第6話 蓮の過去〜旅立ち〜

 真夜中、私は屋敷を抜け出した。前々から屋敷から出たくて自室の床下から抜け穴を作っていたのだが、思わぬところで役に立った。

 私は音を立てないように畳をそっと外した。丸く切り抜かれた床板の下には、真っ黒な穴がぽっかりと口を開いている。

 化け術を解き、狐の姿へと変化すると穴の中に飛び込んだ。外した畳は妖術で上手いことはめこむ事ができた。

 私は目の前に火の玉を出すと抜け穴の凸凹とした土の表面が浮かび上がる。幅二尺ほどのその穴は屋敷の外まで、一町(約109m)ほど続いている。私は出口に向かい穴を進見始めた。

 穴を抜けると、雲間から満月がのぞいており、月明かりは淡い光を放ったいる。

 屋敷の方を向いてみたが、騒ぎは起きていないようだ。なんとか誰にもバレることなく、抜け出すことには成功した。

 今度はこの中国から一刻も早く抜け出さねばならない。私は闇に隠れ、港を目指した。

 暗闇の中、港に向かいひたすら突き進んだ。

 私が向かっている港は何度か父や仲間と共になんどかいったことがある所だった。そのとき港には、日本の静岡という県に向かう船もあったはずだ。日本へ行く方法は、私にとってはそれしかなかった。


 もう何時間走ったのだろうか。もうすでに月は沈み、空が明るくなっていた。夜通し走り続け私の体力は限界であった。港はまだなのだろうか。この中国から抜け出すことはできないのだろうか。そう思っていると、港が姿を現した。大きな貨物船が、何隻も止まっている。私は、化け術をかけ人間の姿となり、港へと入って行った。

 港に入ると日本へと行く船を探した。日本に向かう大きな貨物船は塗装の剥げた古めかしい船で、見ればわかるはずなのだが、なかなか見つからない。


-まさか今日は来ていないのか?


 私は大きな不安に襲われた。どうすればいい?もう私が抜け出したことはバレてしまったであろう。急がねば。もうこの機会を逃せば、二度とあの屋敷から抜け出せないだろう。

 私が焦っていると、その船はあった。塗装の剥げた古くさい大きな貨物船。確かに私の探していた船であった。私はその船に飛び乗った。

 貨物の隙間に入り込んで、他の荷物に似せて化ける。これで人間には私が妖怪だとはばれないはずだ。

 出港前、私は母が父によって殺された事を貨物船の乗組員と港の関係者が話している事で知った。


「本当なのか?だが、一体どうしてだい?」


「なんでも、鬼灯のダンナを殺そうとしているのがわかって、それでだとよ。ま、奴隷みたいなもんだったそうだから、殺しても代わりくらい幾らでも居るんだろ」


 嘘だとすぐにわかった。母さんはそんな事をする人ではない。父が母を殺した理由は私を逃したからだ。

 私は声を殺して泣いた。

 私はその時決意した。母のくれたこの好機を逃してはいけない。必ず逃げ切って、自分の道を進むと。

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