第15話

ギルドカードと向き合い、コメントをチェックしようとするとアクリスピが話しかけてきた。


「呪い、まだ治ってない」

「そうね、また腕を見せて」


 パープルメアが俺の腕を観察する。


「聖水の樽が3つあるわ。使っていきましょう」

「いや、もう入っただろ」

「いいから入りなさい」


「……分かった」


 お母さんかよ


「今入りましょう」


 浴室に樽が3つ並ぶ。

 服を脱いで裸になった。

 アクリスピが俺を見続ける。


「今から聖水に浸かる」

「ん」


 アクリスピはじっと俺の体を見ていた。


「あっちに行ってくれ」


 アクリスピは答えない。

 俺は無視して聖水に入った。


 聖水が霧に変わって蒸発していくが、アクリスピは俺を観察し続けていた。


 浴室から出るとパープルメアが話しかけてくる。


「呪いが癒えてないわね。あまり休んでないの?」

「調子が良くなると暇で動いてしまう」


「子供と同じじゃない。変わらないわね」

「2人も変わらないだろ?」

「そうね、変わっていないのかもしれないわね」


「アクリスピは人が聖水に入っているのをじっと見てる。前からそうだ」

「言っても変わらないわ」


 アクリスピはじっとギルドカードを見て集中して見ていた。

 ゲームに熱中している。

 俺も子供かもしれないが、こいつも子供だよな。


「やっと動画がアップされた」

「ん?」


「これ、」


 アクリスピのギルドカードを覗き込んだ。

 俺の切り抜き動画がアップされていた。


『魔王様、浄化しきれない(聖水が秒で蒸発)』

『浄化しようとして失敗する魔王様』


「なん、だと。お前!俺の目をそらすためにパープルメアを動かしたな!聖水風呂から全部仕組んでいたな!」


 アクリスピが呪いの話をすればパープルメアはまた聖水に浸かるように言う。

 俺でも予想できる。

 こいつ直感で見抜いてヤッテる!


「何の事?私はイクスの呪いが気になっただけ。それにもう済んだ事」


 そしてにたあっと笑みを浮かべた。


「この前も俺が7日間居なくなった隙に色々仕込んだだろ?」

「バズって良かった。それよりも、このままでいい?動画はどっきりだったって、言わなくていい?」


「後出しで言ったら嘘に聞こえるだけだろ」

「ぷくく、魔王さま、焦って嘘をついてバレる」

「そういう切り抜きがアップされるんだよ!」


 パープルメアが口に手を当てて笑う。


「もう無理、手遅れ、食事にしよう」

「ふふふ、たくさん食べましょう」

「食事が、美味しい」

「メシウマみたいな言い方するな!」


 俺は食事を始めた。


「動画を見なくていい?」

「もう手遅れだ」

「正解、何もしない方が、まだマシ」


 俺は3人で食事を摂って宿屋を出て、自分の宿屋に戻った。

 戻って部屋に入って扉を閉めた瞬間に動画をチェックする。


『魔王様、浄化しきれない(聖水が秒で蒸発)』の動画を再生する。


 俺が聖水の樽に浸かる瞬間電気のエフェクトとバチバチと効果音が追加されている。


 そして入る瞬間がもう一度リピートされる。


 コメントを見る。


『魔王様が魔王すぎる!』

『これマジ?』

『元動画のリンクに飛んでみ?分かるぞ』

『魔王様は仮面と服を脱がないのか?風呂に入るならマナー違反』


 コメントが多い。

 俺はコメントを流し読みした。


 止まらずすべての切り抜きを見ていくが切り抜きが増えていき、計5本の切り抜きがアップされた。

 更にパープルメアのチャンネルに飛んで動画のコメントをチェックする。


 コメントが多すぎて見きれない。


「……まずい」




【アクリスピ視点】


 動画を取り終り食事が終わってイクスが出て言った瞬間に顔がにやけてしまう。


「ふふふ、もう、イクスに怒られるわよ」

「パープルメアも笑ってる」

「ふふふふ、だって、扉を閉めた瞬間に走って帰っていくんだもの」

「帰ってから動画を見てるはず」


「イクスはすっかり有名人ね」

「どんどん登録者が伸びてる」

「まだ伸びるわ」

「ドラグが来ればもっと伸ばせるわね」

「ん、ドラグは配信者向き」


 狂わぬ狂戦士 ドラグ

 4英雄の一人だ。

 分かりやすい性格でイクスと違って表裏が無い。

 言葉も直球で戦闘スタイルも派手で目立つ。

 4コマ漫画のような分かりやすい性格と戦闘スタイルは配信者向きだ。


「飯が、うまい。メシウマ」

「ふふふ、あんまりからかうとかわいそうでしょ」


 私とパープルメアは笑った。

 アクリスピは『メシウマ』をよく使うようになった。

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