第4話 心を覗く者 覚 ー出会いー

 河童と別れた後、私は再びに戻り旅を再開した。

 道なりにひたすら進むと大きな集落に出た。集落に住む者は年老いた者ばかりのようで、若者と呼べる者はほとんど見かけない。

 放浪の旅をしていてこのような集落はよく見てきた。若者は都会に出たがるものが多いようだ。私にはまるで理解できないことである。

 集落をひと通り見て回り、私は見たところ一番広い道を選び先に進むことにした。

 進んで行くと、道の周りは杉林となっていた。地面にはトゲトゲとした杉の葉と枝が散乱している。

 所々先ほどの雨の影響で軽い土砂崩れが起きている場所があったが、道を完全に塞いではいなかった為、うまく避けながら進む。

 道をひたすらに進んでいると、目の前に大きな橋が現れた。橋の下を覗くと、濁流がまるで龍のようにうねり、ごおうごおうと叫んでいる。これも先ほどの雨の影響なのだろう。

 既にあたりは暗くなっている。天気の良い日ならば、このまま河原に降りて一夜を明かすのだが、とてもではないが今日のような日にそれは無理だ。暗くなるだろうが先に進んでもっと安全に休めるところを探すべきであろう。

 私は文言を唱え、青白い火の玉を作り出した。これで、暗い道でも歩くことができる。私は橋を渡り、暗い田舎道を進む。

 あたりはすっかり暗くなり、火の玉の近く以外は何も見えない。風で揺れる木々の葉がこすれあい、さわさわと音を立てる。朝に聞けば心安らぐ音に聞こえるが、この暗闇の中では不吉な音にしか聞こえない。早く今日の寝床を確保したいのだが、なかなか見つからない。

 はて、どうしようかと思っていると、がさっと草の中からなにかが目の前に飛び出してきた。

 私は、咄嗟に「何者だ⁉︎」と叫び、身構えた。

 何者かは何も答えない。ただじっとこちらを見つめているようだ。静寂の中私と何者かのにらみ合いが始まった。


「ほぉう。成る程。なかなか……」


 長い静寂を破るように何者かが喋った。一体どれだけの時間静寂の中にいたのだろう?恐らく、大して長い時間では無かったのだろう。しかし私にはとても長い時間がたったように感じた。


「儂はさとりという者。この山の中で暮らす妖怪じゃ。お主の名は、蓮。そうじゃなぁ?」


 何者かは私に近づいて名乗り、しかも、名乗っていない私の名前を言い当てた。なんとも気味が悪い妖怪だ。


「ふむ、気味が悪いか。まあ儂に出会った者は大概そう思うよのぉ」


「何故私の思ったことがわかる?心でも読んでいるのか?」


「うん?読んでいるというのは語弊があるのぉ。儂はただ、見とるだけじゃよ。お主の心の内をな。ところでお主、聞くが……」


 私はこの時、覚という妖怪に出会ったことに後悔した。


「何故、こうなるとわかって出家したのだ?」


 私の体にぞくっと凄まじい寒気が走った。


「それは……」


「……ふむ。相当なわけがありそうじゃな。話してみてはくれぬか?誰かに話した方が楽になる事もあるじゃろう」


 私は迷った。話してしまえば確かに、楽にはなるかもしれない。しかし……


「心配せんでいい。決して口外はせん。約束しよう」


 私の心を見て、覚は答えた。


「わかった。それじゃあ……」


 私は話し始めた。自分の過去を。放浪の旅をする事となった経緯を。

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