第14話 妖怪商店〜珍迷館〜

 犬神に襲われてから数日。あれからの道のりは特に何ごともなかった。

 何かないとつまらないと感じるが、だからといって犬神のような物騒な妖怪は御免だ。

 看板をみてみると浜栄町まであと10kmだという。付近には民家や商店があるところを見ると、だいぶん近いところまで来たのだと感じた。

 ここからは町中を歩くことになりそうなので寝床の確保が大変になるだろう。化け術を解いてしまえばある程度はあると思いたいが…。

 そんな事を考えながら歩いていると、ふとヘンテコな名前の商店があった。


『珍迷館』


 木製の看板にはでかでかとそう書かれている。

 私は店の前で足を止めて、すすけたガラス窓から中を覗いてみると、中には大きな木彫りの像や不思議な模様の衣服があるのが見えた。

 確かに名前通り珍品が沢山あるようだ。

 特に欲しいものは無いし、そもそも金が無いのでそのまま立ち去ることにした。すると店内から店主らしきおじさんが出てきた。


「どうもお嬢さん。外ではなんですから中に入って見られてはどうですかな?」


「あぁ、どうもありがとうございます。しかし、私はお金を持っていませんので……」


「別に構いませんよ。見て手にとって眺めていただくだけでも結構ですから」


 私は少し悩んだが、わざわざ店主が気を利かせてくれたのにそれを無碍にするのは如何なものかと思い、私は店に入ることにした。

 店の中に入ると香ばしい珈琲の香りがした。店主が飲んでいるのだろう。


「どうです?中々珍しい物ばかりでしょう?」


 確かに珍品だらけだ。パッと見た感じ、何に使えばいいのかわからないものがほとんどだ。


「では、ごゆっくり眺めていってください」


 そういうと、店主は店の奥に消えていった。

 私はとりあえず一通り店の中を見て回ることにした。

 店の商品は奥に行けば行くほど摩訶不思議な物になっていっているようで、店に入ってすぐの商品ならまだ使い道がわかるものが多かったが、半分まで来ると訳がわからない物がほとんどになっていた。

 なんだかもう変なものを見続けるのも疲れて来たのでとにかく一番奥まで行ってみることにした。

 

 一番奥に行くと、変なものはなくなり私にはよくわかるものばかりが置かれている。天狗の団扇、鬼の角、その他に、着物が大量に置いてある。


「どうです?とびきりの珍品でしょう?」


 声をかけられた方をみると、いつのまにか店主が私の後ろに立っていた。


「あなた、一体何者なの?」


「何者、何者ね〜。簡単に言えば化け狐だ」


「奇遇ね、私も化け狐よ」


「ほーう、そうだったのかい。君化けるのが上手いね。まるでわからなかった」


「それで、どうやってこんな物を手に入れたの?どれもそう易々と手に入れられるものじゃあないのに」


「そりゃあ普通に手に入れるには盗まなきゃ無理だけど、これらは全部買い取ったものさ。たまにいるのさ、人間社会にとけこんで生活したいって妖怪がね」


 成る程、それならば納得できる。正直こんな物を全て仕入れたのだとすれば、相当なやり手である。


「君も人間社会にとけこんで暮らそうってタチかい?」


「まあ、そんなところだわ」


「そうか、なら少しサービスするよ。金はとらないからなんか持っていっていいよ」


「本当にいいの?」


「いいさ。そのかわり、たまにはここに来てくれよ?」


 私は店主の親切に甘えて、商品を物色し始めた。

 とにかく珍しい物ばかりなので、どれにしようか迷ってしまう。せっかく貰うのならば実用性のある物がいいだろう。

 私はカウンターのそばにあるガラスケースの中の鼈甲の髪飾りにすることにした。


「ほう。それでいいのかい?」


「実用的な物を貰った方がいいと思ったので」


 店主は「そうかい」と言ってガラスケースの鍵を開けて、髪飾りを取ると綺麗な紙に包んで渡してくれた。


「ありがとうございます」


「なに、いいってことよ。妖怪が人間社会にとけこむっていうのは中々難しいものだ。言葉が通じない、文字を書いても字が古くて読めないとか、服装が変だとか、色々大変なんだよ。だがなお嬢ちゃん、だからといって焦ってはいけない。焦れば焦るほど物事とはうまくいかないものだ。ゆっくりでいい、少しずつ慣れていけばいいんだ」


 人間社会にとけこんで生活しようとする妖怪達を多く見てきた店主からの有難い助言だ。

  焦らず、ゆっくりと確実にひとつずつ慣れていけばいい。急がば回れというやつか。


「おっと、そろそろ閉店時間だ。悪いけどもすぐにでてくれないかい」


 時計を見ると午後五時を指していた。確かにそろそろでなければ寝床を見つける前に夜中になってしまいそうだ。


 店からでると既に空は紫に染まっていた。

 店主は店の前に閉店の札を掲げて店を閉めた。


「それでは、またのご来店お待ちしています」


 店主に別れを告げて私は寝床を探しに店から離れて行く。

 私は紙に包まれた髪飾りを包みから取り出して沈みゆく太陽にかざした。

 髪飾りは黄色い太陽に照らされ綺麗に輝いた。

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