第11話 不気味な影
私は神谷千尋から受け取った数珠を眺めていた。色合いといい、石の選択といい、なんとも可愛らしい。これなら私がつけても全く違和感はないだろう。
腕につけてみると、霊気が宿っているのがよくわかる。確かに破魔の力はありそうだ。
神谷千尋はかなり高い霊能力を持っているようにみえたし、知識があれば破魔の数珠くらいなら簡単に作れるだろう。
ふとすると周りに人間がいない事に気がついた。いつのまにか町から出ていたようだ。どれだけこの数珠を見て歩いていたのだ。
看板を見る限り道はあっているようだ。私はそのまま真っ直ぐに進む事にした。既に日は傾き、夜が近づいていた。
ほんの数分で夜の帳が降りた。私は慣れた手つきで寝床を作り、晩飯を食べた。
町中を歩き続けていたためか、かなり疲れている。その日私は早めに寝る事にした。
朝早くに目が覚めた。
朝靄で前が見えにくいが、歩けなくはないだろう。荷物をまとめると、私は歩き出した。
山道を歩いていると、朝靄の奥に何やら影が見えた。
野生動物だろうか。とりあえず確認しておく事にしよう。私は謎の影に向かい近づいていった。
謎の影に近づくと、それが野生動物ではないことがわかった。妖怪なのだろうが、ぐねぐねとしたなんとも不気味な姿をしている。体色は白く、体毛のようなものはみられない。
「誰だ?俺の後ろにいるのは?」
突然白い生物が言葉を発した。どうやら意思疎通は可能なようだ。
「後をつけるようなことをして申し訳ない。私は蓮という者だ。この先の町に向かい旅をしている」
「そうか…」
白い生物は私に背を向けたまま一言そう言った。
このままこの生物から離れてもいいのだが、何故かその場から動けなかった。恐らくこの生物が何者なのか興味があったからだと思う。
「……お前、この俺の姿を見て不気味と思ったろ?」
またもや突然喋りかけてきた。あまり会話は得意ではないようだ。
「興味深い生き物だなと思った」
「お世辞はいい。正直に言え」
私は言葉に詰まったが、この生物の威圧感からして正直に言った方がいいように思える。
「……正直不気味だと思った。だが、あんたに興味があるというのも本音さ」
「ふん、珍しい奴だ。この俺に興味をもつなんざ。どいつもこいつも俺を見れば半狂乱で逃げていくってのに」
白い生物はそういうと、ようやく私の方に向けた顔は、口しかないのっぺらぼうだった。
人間がこれを突然目撃したら半狂乱にもなるかもしれない。
「俺は秀治郎という。それで?俺のどこに興味がある?」
「その姿は生まれつきなのか?それとも……」
私が 一番気になっているところだった。
「それともの方だ。俺も三十年前までは普通の人間だったのさ。それが今じゃこれだ。理由は未だわかっていない。その日から人里離れたところで生活している。こんな姿じゃあ町に居られないし、仕事もできないだろう?」
私が言い終わる前に答えてくれた。しかし、原因が謎とはそんな事があるのか。
「とはいえ、この姿もこの姿で便利なところはある。目が見えない代わりに他の感覚が研ぎ澄まされた。他には身体能力も上がった。人だった頃より案外生きやすいかな」
「人間社会というのはその姿で生きるより生きづらいものだったのか?」
「まあな。世の中嫌な事ばかりだったさ。しょっちゅう虐められていた。誹謗中傷は日常茶飯事だったし、生きていて面白くなかったからな。それよりマシさ」
どうやらこの秀治郎という元人間はかなりひどい人間生活を送っていたようだ。
「おっと、もう朝靄が消える時間だ。俺はもう行く。もうじき人通りが増えるんでな。それじゃあさらば」
そういうと秀治郎は消えかけの朝靄の中に消えて行った。
辺りは先程よりはるかに見通しがきく。私は朝の山道を歩いて行く。
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