第4話

 俺のチャンネルは『魔王の奴隷講座』にした。

 アクアマリンのチャンネルは『アクアマリンが奴隷から解放されるまで』に決めた。


「お前ら!動画で余計な書き込みはするなよ!やられたらすぐにブロックしてやる!」


 俺は冒険者を睨んだ。


「アクアマリン、準備はいいか?」

「はい!」


 俺はギルドのテーブルにワイングラスとチーズを用意する。


「ゴレショ1!起動!ゴレショ2!起動!」


 拳サイズの丸い球体から魔法の羽が生えて飛び上がる。

 そして大きな目で俺とアクアマリンを覗き込む。


 冒険者が騒ぐ。


「おい!ゴーレムショットか!」

「写真だけじゃなく動画撮影まで対応している!最新型か!発売したばかりで中々手に入らないはずだ!」

「ギルドカードの撮影機能と違って手振れ補正が優秀だぜ!動画がぶれない!」


 みんなが自分のギルドカードを覗き込む。

 俺とアクアマリンの配信を再生しつつギルドカードを並べて見ていた。


 俺は無視して『魔王の奴隷講座』と『アクアマリンが奴隷から解放されるまで』の同時配信をスタートする。

 今後、他の奴隷も購入してパーティーを組ませて配信する予定だ。

 今後のテストも兼ねている。


「くっくっく、ようこそ我がチャンネルへ。私は魔王だ!俺の奴隷を紹介する。アクアマリン、挨拶をするのだ」


 周りから「キャラが定まってない」との突っ込みを受けるが、そいつには電撃を食らわせた。


 だが笑いながら『肩こりに効くぜ』とからかうような返しが帰ってきた為無視した。


「はい、私の名前はアクアマリンです。借金奴隷で1憶ゴールドを返済して解放されるのが目標です」

「くっくっく、その通り、魔王であるこの俺は優雅にワインとチーズを楽しむ。だがその間アクアマリンは1億返済を夢見て打ちひしがれながら過酷なダンジョンに向かい毎日戦い続けるのだ!」


 俺はワインを飲み、チーズをゆっくりとかじる。


「くっくっく、助けたくば『アクアマリンが奴隷から解放されるまで』にチャンネル登録をして応援するのだな。リンクを貼ってある。くっくっくく」


「魔王さん、ぶどうジュースのおかわりはいりますか?」


 受付嬢が話しかけてくる。


「う、うるさい!だが、貰うとしよう。言っておくがワインはジュースの様な物だ。そういう意味なのだ」


「アクアマリン、これからお前にはギルドとダンジョンを往復する奴隷生活を続けてもらう。お前は大事な金の卵を産む鶏だ。死して楽になる事は許さん!くっくっく、これに着替えるのだ」


「は、はい」

「お、奥に行って着替えてくるのだ!こ、ここではない!ここで服を脱ぐな!」

「はい!」


 アクアマリンが後ろに下がっていく。


 ゴレショが飛びながらアクアマリンを追う。


「ゴレショ1、止まれ!」


 ゴレショがアクアマリンを追うのをやめて待機する。

 ゴレショの操作方法を教えて慣れさせる必要があるか。

 ……そんな事より場を繋がないとまずい!


「くっくっく、魔王であるこの俺は奴隷を使って優雅に生活を続ける!他の奴隷を助けたければ奴隷を買って解放するがいい!アクアマリンを解放したければ投げ銭や配信後自動投稿される動画を繰り返し視聴する事によって解放に近づくだろう!この世に闇がある限り俺のようなものがうごめき続けるのだ!ふはははははははははははは……」


「……」


「着替えました」


 アクアマリンは俺が作った青と白を基調としたバトルドレス装備で腰にはショートソードを装備している。

 グローブとロングブーツもバトルドレスの色に合わせた。


「くっくっく、奴隷である貴様にはそれ1着で十分だ!これ以上の施しはしない!」

「とても着心地がいいです」

「右の腰にポーションをセットできる。危なくなったら飲むのだ」

「ありがとうございます」

「55リットルのバックパックも作って来た。これに魔物を入れて何度も往復するのだ。くっくっく、まさに奴隷の生活、惨めに何度も魔物の死骸を運ぶのだな!」

「ありがとうございます」


「最後に、首輪をつけるのだ。くっくっく、この首輪は奴隷の象徴だ。鏡でこの首輪を見る度に奴隷である事を思い知るだろう。くっくっく」

「ありがとうございます」


「ん?そこはありがとうございますではないのではないか?」

「ありがたく、ちょうだいいたします?」


「違う違う!そうではない!ポーションは奴隷として稼がせるための物だ。バックパックもそうだ。そして最後の首輪はどう考えてもお礼を言う所ではないだろう」


「分かりました。お礼は言いません」

「う、うむ、それでいい」


 話が噛み合わない。

 俺は話をするのが苦手なのだ。


「そうそう、言っておくが煽り行為や迷惑行為を行う者は問答無用でブロックさせてもらう。せいぜい魔王であるこの俺に嫌われないようにするのだな!ふはははははは!」


 アクアマリンの立ち位置=アイドル

 俺=悪役


 この構図を定着させる必要があるのだ。

 俺が矢面に立ち、やばい奴は俺が直接ブロックする事でアクアマリンにはクリーンなイメージを定着させる。


 配信をチェックする。

 俺の同時接続数は19、アクアマリンに9か。

 動画を見ているのはここにいる冒険者とギルド職員が大半か。


 俺の動画にコメントが入った。


 ちっちゃくておっきいひと『イクス、何やってるの?ネタ?』


 こいつは、本名で言うな!


 ちっちゃくておっきいひと……


 間違いない、


 この書き方、


 気にせず本名で書きこむこの性格、


 100年前の英雄、小さき巨人、アクリスピか!


 俺は無言でアクリスピをブロックした。


 ふう、危険の目は摘み取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る