第22話

【アクアマリン視点】


 ご主人様が奴隷を買うと言った瞬間、黒い感情が噴き出して来た。

 魔物を倒したい気分になってアサルトアントを何度も狩った。


 何体も何体も倒して疲れて少しだけすっきりした。

 血の匂いがする。


 ケガを負った冒険者パーティーが走って来た。


「やられた、アサルトアントにやられた」


 4人パーティーの内2人が血を流している。

 ポーションを2つ渡した。


「これで出血だけでも止めましょう」

「はあ、はあ、す、すまない助かった」


 2人がポーションを飲み、出血をチェックした。

 まだ1人、出血が止まらない。


「これも使ってください!」


 最後のポーションを飲ませて出血を止めた。


「たす、かった。帰ったらお礼をする」


『おお!アクアちゃん優しい』

『お前らアクアマリンに感謝しろよ!』

『おい、音がしないか?』

『来た!アサルトアントが来た!逃げろ!』


 ドドドドドドドドドドドドドドドド!


 4人の体力はあまり残っていない。

 早く走る力は残っていないだろう。


「私が時間を稼ぎます!逃げてください」

「く、すまない!」


 みんなが後ろに下がっていく。


 アサルトアントが6、13、20体以上!

 でも、ここで私が下がったら、みんな殺される。


 私は前に出て戦った。




 ◇



「はあ、はあ、後9体!もう少し倒せば、包囲を突破できます!あぎい!」


 アサルトアントに足を攻撃された。

 もう、早く走ることは出来ない。


「はあ、はあ、全部、倒します!」


 近づくアサルトアントに剣で斬りつける。

 位置取りを封じられて、アサルトアントの横に回り込むことが出来ない。


 でも、昨日より強くなった。

 囲まれても、足をケガしても戦える。

 倒せる!


 向かって来るアサルトアントの頭に剣を突き刺し、後ろから迫るアサルトアントに振り返りざまに剣戟を叩きこんだ。


「うああああああああああ!」


 連続で剣を振り、連続でアサルトアントを倒した。


『凄い!行ける!』

『これなら倒せる!』

『後5体、後4体だ!』


 後4体、行ける。

 一気に猛攻をかけてアサルトアントを全滅させた。


「はあ、はあ、やった?はあ、はあ、たす、かった」


『うおおおおおおおおおおおおおおお!!やった!助かった!』

『何とかなった!マジで焦った』

『アクアマリンちゃん、無事でよかった』

『信じてたぜ』


「はあ、はあ、ありがとう、ございます。すぐに、帰ります」





 ドドドドドドドドドドドド!


 遠くから、複数の足音が聞こえる。


 アサルトアント・ソルジャーが叫んだ。


「「ギイイイイイイイイイイイ!」」


「アサルトアント・ソルジャーが、9体!」


 ご主人様に言われた事を思い出す。


『複数のソルジャーと遭遇したら、逃げろ』


「あ、ああああああ!」


 足が動かない。


 息が苦しい。


 ポーションも無い。


 ソルジャーが突撃しながらあごで挟み込んでくる。

 剣で受けるが、私は浮き上がり大岩に吹き飛ばされた。

 起き上がる前にソルジャーが突撃する。

 


 そして、ソルジャーが私をあごで攻撃してきた。

 躱そうとするが裾が引っ掛かり捕まった。

 ソルジャーがあごで挟んで首を振る。

 私は空中に飛ばされて地面に落ちる。


 更に突撃攻撃を受けてまた吹き飛ばされた。


 私のお腹から血が流れる。


 ソルジャーが迫って来た。


 完全に包囲された。


 ソルジャーがじわじわと近づいてくる。


 もう、助からない。


「「ギイイイイイイイイイイ!」」




 その時、首輪が光った。

 迫って来たソルジャーを弾き飛ばす。


 首輪の光は私の全身に広がり、すべての傷を癒していく。

 魔力も、疲れさえも癒し、全回復の状態に押し上げる。


 ソルジャー9体が私を包囲する。


「「ギイイイイイイイイイイイ!」」


「「ギイイイイイイイイイイイ!」」


「「ギイイイイイイイイイイイ!」」


 私に怯えている。

 中々飛び込んで来ない。


 今の内に1体を倒す。


 1体の横に回り込み、足を斬り落とし、バランスを崩したすきに頭を潰す。


 私の力が増した。

 それによりソルジャーは私に攻撃を仕掛けてきた。


 怖がっていたのは私じゃない。

 ご主人様がくれた首輪の力だ。

 首輪の力はもう使えない、悟られた!?


 ソルジャーを通り抜けるように攻撃するがまた包囲される。


 でも、



「うああああああああ!」


 2体目を倒した。

 私の力が増す。


「3体目!4体目!5体!7、8!行けます!」


『ソルジャーを倒している!』

『アクアマリンちゃんの動きが良くなっている!』

『最後の1体も倒せる』


「いえ、逃げます!」


 私は走って逃げ出そうとした。


 でも、逃げようとした先から足音が聞こえた。


 ドドドドドドドドドドドド!


 さっきよりもリズムが早い。


 ソルジャーに似ている、でも、頭の形が、違う。

 とげのような突起がたくさん生えていて甲殻が厚い!


 動きが早い。


 止まらない!


 私は全力で回避した。


 回避しきれず掠っただけで吹き飛ばされた。


 後ろにあった大岩が音を立てて割れた。


「ギイイイイイイイイイイイ!」



『あれは、ソルジャーキャプテンだ!まずい!ソルジャーより更に強い!』

『何で巣から出てくるんだ!おかしい!あいつらは女王アリの護衛だ!』


 アサルトアント・ソルジャー

 アサルトアント・ソルジャーキャプテン


 2体の魔物が私を狙う。


「うああああああ!ウォーター!」


 キャプテンに攻撃が効かない。


 キャプテンに斬りかかる。


 ガキン!

 

 甲殻で攻撃が止まった。


 怖い、勝てない。


 絶対に勝てない。


 殺される!


「いや、来ないで!来ないでえええ!!」


 足がガタガタと震える。


『まずいまずいまずい!』

『逃げて!殺される!』

『もう駄目だ!見てられない!』


「ギイイイイ!」


「ギイイイイイイイイイイイ!」


 2体のアサルトアントが私を狙う。


「あ、あああああ!いや、」


 ドンドン!


 私のゴレショが壊れ、ソルジャーが倒れた。


「ご、主人様」

「ソルジャーキャプテンは俺がやる。下がれ!」


 ご主人様は私とすれ違うと私の傷が癒えていく。


 ご主人様が何をしたのか見えなかった。

 どうやって傷を癒したのか分からない。

 どうやってソルジャーを倒したのか見えなかった。


「キャプテンか、来いよ。相手をしてやる」


 ご主人様の顔が仮面で見えない。


 でも、ご主人様が笑ったような、そんな気がした。


 仮面の中の顔を見たい。


 ……そうか、私は、安心している。

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