第7話 心を覗く者 覚 ー別れー
私の話を聞き終えて、
「ふむ、決意を固めてもお主の心の底に残る恐怖と不安か」
「決意を固めても恐怖や不安を抱えているなんて、恥ずかしいことだ」
「そんな事はない。強大な敵に追われておる中、恐怖や不安をなくすことなど誰にもできんことだ。恥ずかしがる事はない」
ふむと覚は唸る。まだ何か疑問が残るのだろうか?
「お主、ところで母の家はどこにあるか分かっとるのか?」
「知っている。浜栄という街にあると聞いている」
「ではその街のある県は知っとるのか?」
「……」
そういえば母にそこまで詳しくは聞いていなかった。
「知らんのか?それではたどり着くのは難しいだろうな。まあだが心配するな。その街がどこかは知っている」
「そうか、知っているのか。……そうなの!?」
普段からあまり素の表情は見せない私が、驚いて素を出してしまった。
「うむ。この道をまっすぐ進み、一つ山を越えた先に丁字路がある。そこを左に曲がり後は道なりじゃ」
「距離はどれくらいなの?」
「うーむ。だいたいここから十五里(一里が約3.9km)ほど行ったところだ。」
十五里。歩いて行くにはかなり遠い場所である。走っていけば数日で着くところなのだろうが、出来るだけ体力は温存しておきたい。この先何があるのか分かったものではないからだ。しかし、場所が分かっただけでも十分だ。
「分かった。ありがとう」
「お主、一つ助言をしておこう。この先もしも、お主が母の家で無事幸せに暮らせるようになったとしても過去を断ち切ろうとはするでないぞ。お主にあの屋敷での暮らしのほとんどは、おぬしにとって嫌な過去かもしれん。だが、だからといって、それを簡単に切ってはならん。過去の経験が、お主の今を支えている。それをよく覚えておけ」
覚はそういうと、私の前からどいて、道を開けた。
「行くが良い。立ち話をしておると、奴らに見つかるやもしれぬぞ」
「うん。話を聞いてくれてありがとう。少し気が楽になった。では」
私は、覚に頭を下げ、歩き出した。ずっとはなしていたからだろうか。既に夜が明け、少し空が明るくなっていた。私は進む。母のいた家に。
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