。良かったですね』

『切り抜き依頼、引き受ける!』

『女性ファンが増えて良かったね、お母さん』


 アクリスピが立ち上がった。


「アクアマリン、良くない」


 こいつは電撃程度で黙らない。

 だが注意するのは良い心がけだ。


 借金奴隷は解放されてからも盗難を疑われやすい。

 こういう事はしっかりしておく必要があるのだ。

 アクアマリンの悪い癖は直しておくべきだろう。


 俺はアクリスピを見守った。


「ごめん、なさい」


 そう言ってアクアマリンが持つ仮面をアクリスピが受け取る。

 そしてにたあっと笑った。


 魔力強化で両手を強化し、仮面をクラッシュする。


 バキボキ!グシャアアアア!


「ちゃんと、壊さないと、やるなら、最後までやり切る」

「おま!何してくれてんだ!!」

「お母さんを、解き放った。これで恐れるものは無い。身バレを気にせず、奴隷を救える。身バレを気にしなくなったお母さんは、最強」


「ちょっと良いことしたみたいに言うな!」


『お母さんが焦りだした』

『あの仮面絶対に高いだろwwwwww』

『アクリスピならお金で解決できる』

『お母さん完全敗北wwwwww』


「はあ、もう配信は終わりだ」

「え?これからだよね?」


 ニャリスはハイテンションになって俺の近くに寄った。


「仮面を取られた今、感想を聞きたいなあ」


 ニャリスは尻尾を振って俺に質問する。


「お前、生き生きしてるな」

「何?私の事?」

「ニャリス、お前配信の為なら何でもするだろ?」


「配信に情熱を持ってるのバレたかな?」

「そうじゃなくて、配信の為なら死んでもいいと思ってないか?」

「……まさかあ!」


『ニャリスはそういうところがある』

『ニャリスはこの前ダンジョンに行って死にかけてた』

『ニャリスはリスクを取って挑戦するいい子』

『お母さん!気を付けて!ニャリスは登録者数を増やす為なら何でもします!ニャリスは危ないです!気を付けてください!』


 俺はコメントをチェックした。


「登録者数を増やす為なら何でもする、か」

「はあ、はあ、いい、どんどん登録者が増えてる。ふふふふ」


「マジで疲れた」

「もし嫌ならご主人様の力で私を止めれば止まるけど?私は奴隷だから」

「奴隷として命令すれば、お前は自分の配信を自分で切り抜いて動画をアップするだろ?」

「するよ。当然、でもそれも命令して止めれば出来なくなるよ?」


『ニャリスが煽ってる』

『奴隷に敗北するお母さん』

『お母さんはそういうのが嫌いっぽいよな。アクリスピには電撃を食らわせてたけど』

『配信の為なら死んでもいい、キリ!』




「イクス、また呪いが酷くなったわね?今日はやめておきましょう。ニャリス、コラボしてあげるから今日はやめておきましょう」


 パープルメアが助け舟を出した。

 呪いが酷くなったわけではない。

 俺を助ける為に言ったのだ。

 パープルメアが一番お母さんなんだよなあ。 


「ふぉおおおおおお!絶対だよ!おっしゃあああ!これで配信は終了だよ。みんなありがとお!」


 ゴレショをしまって配信を終わらせるとニャリスのテンションが普通に戻った。


「どうも、おつかれさまです」


 ニャリス、こいつは危ない。


 それもあったが、まさかアクアマリンが俺の仮面を外すとは。

 アクリスピに集中しすぎてアクアマリンへの警戒がおろそかになっていた。


「はあ、女性の事が、よく分からん」

「わたくし、忘れられていますわ」


 カノンが俺を見ていた。

 バンパイアの少女でニャリスのすぐ後に購入した奴隷だ。

 ニャリスのキャラとアクアマリンの危機ですっかり忘れていた。


「……うん。すまなかった」


 ニャリスがテンションを上げて言った。


「パープルメアさんのチャンネルでカノンの能力を検証しよう!今やろう!司会は私がやるから!」


 押しが強い。


「分かったわ。約束だものね」

「今日は疲れた。俺は帰るぞ」

「ご主人様は寝ていて大丈夫ですわ。明日またお会いしましょう」


 そう言って礼をした。



「OK!パープルメアさんとのコラボが終わったらアクリスピさん、コラボしよ!」


「今日は、気分がいい、協力する」

「メシウマみたいに言うな!帰る!アクアマリン、今日はゆっくり休んでくれ」


「はい、今日は色々すませんでした」

「いや、もういい」


 ニャリスはすでに次のコラボ配信をスタートしていた。


「お母さん!カノンの能力は動画にまとめておくよ!」

「お母さんって呼ぶな!帰る!カノン、終わったらしっかり休んでくれ」

「分かりましたわ、ごきげんよう」


 俺はギルドを出た。

 




【カノン視点】


 配信が終わりギルドの宿に帰ると服を脱ぐ。

 そして魔法発動用の指輪を外した。


 更に腕輪を外すと体が光輝き、大人の女性へと姿を変える。


 外は暗く、雨が降り始めた。

 雷鳴が音を鳴らす。


 鏡を見ながらご主人様に買ってもらった指輪を、奴隷紋の刻まれた左手の薬指にはめる。


 ご主人様は言っていた。


『はあ、女性の事が、よく分からん』


「本当にそう、私の正体を、ご主人様は知らない。ふふふふふふふ、楽しみですわ」


 外を見ると雷鳴が音を鳴らし、暗闇の中で輝いていた。

 

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