第14話

 アクアマリンがたくさん食べている。

 奴隷にしてからたくさん食べると思っていたが、進化の予兆があって栄養不足だったのか。


 アクリスピが歩いてきた。


「今配信中か?」

「ん、そう」


「何で俺を映す!帰るのだな!」

「コラボのお願いに来た」


 アクリスピとコラボだと!

 いやな予感しかしない。


「ことわーる!」

「イクスが来ないなら協会の事とか色々ネタバレが起きる」


 孤児院協会の事か!


「……お、脅すのか?」


「そんな事無い、ただ心配してるだけ。イクスがいないとお酒を飲んで、酔ったら、色々言うかも」

「脅しじゃないか!」


「来る?来ないで色々ばらされる?」

「ぐぬぬぬ」

「色々(脅しの)カードは持ってる」


「何をするんだ?」

「ただパープルメアと3人で雑談をするだけ」


「ドラグは来ないのか?」


 狂わぬ狂戦士 ドラグ 

 100年前の英雄だ。


「魔物狩りで忙しい」

「何をするんだ?」

「ただの雑談。それとイクスに聖水をかけたいって言ってた」


「パープルメアはお母さんだからな。俺よりパープルメアがお母さんだ」

「イクス」

「どうした?」

「色々隠すの、あきらめた?」


「うむ、真実はいつも隠蔽されると気づいた」

「イクスの真実は隠蔽しきれない」

「お前らが嘘つきだよ!」


「嘘発見器の魔道具、使ってみる?」

「革新の魔女の魔道具だろ?パープルメアに魔道具を操作される可能性もある」

「嘘つきは、魔道具を拒否した」


「この話は終わらない。無限ループだ」

「参加でいい?」

「分かった、すぐ終わるんだろ?」

「ん、今から向かう」

「今、早くね!」


「良い部屋を取ってある。早くしないと宿代が高い」

「すぐ行く」


 俺はギルドを出た。



【高級宿屋】


 部屋に入るとパープルメアが落ち着いた物腰で話しかけてきた。


「久しぶりね。聖水を用意してあるわ」

「いつもすまないな」


 何回も聖水を断ったが、そのたびにしつこく言われて結局聖水を使う事になるためもう断わるのをやめたのだ。

 売れば何億分の価値がある聖水をタダで使ってくれるのだ。


「その前に早く雑談配信を始める」


 テーブルに椅子が3つ用意されていた。

 俺は一番隅の席に座った。

 その瞬間にアクリスピが笑った。


「なんだ?」

「ふふふ、アクリスピはイクスなら絶対にこの席に座るって言っていたわ、ふふふふふふ、私もそう思ったわ」


「ゴレショ!位置、そこ!」


 アクリスピが指差した位置でゴレショが止まる。

 俺達を撮影して雑談配信が始まる。


「これ始まってるのか?」

「始まってる」


「どうも、パープルメアです」

「アクリスピ」

「……魔王だ」

「イクスじゃないの?」


「魔王だ」

「お腹は空いてる?」

「俺は、小腹が空いた程度だ」

「たくさん、食べる」


「料理を頼んであるわ。一緒に食べましょう。もしもし、料理をお願いします。はい。よろしくお願いします」


 すぐに料理が運ばれてきた。


 俺はアクリスピの配信コメントをチェックする。


『おお!4英雄の内3人が揃った』

『魔王の顔がもやもやしてて魔王感が凄い』

『アクリスピワイルドだな』


 アクリスピを見ると肉を掴んでむしゃむしゃと食べている。


『パープルメアは上品だよな』

『嫁にしたい』

『優しそうでいいよな』

『俺はアクリスピ派なんだけど』

『俺もアクリスピ派だ』

『はあ?パープルに決まってんだろ?』

『俺もパープルが好きだ』

『魔王の仮面がもやもやしててそれだけで笑ってしまう。ネタ魔王に今日も期待だな』


「俺を見て皆が笑うようになったのはアクリスピのせいだからな」

「仮面のせいよ。仮面を外したらいいでしょ?」

「仮面、取って」

「取らないぞ」


『今日の魔王は素が出てるよな?』

『魔王が総攻撃を受けているwwwwww』

『やっぱりか、魔王は4英雄の一人で間違いないぜ』


「もう隠しきれないわよ?諦めましょう」

「仮面を外せば、楽になる」

「仮面を取ろうとするな!!」


 俺はアクリスピの手を払った。


『来た来た来た来たあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

『ウケる』

『もはやネタでしかない件』

『また魔王がお隠れになってしまう』


「くっくっく、2人共モテモテではないか」


『魔王様が恥か死してキャラを作り始めたぞ』

『魔王はもっと泳がせてしゃべらせるのが正しい運用』

『4英雄での魔王様の立ち位置がなんとなく分かるわ』


「雑談配信はやった事が無いんだけど、質問に答えていけばいいのか?」

「そうね、普通に質問に答えるのもいいわ。私の目的はイクスを聖水に漬ける事だし」


「閃いた」


 アクリスピが急に立ち上がった。


「何だ?」

「雑談配信でイクスを聖水に漬ける」


「それ面白いか?ただ聖水が霧になるだけだぞ?」


『見たい!』

『見せて!』

『霧になるってどんだけだよ!』

『そりゃ厄災の呪いだ。凄い霧が出るんじゃないか?』

『見てみれば分かる。見たいです!』


「裸になるのはちょっと、服を着たまま入ればいいのか」

「窓を開けておく」

「うーん、お行儀が悪いと思うけど、皆が見たいならそれで行きましょう」


 そう言ってパープルメアがテーブルの前に大樽を出した。


「この中に聖水が入っています」


 ゴレショに指示を出すと中身の聖水が映し出される。


『はあ!これ全部聖水!』

『ちょっとだけ入ってて高いあの聖水だよな?』

『早く入って!』


「入るぞ。いいのか?」

「はい、良いわよ」』


『準備OK!』

『気になる瞬間』

『切り抜き待機します!』


「その前に、腕を見せてから」


 俺は両腕をまくって見せた。

 黒いマダラが広がっている。


『うあああああああ!死ぬやつじゃん!』

『怖い怖い怖い!何で生きてんの?』


「じゃ、入るぞ」

 

 俺は風呂に浸かるように大樽に入った。


 しゅううううううううううううううううう!


 俺が入った瞬間に大量の霧が発生する。


 聖水の水位が下がり濡れた服がどんどん乾いていく。

 コメントが見れない。


 俺は大樽から出ると傾けてゴレショに見せた。

 その後に腕を見せる。


『無傷、だと?』

『少しだけマダラが薄くなった気がする』

『いや、変わらない。思い込みだろう』

『あの霧の量やばくね!』


「イクス、皆が心配してる」

「苦しくは無いぞ」


『んな訳ない。普通の呪いにかかっただけで苦痛だ』

『イクスの事が怖くなってきた』

『魔王感があるな』


「イクス、昔は苦しかった?」

「そうだな。昔は苦しかったけど、何日も眠れなくなって眠っているような起きているようなまどろみが続いたんだけど、ある日朝になると痛みが消えていた。だから苦しくはない」


『うあああああああああああ!やばいやつ!脳が痛みから守る為にやばくなったやつ!やばいから痛みがなくなってるやつううううううううううううう!』

『化け物だな』

『苦行者のやつじゃないか』

『だんだんネタで見れなくなってきた』

『俺冒険者なんだけど昔軽い呪いを受けてダンジョンから帰るまでめっちゃ苦しい思いをした。聖水で治せたけど呪いが怖くなってそれからは常に聖水を収納に入れてる』

『呪われるとどうなるん?』

『能力値が下がる。後苦しい←ここ重要。凄く苦しい』



 コメントのログが流れて見えない。

 順調に質問に答えて雑談配信は終わった。

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