第2話
「アクアマリン、もっと食べるか?」
アクアマリンが俺の顔を伺うように見た。
「食べ、たいです」
「メニューを選ぶがいい」
「……この絵の物を食べたいです」
「文字が読めないのか?」
「……すいません」
「責めているのではない。受付嬢!デラックスステーキセットを1つ」
「はい、3000ゴールドになります」
俺はギルドカードで支払いを済ませた。
「文字が読めないとなるとギルドカードのインターネットを使えん、どうするか」
「イク、魔王さん、前払いでお支払いいただければ顔パスで処理しますよ?」
「それで頼む。1000万を支払っておこう」
「……多くないですか?」
「アクアマリンにはここに泊まって貰う。しばらくは訓練と読み書き計算の勉強もさせる」
「分かりました。ギルドは安全ですからね。所で奴隷契約の儀式はいつにしますか?今でもできなくはないですがそれなりに魔力を消耗します」
「明日にする。後は頼んでいいか?」
「ええ、任されました」
「たっぷり食べてたっぷり眠るのだ。ではさらばだ」
【アクアマリン視点】
イクスさんが帰った瞬間に冒険者が話を始めた。
「顔がもやもやしてて目立つよな」
「ふふふ、ねえ、あのキャラ何?」
「そりゃお前、魔王様、ぷふふふふ」
「くくく、こいつ笑ってるぜ」
「お前だって笑ってるだろ」
「似合わないよな。魔王のキャラでどうやって奴隷を助けるんだ?話がおかしくなるだろ?」
「ああ、破綻するのは目に見えてる」
「あの仮面は逆に目立ってるぜ。くっくっく。一目見たら絶対に見る」
「身バレしなければいいんだろ?だが、あの仮面は見てくれと言っているようなものだぜ」
「顔がもやもやしてたら逆に気になるよな」
「ある意味魔王感があるぜ」
「今はインターネットの時代だ。解析班が動き出してどうせ色々バレる。ぷふ、面白くなりそうだぜ」
「こいつネットに晒す気か!」
「いやあ、俺は何もしない。俺が手を下すまでも無いだろうぜ」
「キャラが定まるのを生暖かく見守ろうぜ」
「魔王様はそもそも矛盾している。身バレしたくない、でも配信はさせる。奴隷を助けたい、でも助けている事を晒されたくない。ああ、面白くなって来たぜ」
「悪い顔してやがるぜ。くっくっく」
「くっくっくで笑っちゃうわ」
受付のお姉さんが話しかけてきた。
「魔王様に引き取ってもらってよかったわね。もう大丈夫よ。おかわりする?」
「でも、あんまり食べると」
「いいのいいの。たくさん食べましょう」
私はその後2食分を頼んですべて平らげてギルドの宿屋に入った。
受付のお姉さんが温かいお湯の入った桶を持って来てくれて私は温かいタオルで体を拭き、髪を洗った。
部屋にあったバスローブを着てコップに水を注いで飲む。
ベッドに横になると柔らかい感触で満たされた。
たくさん食べて、体がぽかぽかする。
私はそのまま眠った。
◇
起きると外はまだ暗い。
イクスさん。
よく聞く名前。
男でも女でもいる名前。
おじいちゃんが話してくれた隠された4人目の英雄と同じ名前。
悪い人じゃなさそう。
悪い人に買われればいきなりダンジョンに連れて行かれて苦しい思いをしたり危なくなればおとりにされる事もある。
でも、しっかり訓練を受けさせて、読み書き計算まで教えてくれるらしい。
運が良かった。
私は兄弟の末っ子で不作で口減らしの為に売られた。
お父さんとお母さんの元にはもう戻れないし戻る気もない。
私はお兄ちゃんやお姉ちゃんより体力がなかった。
足手まといだった。
最初に私を売るのは当然だと思う。
でもよかった。
不作のまま家にいるより奴隷の方が食べる事が出来た。
いい人に買ってもらったおかげで昨日は人生で一番おいしい食事を食べた。
「また売られないように頑張ろう」
次の日の朝になるとイクスさんがやって来た。
「体調はどうだ?」
「大丈夫です!契約できます!」
「う、うむ。それでは儀式を始めようか。その前に奴隷解放の条件を決めておきたい」
受付のお姉さんが私とイクスさんの間に立つ。
「基本は買値の10倍です。解放は1億ゴールドになります」
「む、2倍程度、2000万ゴールドでいいだろう」
「魔王さん、定型契約じゃないと手続きと準備に時間がかかります」
「わ、私は10倍で大丈夫です」
「そうか、ならば、分かった」
「契約なので名前で呼びますよ」
「いたし方あるまい」
受付のお姉さんが手にした紙が光った。
「イクス、アクアマリン、奴隷契約の解放条件はアクアマリンが1億ゴールドに返済する事です。奴隷契約に同意しますか?」
「同意する」
「同意します」
その瞬間に紙が燃えてイクスさんと私に光となって降り注いだ。
「イクス、あなたはいついかなる時もアクアマリンを奴隷にする事を誓いますか?」
「誓います」
「アクアマリン、あなたはいついかなる時もイクスの奴隷になると誓いますか?」
「誓います」
イクスさんの目の前に魔法の光で出来たリングが形作られた。
イクスさんは私の左手を取って、リングを薬指にはめた。
リングが私の薬指に吸い込まれるように消えて、薬指に紫色の紋章が浮かび上がった。
イクスさんの手を見ると黒いマダラが浮かんでいた。
呪いを受けるとこうなる。
それと、
間違いない。
気のせいじゃなかった。
イクスさんは女の人の声をしている。
でも、男の人の匂いがする。
私はイクスさんに、運命のような何かを感じていた。
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