第15話 終着点

 なんとか空き地を見つけて一夜を明かした私は浜栄町に向けて歩き出した。

 今日一日あれば、恐らく浜栄町までたどり着くことができるだろう。それが嬉しかった。

 だが、同時に不安でもある。

 母の家族は私が母の娘だと認識してくれるのだろうか。たとえ認識してくれたとしても、妖怪である私を住ませてくれるのか。

 もしかしたら、鬼灯の追っ手が先回りして私が浜栄町に来るのを待っているのではないか。

 不安は浜栄町に近づくほどに高まっていた。

 大丈夫だ。

 不安になるな。

 良い方向に考えろ。

 私は自分自身にそう言い聞かせた。そうしないと、不安に押しつぶされてしまいそうだ。

 実際は出家してから不安でたまらなかった。それでもなんとか顔や言動にそういう感情が出ないようにしていた。

 覚には健気だとでも思われただろうか?それでもいいか、実際健気だ、私は。

 歩いていると看板があった。見てみると浜栄町と書いてある。ついに私は目的の町に到着した。


 浜栄町は自然豊かな町だが、特別田舎というわけでもないようだ。交通機関はかなり整備されているようである。

 私は母の家族を探して町中を散策して回ることにした。

 母はこの町から攫われているのだから、年寄りに聞けば情報が得られるだろうか?

 私は林という苗字の家を探すと共に、聞き込みも開始した。

 しばらく歩き回っていると、大きめの公園を見つけた。園内には年寄りが多くいる。ここなら何かわかるかもしれない。


「すみません。少しお尋ねしたい事があるのです。よろしいですか?」


  私はベンチに腰掛けているお婆さんに聞いてみることにした。


「あら、なんでしょう?」


「この辺りで昔、林祥子という女性がさらわれた事件があったと思うのですが、その、さらわれた林祥子さんの家を知りませんか?」


「ああ。あったわね随分昔に。林さんの家ね。確か五丁目の方だったわね。ここが三丁目だから、この公園から右に出て真っ直ぐ行けば五丁目に出られるわよ」


「そうですか、わかりましたありがとうございます」


 かなり貴重な証言だ。これで町中を歩き回らなくてすみそうだ。私は言われた通りに五丁目に向かった。 五丁目を歩き回っているとその家は見つかった。

 表札には林、家は母の写真で見た通りだった。間違いなくここが母の家なのだ。

 私は緊張しながらインターホンを押した。

 しかしまるで反応がない。もう一度鳴らしてみるが、やはり反応がない。出かけているのだろうか。

 私が家の前で突っ立っていると近所の人が話しかけてきた。


「あなたここでなにしているの?」


「いえ、この家に用があるのですが、すみません、この家の家主は?」


「林さんなら少し前に亡くなったわね。確か急病で倒れて病院に運ばれたけど間に合わなかったと聞いたわ」


-急病?まてよ……


「すみません、それって今から何日前ですか?」


「確か二十日前ぐらいよ。とにかく今この家は空き家だから、諦めて帰ったほうがいいわね」


 そう言うとおばさんは2軒隣りの家に入って行った。

 二十日前に急病。まさかと思うが鬼灯の妖怪の仕業ではないのか。鬼灯の妖怪には人間の心臓を止めることぐらい他愛もないことなのだ。

 いや考えすぎだろう。そんなことはないはずだ。 そんなことは……。


「あいも変わらず鋭い奴だな。迦楼羅……」


 突如目の前に現れた者、それは私のよく知る狼の妖怪だった。


「夜源……」


 辺りが冷ややかな空気に包まれる。

 ついに私は鬼灯一族に見つかった…。

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