第3話

「アクアマリン、バスローブのままではなんだ、防具を作りたいのだがその前に適性をチェックしたい。手を出してくれ」

「はい」


 アクアマリンを見るとスンスンと匂いを嗅いでいるように見えた。

 そんな事はどうでもいいか。

 俺は手を取る。


「俺に魔力を流すのだ」

「はい」


「……戦士と、魔法、魔法戦士タイプか。くっくっく、残念だが苦難の道となるだろう。戦士と魔法、その中間の魔力特性を持っている。つまり魔法と武器、両方の鍛錬をせねば特化タイプに対抗できん」


 魔法は、水か氷属性か。


「頑張ります!」

「うむ、元気がいいのは良い事だ」

「はい!」


 奴隷契約をしてから態度が変わったか?

 

「訓練の間、そうだな、ドレスアーマーとロングブーツ、皮のガントレットを買おう。武器は訓練用に木の装備を渡される」

「はい!」


 アクアマリンが防具を装備した。


「使う武器は1つに決めておくのだ。1つ覚えてから次を考えるのだ」

「はい!」

「外に出てくれ」


 にやにやしながら見ていた冒険者が付いてきた。



「ついてくるな!」


 一向に戻ろうとしない。

 外に出て魔法で武器を取り出した。

 100以上の武器が並ぶ。

 冒険者が近づいてきた。


「これ以上近づくな!」


 手に電撃を発生させる。


「ひい!こわこわ!」

「あの斧は俺も欲しいくらいだぜ」


「おほん、そうだな、この槍はどうだ?リーチがあった方が安心して戦える。持てるか?」


 アクアマリンは槍を持つが、動きがもっさりしている。


「重いか?」

「……はい」

「ならば斧も無理だな。この両手剣を振ってみてくれ。この中では軽量だ」

「お、重いです」


「ショートソードかダガーはどうだ?おすすめはリーチの長い武器だ」


 アクアマリンは軽い武器を選んで振っていく。

 ショートソードを振るがそれでもうまく振れずに振り遅れている。

 だが、力が増せば問題無いだろう。


「ショートソードが使いやすいです」

「決まりだな。強くなれば使いこなせるようになる。そしてもっと長い剣を持てるようになるだろう」

「頑張ります!」


「俺は行くが何か質問はあるか?」

「その腕は呪いですか?」


 俺の体は黒いマダラがある。

 呪いだ。


「うむ、そうだな。だが安心するがいい。うつりはしない」


「聖水で治さないのですか?」

「厄介な呪いでな、この話は終わりだ」

「仮面を外してもらってもいいですか?」

「断る!」


「……そうですか」

「質問は以上か。では今日から頑張るのだ」

「はい!」


 俺はギルドを出て宿屋に向かった。



 部屋に戻るとギルドカードを取り出す。

 ギルドカードは決済サービスからインターネットでの検索、更には書類作成から動画投稿まで色々な事が出来る。


 俺は計画を見直した。


 奴隷の購入と訓練開始までは達成出来た。

 仮面で顔を隠し、奴隷に配信させつつ魔物を狩って貰う計画自体は順調だ。


 だがギルドの冒険者が思ったよりうるさい。

 この国のみんなは人柄は良い。

 だが何かしているとすぐに集まって来る所がある。

 さっきからにやにやと笑いながら俺とアクアマリンを見ていた。

 今日は視線がうるさかった。


 アクアマリンの動画登録者数が1000を超えるようになったら拠点を移すか。

 だがそれはまだ先の話だ。

 登録者数を増やすのは簡単な事ではない。

まだ始まってすらいない。


 伸びてすらいないのに先の事を細かく考えても意味がない。


 今は現状維持でいいだろう。

 冒険者として大成するのもチャンネル登録者数を増やすのも時間がかかる。


 いくらでも時間はあるのだ。

 その間に微調整を重ね、俺が身バレしないようにしつつアクアマリンに成長してもらう。

 

 まずは訓練の結果を見るとしよう。


 あまり力を使うと呪いが悪化してしまう。

 訓練の結果を見定めるまで寝て療養するとしよう。

 アクアマリンには普通の装備を与えているが、ソロで初心者となれば不安が残る。


 今作れる最高の武具を供給する必要があるだろう。

 アクアマリンの戦闘スタイルを見定めたら、久しぶりに本気で錬金術を使うとするか。

 呪いは悪化するが大した問題ではない。




【アクアマリン視点】


 私は訓練を開始した。

 午前中は読み書きの勉強だ。

 文字は数十文字を組み合わせれば問題無く読み書きを出来るらしい。


 私は文字の暗記を始めた。


 午後になると暇になり、受付のお姉さんに勉強用の本を借りに行った。


「お勉強ならこの紙を見ればいいわ。読めて書けてるようになりさえすれば後はなれるだけよ」

「ありがとうございます」


 次の日は計算の勉強だ。

 数字は10進数で途中まで読めたけど、5から先が分からない。

 これも暗記が必要だ。

 午後になると昨日お姉さんに貰った紙に数字が書いてあった。

 順番0から9、これを暗記して書けるようになろう。


 次の日は戦闘訓練。

 ご主人様が見に来ていた。

 剣の扱いと生活魔法を学んだ。

 

 午後になり訓練が終わるとご主人さまが色々聞いてきた。


「防具の着心地はどうだ?色の好みは?」


 色々聞いた後満足したように頷いて帰って行った。


 数人の冒険者が話しかけてきた。


「まだダンジョンに行かないのか?」

「読み書き計算と生活魔法、それに剣術の基本を覚えるまで行かせないと言っていました」


「まだしばらく先になりそうだな」

「イクスはお母さんだからしょうがない」

「はっはっは、確かにお母さんだ!」


「おかあ、さん?でも、男の人ですよね?」

「そうだが、ま、見ていれば分かるぜ」


 冒険者が下がって行った。

 やっぱりご主人様は男の人だ。


 ギルドでは午前だけ訓練か勉強を教えている。

 読み書き→計算→戦闘訓練→休みを1日ずつこなす。

 基本この繰り返しだ。


 私は休日も勉強して頭がぼーっとしてきたら剣を振り、生活魔法の練習をして毎日過ごした。

 その間イクスさんは何度も様子を見に来てくれた。



 私の訓練がすべて終わりイクスさんが来ると受付のお姉さんが言った。


「イク、魔王さん。もういいでしょう。もう訓練は十分です。Fランクのギルドカードも作りました。スライム位なら倒しに行かせてもいいと思いますよ」


 冒険者も集まって来る。


「実戦も訓練の内だぜ」

「やって見なけりゃ体感はわからねえ。早く動画配信を始めろって」

「今始めろって。こっちは待ってるんだ」


「くっくっく、そこまで言うのなら俺が同行し、実践訓練を施してやろう。奴隷に死なれては損が確定してしまう」


「どうせついていくだろ?」

「そういう小芝居はいいから早くやれって」

「くっくっく、よろしい。これより動画配信を開始する!」


 イクスさんは右手を上に上げて叫んだ。

 イクスさんの手を見ると、呪いのまだらが広がっていた。


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